第26話 おいでませ!アルディオスの森へ!!人形狂い編2

「さぁ、侵入者さん、もっとわたちと遊んで下さいでちぃ」


 少女の言葉に、バーゼル兵の誰もが息を呑み、沈黙がその場を支配した。

 成人した女の遺骸の中から、美しい少女が現れるというあり得ない怪異を見せられたのだから当然だ。

 だが、四人のハンター達の反応は違った。互いに目配せ合いながら、何事かを囁く。


「特級首か……。この森で最悪な部類の札を引いちまったようじゃわい……。キキ、いけるかの?」


「私の実力じゃ、を発動させるのは時間がかかるっす。あの化け物の行動次第っすね……」


「しんどい話だな……。ルカ、さっきみたいな暴走だけはするなよ?」


「僕もそこまで馬鹿じゃないよ……」


 チラリとペロリアを見やる少年の足は小刻みに震えていた。

 ドグラはそんなルカの頭を小さく小突いて、口元をニヤけさせる。


「ビビんなアホタレ。お前らしくねぇだろ」


「……ごめん、ドグラ。でも、ありがとう」



 なんの反応も示さない侵入者達に、ペロリアは不満気な表情を浮かべると指先に魔力を集中させた。


「反応が薄いでちね〜。もっと驚いてくれても良いと思うんでちけど……。面白味のない人達でち」


 ペロリアは右前方に固まっている侵入者達に対し、おもむろに右手を横薙ぎに振り抜いた。五本の指先から、キラリと艶めく極細の糸状のものがたわむ。

 ペロリアの行動に注視していたドグラが、大声で叫ぶ。


「伏せろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 だが、彼の叫びも虚しく、ペロリアの標的となった五十人ほどのバーゼル兵達の上半身が輪切りとなって、崩れ落ちていく。

 何をされたのかも理解出来ず、仲間達が肉塊となった姿に、バーゼル兵達は絶叫を上げ、恐慌状態となった。

 そんな彼等を眺め、気狂いのように嗤うペロリアは、さらなる惨劇を求め魔力を高めていく。



「あっははははは! そう! その反応が欲しかったでちよ! 誰も彼も血肉を撒き散らしながら臓物を引き摺り出して殺してやるからもっと叫ぶでち!! "少女遊戯チャイルドプレイ"!!」


 宙に巨大な魔法陣が展開され、そこから体長六十センチ程度の数え切れない裸体の少女人形達が溢れ出す。


「さぁ! わたちの人形達、愚か者共の鳴き叫ぶ声に酔いしれながら踊り狂うでちよ!!」


 人間の皮を素材にしたであろう人形の身体には、人の顔らしきものが縫い付けられ、製作した者の正気を疑いたくなるような歪な造形をしていた。

 少女人形達は奇声を上げながら、それぞれの手に持ったナイフで、侵入者達に取り付き襲いかかる。


 圧倒的な物量でもって群がる人形達に抵抗するも、次々と無惨に殺されていくバーゼル兵。


「や、やめてくれっ!? あぁ……あ"あ"あ"あ"あああああ!!」

「お、俺の目がぁ…… 目がぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「嫌だ、嫌だぁ! 助けてくれ。助けてくれぇぇぇぇぇぇ!」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁ!! 腕を持っていかれたぁ! やめ、止めろぉぉぉぉ!!」


 人形達は、兵士達の体を弄ぶように肉を切り裂き、抉り、臓物を引き摺りだす。

 悲鳴、絶叫、奇声が交じり合い、大地と木々が生温い大量の血で染められていく。

 その様を眺め、ペロリアは身体を身震いさせた。

 恍惚の表情を浮かべながら未だ抵抗を続けるハンター達に視線を送る。


「うおおぉぉぉ! どんだけ湧きやがるんだ! この気色悪い人形は! 斬っても、斬ってもキリがねぇ!?」

「こいつら、ちょこまかとすばしっこくて、ウザすぎるっす!!」

「ドグラ、キキ、集中せい! チャンスは必ず訪れるはずじゃ!!」

「くっ! でも、このままじゃ捌き切れ無くなるのも時間の問題だよ!?」



 互いの死角を補えるよう背を預ける形で、ルカ、キキ、ドグラ、ラムザが襲い来る人形達を次々と斬り伏せていた。

 圧倒的な数の暴力の前に、徐々に追い詰められていくハンター達。

 肩で息をし、体の所々には斬り傷による流血がみられ、正に満身創痍といった感じだ。


「あば〜。流石、わたちの着ぐるみを壊した相手だけあって粘るでちねぇ。やっぱりわたちのコレクションに加えてあげてもいいかもでち。特にあの蒼い瞳をした少年……」


 そう独り言を呟くペロリアは、ルカを見定める様に凝視し自身の上唇を艶っぽくなぞると、パチンッと指先を鳴らした。

 人形達は、突如潮が引くようにハンター達から離れ宙に浮き漂う。


「なっ!? 人形達の攻撃が止みやがった……」

「うげぇ……。空に人形達が埋め尽くされていて気持ち悪いっす」

「あの子……何のつもりだろ」

「分からん……。じゃが、この間は有難い。キキ、準備をしておけよ?」


 ラムザの言葉に、コクリと頷くキキ。


「少し気が変わったでちよ〜。あなた達の相手はわたちがする事にしたでち。あの子達じゃ折角の良質な素体をズタズタの傷だらけにしちゃうでちからね」


 おどけるような仕草をする少女に、老ハンターは眉間の皺を寄せ嫌悪感を露わにする。


「良質な素体のぉ。ワシ等は、人形狂いのお眼鏡に叶ったという訳じゃな。虫酸が走りそうじゃわい」


「その口ぶりだと、お爺ちゃんは、自分達がどんな末路を迎えるのか理解しているみたいでちね」


「人間の中身をくり抜いて、その皮を素材にした人形を作っとるんじゃろ?あの宙に漂う人形達の様に……。わし等の業界で、人形狂いの悍ましい所業を知らん者は、ただの潜りか殻の付いたヒヨッコぐらいなもんじゃ」


「ふふふ。勘違いしないで欲しいでちよ~。あなた達の様な良質な素体を、あんな出来損ない人形の素材にするなんて勿体無い事はしないでちよ」


「ああん?どういう事じゃ?」


 ペロリアは口元を歪ませ、ぞっとするほどの冷酷な眼差しをハンター達に向ける。


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