第8話 マルゴレッタちゃんと古龍ちゃん5

 マルゴレッタは、ワフゥとナイトカインに向けておもむろに手をかざした。


「……平伏せでち」


 その言葉は、互いに攻め立て合う強者達の躰を硬直させ、天から得体の知れ無い力の圧に押し潰される様な感覚を覚えた。


「ぐがっ!?わ、吾輩の身体がっ……た、耐えられん!!」

「か、身体の自由が効か無い……まる、で……地に吸い込まれ」


 宙に留まっていたワフゥとナイトカインは、得体の知れ無い力に抗うことも出来ず、物凄い勢いで地に落ちると、身動きも取れず、無様に地面に這いつくばる形を取った。

 二人の視線の先には、ゆらりゆらりと歩み寄る小さな悪魔が、年不相応の妖艶な微笑を湛えていた。


「わたちの前では、何人たりとも命を粗末にはさせないでち……。言う事を聞かない悪い子はお仕置きなんでちよ〜」


「おおぉ……ぉぉ。神の御子よ……その、姿は……何という事だ……何という……」


 神の御子であるマルゴレッタの変わり果てた姿に、ナイトカインは愕然とした。

 艶々と煌めく黒髪の両側頭部に二本の小さな巻き角が生え、天使の如き煌めきを放っていたまなこが淀み光を消失させていた。

 身に付けたドレスだったはずの衣服が、テカテカと黒光るボンテージ姿へと変わり、幼女の未完成な身体のラインを曝け出す。

 その、姿、佇まいは正に女王様であった。


「神の御子……?わたちの事は幼女王様とお呼びでち!」


「がひぃぃいぃぃいいっ!!?よ、幼女王様あぁっっ!!!」


 雷撃を受けたかと思うような衝撃がナイトカインの全身を貫く。

 言葉にさえ圧倒的な魔力が篭るマルゴレッタの力にあてられ、自我すら支配され恍惚の表情を見せながら叫ぶナイトカインを尻目に、ワフゥは小刻みに震えていた。


「……昔の血が騒いで、はっちゃけ過ぎたわぁ。まずいわぁ……。凄く、まずいわぁ……」


「ワフゥちゃん……」


「ヒィッ!?」


 耳元で囁かれる幼女の甘美な声色に、脳髄を痺れさせ身体を跳ねさせるワフゥ。

 先程までの狂気に塗れた彼女の面影は一切なく、そこには伏し目がちに怯える哀れなバケモノメイドの姿が在るだけだった。


「……どうして、古龍ちゃんを見逃してあげてくれなかったんでちか?わたちが、あんなにおねだりしたのに……わたちの目の前で、あの子を殺そうとしたでちよね?」


「ご、ごめんなさいぃ……。中々にあの古龍が手強くて、つい……昔の悪い癖が……ね。そ、それに、あの古龍はこの森に侵入し、禁を犯したのよぉ……。アルディオスに仕える身として見過ごせる訳もなく……」


「言い訳は終わりでちか?」


 恐怖の余り、涙を浮かべるワフゥの目尻を指先で拭うマルゴレッタは無邪気に笑いかける。


「お仕置き……始めよっかでち♡」


「マ、マルちゃん……許してぇ……」


「ぶっぶぅ〜〜。ダメでち〜〜」


 マルゴレッタは、大きな動作で腕を交差させバツの形を作ると、ワフゥの身体が自分の意思とは関係なく操られ、強制的に四つん這いの形をとらされる。


「悪〜いワフゥちゃんには、お尻ペンペンの刑でち!覚悟はいいでちか?」


 振りかざすマルゴレッタの右手に魔力が集まり可視化すると、大人の十倍ほどに肥大化した魔力の手が、ワフゥの張りのある尻に目掛けて襲いかかった。


「許しっーーひぎいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!」


 バチコーンッ!!!と乾いた炸裂音が響き渡り、周辺の木々に佇んでいた鳥達が一斉に羽ばたいていく。

 引っ叩かれた衝撃で臀部辺りの衣服が破れ、真っ赤に腫れ上がり皮が捲れたワフゥの尻が晒される。

 マルゴレッタは自身の下唇をペロリと舐ると、もう一度、魔力の手を振りかざした。


「まだまだ、これからでちよ。ワフゥちゃんが本当に反省するまで、わたちは引張叩くのを止めない!でち!!から、安心するでち〜♡」


 小さな魔王の折檻に、ワフゥの絶叫が木霊するーー

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