第7話 マルゴレッタちゃんと古龍ちゃん4
「豚と犬。マルちゃんを連れて屋敷に戻りなさい。
「ブヒィ!!!」
「ギャイン!!!」
ワフゥは酷薄な笑みを浮かべながら古龍の元へと歩みを続ける。
彼女の放つ異様な威圧に、キングとクイーンはすかさず腹を見せ降伏のポーズを取ってしまった。
「ワフゥちゃん、お願いでち!!古龍ちゃんを殺さないででち!!見逃してあげて欲しいでち!!」
マルゴレッタはワフゥに縋り切望する。
身内の中で比較的まともなワフゥなら、自分の言葉を受け入れてくれると信じて。
だが、マルゴレッタはワフゥという人物の隠された素性を知る由もなかった。
マルゴレッタが産まれる以前、ある都市の人間全てをたった一人で跡形もなく喰いつくし、一夜で無人都市へと変えてしまった真性のバケモノがいた事を。
そのバケモノの名は魔王四天王が一人"暴食のワフゥ"。そんな無慈悲な行いをする彼女がまともである筈が無かった。
ワフゥの瞳に宿る狂気の色が、どろりとより一層深さを増していく。
「駄目、駄目よぉ。さっきも言ったけど、わたし、アイツを喰べたくて仕方ないの……。喰べたくて……喰べたくて……我慢出来ないのぉ……。ねぇ……マルちゃんいいでしょ?生きる為に、命を頂く事はしょうがない事なのでしょ?……それとも、マルちゃんは命を差別するのぉぉぉ?」
マルゴレッタは、自分の知らないワフゥの豹変ぶりに言葉を失い、唖然と立ち尽くす。
「……あらぁ。まるで、お人形ね。喰べてしまいたいくらい愛らしいわぁ……。マルちゃんが、あの方の娘じゃ無ければ、わたしはきっと我慢出来なかったでしょうね……」
おもむろに伸ばされたワフゥの左手が、マルゴレッタの頭部に触れようとした瞬間、不可視の風の刃がマルゴレッタの周りに渦巻き、鮮血が舞い散る。
飛び散った血がマルゴレッタの白い頰を紅く濡らしていく。
「触れるな!バケモノめっ!!御子は、貴様の様な下劣が触れて良い玉体では無いぞっ!!」
古龍によって放たれた風の魔法にワフゥは飛び引き、千々に斬り裂かれ失った左腕を見やり長い舌を出しながら背中から歪な翅を生やした。
「あはぁ〜〜っ。魔獣如きが言ってくれるわね。早々に
「先程は不覚を取ったが、今度は容易くは無いぞ!!吾輩の名は"風帝龍ナイトカイン"!!尊き神の御子を守護する風の王者也!!!
「トカゲ風情の名乗りなんてどうでもいいわぁ!!」
示し合わしたかの様にワフゥとナイトカインは同時に森の上空へと浮上すると、互いに初手から様子見無しの必殺の一撃を繰り出す。
ナイトカインは大きな口を限界まで開口すると、蒼白く渦巻く凝縮された魔力の塊を創り出し、ソレをワフゥに向けて放出した。
「滅びの風で塵となれっ!!"
「アハ〜ッ!!わたしの半身よ喰い散らかしなさいぃ!!"
ワフゥの右手に持った巨大な牛刀から苦悶の表情に満ちた人の顔らしきモノが無数に浮き上がると、ドス黒い魔力を吐き出し、牛刀に絡み付く。
ワフゥはソレを豪快に横薙ぎに振り払うと、剣閃から小さな黒い球体のバケモノを幾千も生み出し、ナイトカインが放った蒼白い魔力の塊を喰らい尽くさんと殺到した。
この世界の理から外れかけた超越者達の絶技がぶつかり合う。拮抗した力が暴風を発生させ森の木々や大地を激しく揺さ振り。黒い球体のバケモノ達が狂乱の声を上げた。
「お嬢!!!」
「姫ッ!!!」
立ち尽くすマルゴレッタにキングとクイーンが駆け寄り、避難を促す。
「早く、あっしの背に乗って下せぇ!!あのバケモノ供、ここいらを更地にするつもりでさぁ!此処にいたら巻き添えを食っちまう!!」
「姫!!そんな鈍足の豚に乗っても助かる命も助かりません!!さぁ、早く私の背に!!」
「誰が鈍足だっ!?雌犬、ゴラァァ!!」
「あら、ごめんなさい。豚足だったわね!!」
「……う……さ……でち」
再び、いがみ合う二匹にマルゴレッタは、聞こえるか聞こえないか微妙なトーンで言葉をこぼした。
キングはマルゴレッタの顔を覗き込む。
「お、おじょ……っひ!!?」
マルゴレッタの美しい金髪が、徐々にくすみ出し艶のある黒に染まりだす。
「……どいつもこいつも、ケンカばかり。……わたちの前で命を粗末にしやがるでち」
頭部から二本の巻き角が生え出し、蒼い瞳から光が堕ちていく。
「命の重さを理解出来ない頭の悪い子は、わたちが徹底的に指導してやるでち」
幼女は底冷えするような微笑を浮かべる――
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