第9話 ご令嬢の魔法講義

 アスタルテと話してその次の日。今日はミルエット伯爵令嬢をお迎えする日だ。アスタルテからの前評判だとだいぶ、フレンドリーな方らしい。


「ごめんくださーい」


 事務所の玄関から少女特有の高い声が聞こえる。だが、孤児の声ではないのは、ジンには分かった。声の主を迎えに玄関を開ける。


「ようこそいらっしゃいませ」


 ジンが扉を開けた先には美少女が佇んでいた。透き通るくらい薄い桃色の髪に綺麗な顔をしていて生気と活気にあふれている。アスタルテよりも年上の様で、彼女よりも身長が高い。と言っても、普通の領域だ。因みに、ジンの身長はアスタルテよりも低い。必然的に彼女を見上げる必要がある。


「お出迎え感謝します」

「いえ、お越し下さりありがとうございます」


 美少女へ組織の代表としてジンが挨拶をする。


「話には聞いていましたが、本当にあなたが此処の代表をやっているんですね」

「ええ、何か失礼がありましたら申し訳ないです」


 ジンは美少女を応接室に案内した。お茶の用意はアスタルテが行い、ジンと彼女が対面で座った。


「それで、事前に聞いていたかもしれませんが私の名前はヘレン=ミルエット。ミルエット伯爵の長女です」

「【ニホン・インサツ】代表のジンです。家名は無いです」

「はい、事前にアスタルテから聞いています。これから暫くの間、よろしくお願いいたします」


 ジン達は今日からヘレンに魔法、魔道具について習うことになっている。というわけで、今から会議室で授業である。


*  *  *


 ジンは事前に用意した黒板もどきとチョーク、黒板消しをヘレンに渡す。講義が始まる。


「さて、初めましての人もいるでしょうけど、私の事はヘレン先生と呼んでくださいね」

『はーい!』


 会議室にはアスタルテ、ジンを含めて七人程いる。彼らはヘレンの講義を受ける人間だ。因みに爺さんは講義を受けないで、仕事中である。


「先ず、魔法についてお話ししますね。魔法は魔力を使いたい魔法の属性へと変化させてそれに命令を送る事で使った魔力量に合わせて命令通りに魔力が変化する事で魔法が発動します」


 そう言って、ヘレンは「風よ、吹け」と唱えると、教室中に優しい風が吹いた。


「魔力が変化できる属性は基本の火、水、風、地、氷、雷と例外の無の七つの属性があるけど、例外的に聖の属性への変換を行える人間もいます。無以外の各属性は名前通りの現象を操るんだけど、無だけは少し特殊なんだよね」


 ヘレンは一拍置いて、無属性の魔法について話す。


「無属性は基本的な六属性以外の属性の事ね。詳しく言うと他の属性と混ぜ合わせやすい属性だったり、適性を持つのが希少な属性だったりの総称の事なんだけど。まぁ、そこまで気にする事ではないわ」

「混ぜ合わせる?」

「変換した魔力は混ぜ合わせる事で、合成した魔法を使うことが出来るの。例えば、こんな感じ」


 ヘレンが呪文を唱えると暖かい風が室内を流れる。これが合成した魔法なのだろう。


「今のは火と風の魔力を合わせた魔法で、風の割合を少し強くしてみたの」


 ヘレンは次の説明に移る。


「次は各属性の適性に関して話すね。適性は魔力の変換のしやすさの事ね。火の適性を持つ人は火の魔力へ変換しやすい。別に適性を持ってなくても変換は出来るけど、もっている人と比べると効率は悪いかな」

「適性はどうやってわかるんです?」

「冒険者ギルドで簡単に測ってもらえるよ。まぁ、魔力を操る技量がすごい人には適性はあんまり関係ないんだけどね」

「ほーん」

「因みに基本の六属性は攻撃だけじゃなくて体を治すために回復をさせる事もできるの。だた、回復に適している適していない属性っていうのもあるよ。回復に適している属性は最適が水でその下に氷、風、地、火、雷の順に弱くなっていくの。攻撃はその逆ね」

「聖は何かあるんですか?」

「あー、それは例外なの。聖は色々特殊だから説明は後回しにするわ」

「はい」


 そこからは無属性について説明を受ける。


「無属性で代表的なのは強化、光、後は闇ね。強化は能力を強化する属性ね。単体でも活用は出来るし、魔法と組み合わせても利用可能な属性ね。光と闇は言葉通り二種の属性を操る魔法ね。他にもあるらしいけど、正直研究が深く進められていないから私もそこまで詳しい事は分からないわ」


 無属性はよく分からないとの事らしい。


「ここまでが魔法についての基礎知識。魔法を使うにはこれだけ知ってもらえれば十分よ」


 魔法の講義はこれで締めた。


「では、ここからは依頼されていた通りに魔術につての講義ね」


 そう前置きしてヘレンの魔術の講義がスタートする。


「と言っても説明することは少ないんだけどね。基本的に魔術は魔方陣を使用して発動する魔法の事なんだけどね、僻地では陣法とも言われているらしいけど、まぁ、これはどっちでもいいわね」


 次に魔方陣の書き方についての講義。


「魔方陣は最初に二重の円を描くの。それで外線と内線の間に発動したい魔法についての情報を書いていくの。ココにはどんな事を書いても大丈夫。けれど、ちゃんと発動内容を詳細に決めないと魔方陣は馬鹿みたいに効率が悪くなったり、そもそも発動しなかったりするから気を付けてね。そして、内容が二つ以上ある場合は各内容同士を栓で結ぶのこれで魔方陣の形は完成」

「形って事は?」

「お察しの通り、形だけ作っても意味はないの。使える魔方陣を描くためには魔石を溶かし込んだインクかチョークを使って書かないといけないの、加えて魔道具を作るためには魔力で魔方陣を描いてそれを魔石に封印する必要があるわ。維持と加筆でバンバン魔力を使うことになるわ」

「魔道具って難しいんだな」

「そうね。でも、こういった札なんかは札自体が破損していない限りは書くだけでいくらでも使えるよ」


 魔方陣の書かれた札を取り出すと、それに魔力を籠める。すると、強めの風が吹く。


「おー」

(印刷で荒稼ぎできそうだな)


 関心と同時にそんな事をジンは考えていた。

 そこから数時間ヘレンの講義を聞いていた。

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