第6話 爺さんの知恵

 爺さんをスラムの拠点に連れてきた。爺さんは中々に整っている拠点を興味深そうにしている。


「親分、その人は?」

「商売を次の段階に行こうと思ってな、その助言役だ。先ずは風呂に入れてやれ」

「はいー」


 数人で爺さんを持ち上げて風呂場になっている部屋に連れていく。服も一応あるので用意をしておく。

 十数分後、爺さんが体を洗い終えて戻ってきた。体は悪くなっていないようで背筋がピンと伸びて体幹も安定している。


「よし、髪と髭を整えよう」


 ジンはそういって、鋏を取り出して髪と髭を整えていく。ボサボサだった毛をそぎ落とし、スッキリさせた。髭を剃るには道具が足りないので、髭は短く整えカイゼル髭にしてみた。顔立ちも男前だ。名前は聞いていないが、聞く必要も低いだろう。


「おお、上手いな」

「ありがとう。で、これからの事なんだけど」

「ああ、話してくれ」


 そう言って、ジンは目的を話す。ジンが商売をするうえでの目標は三つ。


・大衆浴場の建設

・大規模な拠点の制作

・販路を世界中に広げる


 これを目標にして勢力を拡大して勇者の出現にも備える。


「なるほどな。先ずこの国で店を出すには、いや、この地方で店を出すためにはギルドに登録する必要がある」

「冒険者ギルド?」

「いや、商業ギルドに登録する。この地方にはいくつもギルドはあり、商業ギルドも冒険者ギルドもその一つだな」

「ギルドってそもそも何なの?」

「簡単に言えば、加盟者たちが情報共有、仕事の仲介、斡旋を行うための組織だな」


 爺さんは分かりやすく、ジンの目的のためにどうすればいいか話してくれた。


「登録する為には事業の内容を書かなければならない。取りあえず、事業の詳細を決めよう」

「先ずは紙の生産と、印刷術を利用しての広告」

「手始めがそれか、資金はあるのか?」

「まぁ、溜めていたのがあるし、施設は場所があればすぐに生産に移れるようにはしている」

「なら、問題は場所と知名度だな」


 爺さんには初めて聞く言葉が多かったが、頭を整理して問題点を洗い出す。


「場所に関しては心配ないだろう。ココはスラム街。廃屋を潰しても誰も文句は言うまい、騎士や巡回兵も特に問題はしないだろうな。勢力争いに負ければ面倒だが、どうにかできるか?」

「腕利きは多い。大部分とは言えないが、それなりの範囲は確保している」

「子供だけに見えるが?」

「黒いカードを持っている冒険者位なら、一対一サシでもやり合える」

「そんなに強いのか」

「まぁ、鍛えたな」


 爺さんは驚いているが、取りあえず、頭を切り替える。紙と書く物をジンに要求する。


「はい、どうぞ」

「広さのある。倉庫の設計図を引く」

「定規もどうぞ」

「おう」


 一先ず、爺さんに建物の設計を任せ、ジン達は場所の確保に動く。範囲内の全ての廃屋の資材を確保していく。

 数日かけて全建物を解体し、並行して勢力を拡大して資材を用意していく。木材と石材を大量に用意し、爺さんが描いた設計図と照らし合わせると三棟分は建てられる資材が集まった。広げた土地も、三棟分の倉庫は建てられるだろう。


「じゃあ、地盤を固めていこう。地属性の魔法で地中深くまで固めてくれ」

「はーい」


 何人かで交代制で代わる代わる土地を固めて、地盤をしっかり安定させる。


「爺さん、もう少しこの設計で詰めたい所がある」

「分かった」


 爺さんの設計はこの世界では最新式なのだろう。けど、日本式の建築を齧っていた亮の視点から見ると、色々改善点もある。そこら辺の相談をしていく。

 倉庫が完成したのは、そこから二ヶ月経った頃だった。

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