第4話 路地裏修練、表は騒ぎ

 朝、ジンは誰よりも早く目を覚まして、体をほぐすようにストレッチする。そのまま体を動かし続けて、朝食の準備に取り掛かる。数分後、朝食のにおいにつられたのか、次々と目を覚ましていく。皆で、朝食をとって休憩をはさむと、ジンに召集された。


「今日は訓練をする。まずは、肉体を鍛えるために素振り、走り込み、筋トレをしてもらう。やり方は、俺が説明するからその通りにしてくれ。何か質問はあるか?」

「はい!」

「なんだ?」

「何で、そんな事をしないといけないんですか?」

「お前らは、弱い。体も弱ければ、心も弱い。これから先、俺がいないときだってある。そんな時、弱ければすべて奪われて終わりだ。だが、ここで訓練しておけば、お前らが冒険者なり、なんなりになったときだって、役に立つはずだ。俺はお前たちに生きられる術を教えてやる、だからそれを使ってお前らはこの世界を生きろ。以上だ、分かったな」

「うん。何となくわかった」

「よし、今はそれでいいや。では全員、足に布を巻け! これから走り込みに向かう!」


 ジンがそう言うと、孤児たちは布を自分達の足に巻く、ジンに先導されてスラム街を出て、森の方へ一定のペースで走っていった。スラム街で生きてたのが、効いているのか、全員がジンの進むスピードに付いて行き、森の入り口に到着した。ジンはそこから、曲がって草原に出ると止まり、そのまま木剣を出して、一本ずつ取らせ素振りを指導し始めた。


「握りが甘い!!」「腰を落とせ!!」「脇を閉めろ!!」


 そんな風に、剣の指導を一人ずつ見ながら、声をかけていく。孤児達は、最初は嫌そうな素振りでやっていたが、特に他にやることがなかったのと、ジンからの熱心な指導に折れたのか、途中からは真面目に木剣を振り続けた。


 その様子を、街道から見ていた冒険者のような人は、面白そうにヤジを飛ばしてみていたが。ジンが「反応するな、素振りに集中しろ」と声をかけたことで、その声を無視して素振りを続けた。冒険者は白けたのか、そのまま森の中に入っていった。

 昼頃になると。


「やめ! これから昼食にする。準備するから、枯れ木を集めてこい」


 ジンはそう言って、自分は木箱と同じように集められていた樽の中に水を入れて、小さい火の玉を作って樽に引火しないよう、水を温める。充分にあったまると、肉を入れて出汁を取って、野草を入れ、塩を入れて味を調えた。そうして、前日に作っていた木製の器によそい、味見する。


「何とか、食えるか」


 食べられる味であることを確認して、皆が帰ってくるのを待ちました。

 数十秒後、皆が帰ってきた。そうして、作ってあったスープを見つけ、ジンに声をかけた。


「親分、今日の飯は何?」

「スープ作ったから、其処にある器を持ってこい」


 孤児達は、ジンに言われたままにそばに置いてあった器を取って、ジンにスープをよそってもらっていく。そうしてスープをたらふく腹に収めて、ジンは枯れ木を担がせて孤児たちを、スラム街にある自分たちの拠点に返した。

 拠点に帰ると、ジンは数字や計算の仕方を教え始めました。この世界の文字は分らなかったので、しょうがなく日本語の数字を教えることにした。はじめは授業についていけない子もいたが、それでも何人かの生徒は授業の最後にジンの言ってることが理解できていました。

 ジンは、今日のうちに集めていた大きめの石を出して円柱状に積み上げていき、その上に昨日使った板を載せてその上に樽を置きました。そして樽の中に水を入れて、火の玉を入れて水を温め始めました。一、二分してお湯ができると、孤児たちを呼んで、一人一人に布を渡しました。


「お湯をかけるから、服を脱げ。その布でかけられた奴から、その布で拭いていけ」


 孤児達は、戸惑った様子でしたが。一人ずつ並び、ジンにお湯を掛けてもらいました。初めての体験でしたが、お湯は気持ちがよく、体についていた垢や泥を流してくれたので、スッキリした気分で眠ることができました。

 ジンは、自分には実験もかねて魔力を集めて、お湯を作るように命令しました。すると適温にあっためられたお湯が出て、樽に入っていく。きりのいいところでとめ、寝ている子たちを起こさないように体を洗った。その日はスッキリした気分で、寝ることができた。


*  *  *


 ジン達が訓練に出かけていた日。

 その日は王都のギルドで、それなりに大きな騒ぎが二度起った。一つ目はベテランの冒険者が、全裸にされて放置されていたこと。二つ目は、王都近郊の森で、その森にある泉の主であるベータポイズンスネークの頭が見つかった事でした。


 二つの事は、冒険者ギルドでちょっとした騒ぎになっていた。

冒険者の質は、ランク分けされていて下から、8級、7級、6級、5級、4級、3級、2級、1級、特級、超級の10段階に分かれていて、それに応じてギルドは依頼を出していました。魔物のランクも同じように分かれていて、その段階も同じように10段階で、調査、割り振り、査定も行われています。

 今回の冒険者は、ギルドのランクで言えば3級。現実的に取れるランクとしては最高で、一流といわれるベテランの冒険者だった。暴力的で、粗暴な男であったが、ソロでも十分に3級の冒険者としてやっていけると言われてるくらいの腕前はあった。そんな男が、全裸で路地裏に放置されているのだ、騒ぎになるのも無理はない。男のパーティーの仲間は、“賭けで負けたから、スラムのガキで憂さを晴らす”と言ってスラム街に行ったと聞いたと答えたが、さらにギルドの職員は首を傾げました。


 もう一つの問題は魔物の首だけが見つかった事である。魔物の名前はベータポイズンスネーク。その頭が見つかったのは騒ぎになり、誰もが首を傾げました。原種であるポイズンスネークは4級に指定されているものの、今回見つかった頭はその亜種の物であり、そいつは3級の中でも中位になるほどの危険性を持っていた。全裸にされていた冒険者のパーティーで討伐に行く予定であったが、急遽取りやめになっていて、その直後に頭が見つかりかなり騒ぎになった。見つけたのは、冒険者はなりたてのルーキーであり、お世辞にも強いとは言えない実力だった。実際に自分達で討伐したのではなくて、たまたま見つけたのだと証言している。


 “では誰が、やったのか?”それはギルドの職員、誰もが疑問に思ったことだが。如何せん情報が少ないため、どちらの問題も解決には至らず、そのまま未解決になった。

 問題とは言えないが、奇妙なことも起こった。


 近郊の森で、スラムの孤児たちが、木剣を握り剣術の指導をされていた。大人の冒険者等が、お遊び程度やっているのであれば、そこまでおかしい事ではないが。教えていたのは、同じくらいのボロボロの、スラム街の孤児であった。それに加えて教えているのは、かなり実践に準じた剣術だったため。そのことが、奇妙に映りギルド内の冒険者に噂話は広まっていた。夕方には、その場には誰もいなかったため、奇妙なもんを見たと、多少騒がれただけに終わった。

 そんな光景が、数日続き。次第に人数も増えていき、一ヶ月経つ頃にはすっかり日常の風景になっていきました。冒険者の中には、ちょっかいを出すような奴もいたが、そういう奴は多くの無言の圧力によって何もせず去っていき、次第にジンの作った勢力は有名になっていきました。

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