怪談袋

石原陽光

第1話 洋一さん

私は元介護士で住宅型有料老人ホーム、簡単にいうと高齢者がそこに住む形の老人ホームで働いていた。

老人ホームは5階建てで2~4階が入居者の居住スペースだ。


その入居者の中に間中早苗(仮名)という方がいた。その方には夫の洋一さんという方がいて幸子さんが入ったあとに洋一さんも入る予定だったが

それが叶わず死去された。


早苗さんは認知症がひどくスタッフを見かけるたびに洋一はどこ?と聞いていた。勿論洋一さんが亡くなったとは言えないので聞かれるたびに我々スタッフは

「仕事が忙しいから一緒に待ってましょう。」と声掛けしていた。


そんな日が続いていたある日のことだ。私はその日夜勤で早苗さんがいる階の担当をしていた。深夜、入居者たちに異常がないか巡視して早苗さんの部屋に入ると


早苗さんはパジャマを脱いで外に出かけるようの服装をしてベッドの上で正座していた。私は目を疑った。


すぐに幸子さんに

「どうされました?」

と聞いた。すると幸子さんは嬉しそうな顔で

「洋一さんが迎えに来るのよ」

といった。


「さすがに今は深夜ですから来ないでしょう。」と私は言うと

「そんなことないわ、ほらそこに」

とカーテンで閉められた窓を指差す。その瞬間


窓をノックする音が聞こえた。

私は耳を疑った。なぜなら


そこは3階でベランダもないからだ。


カーテンで閉められて向こうは見えない。しかし見たら最後恐るべき事態に陥ってしまう。私はそう察した。すると早苗さんは窓辺に行こうとし始めた。私は早苗さんを押し留めた。

早苗さんは「離して!洋一に会うのよ!」といつも穏やかな彼女が見せない様子で暴れた。早苗さんは小柄な体格で筋肉もないのに力が強かった。


それでも留めて3分後


ノックの音はやんだ。

すると早苗さんは落ち着きいつものように

洋一はどこー?と言った。正直私は今まであんなに騒いでたのに忘れたのかと思いながらも朝になったら来るからひとまず寝ましょうと言って寝かしつけた。


これを上司に報告すると

上司はため息をついたあと、このようなことを教えてくれた。


前にそこに住んでた入居者は夜間に急死したがなぜか窓辺に倒れていた。その方は一人で歩行ができずベットから窓辺まで距離があるのに。


そして急遽早苗さんを別の部屋に移して前に住んでいた部屋を閉鎖することが決まった。

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