引きこもっているだけなのに、学園一の北欧美少女が俺の義妹になった
つくも/九十九弐式
引きこもりの俺に北欧美少女の義妹ができた
それは中学一年生の時の出来事であった。
「おい……見て見ろよ、あれ」
「ん? ……あっ、あれは――」
クラスの男子達が、窓辺から熱心に校庭の方を見ていた。
その動きに釣られるように、俺の視線も自然と校庭の方に向いてしまう。
視線の先にいたのは、金髪をした美少女の姿であった。雪のように白い肌をし、整った容姿をした美少女。彼女は体育の授業中という事もあり、体操着を着用していた。
外国人という事もあり、当然のように日本人とは異なった容姿をしている。顔立ちが整っているのは勿論であるが、体付き(プロポーション)もまた、整っていた。
無駄な肉はないが、出るところは出ていて、引き締まっているところは引き締まっていく。無論、それは中学一年生の範疇ではあるが……。これから芳醇に育っていくだけの可能性(ポテンシャル)を十分に感じさせる逸材でもあった。
アリサ・エルグレッド。
それが彼女の名だった。
アリサは高跳びをしていた。誰よりも高く設置された、下手をすると男子よりも高く設置されたハードルを彼女は楽々と跳んだ。
見事に高跳びを成功させる。
「凄い! エルグレッドさん!」
「男子でもこんなに高く跳べる人いないよ!」
周囲の女子が彼女に詰め寄ってくる。
「大袈裟よ……このくらいの事で」
彼女はそんな事を気にも留めていない様子だった。彼女からすれば当たり前の事であり、大した事でも何でもないのだろう。
彼女は外国人という迫害されやすい立場であるにも関わらず、完全にクラスに溶け込んでいる様子だった。
北欧人の両親を持つ彼女は、容姿端麗というだけではなく、その恵まれた運動神経から運動部からひっきりなしの勧誘に合っている。さらに学業成績も優秀であり、天からも二物も三物も与えられし、言わば選ばれし者であった。
「いいよなぁ……アリサさん」
当然のように、見目麗しく、学業や運動にも秀でた彼女に憧れている男子生徒は多い。
「俺、思い切って……告白してみようかな」
「無理だろ……やめとけよ。三年の後藤先輩いただろ?」
「ああ……後藤先輩。サッカー部のエースで生徒会長の……」
サッカー部の後藤。興味はないが聞いた事はあった。どこの学校でも一人くらいはいるだろう。女子に異様な程人気がある……見た目がいい、運動もできて、学業も優秀。男版のアリサみたいな奴だ。つまりは俺とは正反対で、無縁の存在。
「アリサさんに告白したけど、あっけなく撃沈したらしいぜ」
「マジか……まあ、俺じゃ釣り合うわけねぇよな。後藤先輩でもダメとか、どれだけ理想高いんだろうな」
「どれだけ理想高いかわからねぇけどよ」
「まあ……俺には無理なのは確かだ。夢っていうのは儚いもんだな……」
聞こえてきた会話の通り、アリサは上級生、同級生を問わず男子の人気が高い。そして、彼女の心を射止めようと無謀にも挑戦し、撃沈してきた男子生徒は数知れなかった。
つくづく思った。世の中というのは不公平であると、俺と彼女は対照的であった。俺には何もない。容姿に優れてもいなければ運動ができるわけでも、勉強ができるわけでもなかった。
俺にとって、彼女は雲の上のような存在だった。彼女には輝かしい人生が約束されている。対する俺のこれからの人生にはロクな事がない事が確定していた。
それからの俺の人生は散々だった。
俺はクラスで馴染めず、執拗ないじめにあった。極め付きは母を事故で亡くした事だ。
立て続けに不幸な出来事に見舞われ、俺はもう学校に行くのが嫌になった。当然のように俺は学校に行かなくなった。それから俺は完全に引きこもりになった。
家にこもりっきりで、基本的には自室で過ごすようになった。買い物は基本的に父親をパシリとして使うようになり、自室でひたすらにネトゲをして時間を潰すようになった。
自分でも思う。はっきり言って、ただのゴミ屑みたいな生活を俺はしていた。一度しかない10代の貴重な時間を俺はドブに捨てたような生き方をしていた。
同年代の人達が輝かしい青春を謳歌していると一方的な想像をして、無意味な劣等感に苛まれていた。勿論、皆が皆、順風なわけでもないだろう。
現実に打ちのめされ、挫折したり苦しんでいる人達もいるだろう。だが、当時の俺にはそんな事は見えていなかった。一方的に輝いた人生を歩んでいるんだと決めつけ、想像し、そして妬んでいた。羨んでいたし、そんな連中を憎しんでもいた。
そんな悶々とした人生を歩んでいた時の事だった。
「……真治」
父親が扉越しに、俺に声をかけてきた。
「ん? ……なんだよ、親父、今ゲームが良いところなんだよ! 話かけてくんなよ!」
俺は父親の言葉に耳も課さずに、プレイ中のネトゲに夢中になっていた。
「重要な話があるんだ……」
「重要な話ってなんだよ……言っとくけど、俺は学校には行くつもりはないからな」
当然のように、父親は息子が引きこもっているこの状況を良いと思っていたわけがない。何とかこの状況を脱しようと、色々と試行錯誤をしてきたが、全ては無駄だった。
俺のような陰気な人間にとっては学校というのは地獄のような場所なのだ。今でも行きたいなんて到底思えない。
「そうじゃない……そんな事じゃ。行きたくないなら無理に行かなくてもいいさ。お前の人生なんだから」
父は優しい口調でそう語りかけてくる。どうやらこの引きこもり生活をやめさせよう、というわけではないようだ。
「だったらなんなんだよ! 重要な話って!」
「実はな……父さん、お付き合いしている女性がいて、その人と結婚するつもりなんだ」
「へぇ……」
なんだよそりゃ。息子の俺が引きこもって、悶々としているっていうのに、実の父親が新しく女を作って、それなりに楽しい人生を歩んでいる、っていうのか。同じ親子でありながらも、あまりのギャップに俺は軽くショックを受けた。
「相手方も配偶者を亡くしたばかりで気が合ってな……こう、トントン拍子で話が進んで……勿論、父さんも気にはなったよ。家には色々と問題があるからな……」
父はそう語ってくる。『色々』と言っているが、その問題とは一つしかない。要するに息子が引きこもりの不登校児という事だった。父にとっては息子である俺は脛の傷みたいなものなのだろう。
「だけど、相手方はそれも踏まえた上で一緒になってくれるそうなんだ。それでお前さえ良ければ一緒になりたいんだが……どうだ?」
「どうだ、って……別にそれは親父の問題だろうが。俺には関係がない」
「関係ない事もないだろう……一緒に暮らすんだから。お前にも影響はあるよ」
影響って言われても、基本的に俺は自室に引きこもっているんだ。最低限、排泄くらいはトイレに行ってりはするけど、食事も自室で取ってるし。年一回程度、稀に風呂に入るくらいのものだ(汚いとか言うな……自覚しているんだからよ)。それも極力父と顔を合わせないようにタイミングを見計らっている。
滅多に顔を合わせる事もないだろうし、差ほど大きな影響をその時の俺は感じなかった。
「……良いよ。別に俺は問題ない。親父の好きにすればいいさ」
正直、負い目があった。母が亡くなり、俺が引きこもりとなった事で父は孤独だったのだろう。母が亡くなったというショックは父にとっても同じように、大きな問題だった。それなのに、息子である俺は外界との接触を絶った。それは父も例外ではない。あの日から、俺は父とろくにコミニケーションを取って来なかった。
だから俺は父に結婚するような関係の異性がいる事すら、今の今まで知らなかったのだ。
そうやって関係を絶ち、父を孤独にさせてしまった責任は俺にもあった。それが俺の負い目だったのだ。だから、再婚する事で父の心の傷が癒えるのだったら、それに越した事はないし。俺に父の再婚を反対できるはずもなかった。
「……そうか。だったら良かった。またお前に紹介するよ」
そう言った父の口調は、さっきまでよりも少し明るくなった気がする。
紹介? ……何を言ってるんだ。どうせ、俺は引きこもっているだけだ。ろくに顔も合わせないんだから、紹介なんてする必要もない事だとしか思えなかった。
その時の俺はまだ知らなかった。父親の再婚相手が誰なのかすらも知らなかった。そしてその再婚相手に連れ子がいる事も。
そしてその結果——あの雲の上の存在だと思っていた、アリサが俺の義妹になるなんて、その時の俺は想像すらしていなかったのである。
◆◆◆
作者です。お読み頂き、ありがとうございます。こちらの作品はカクヨムコン7のラブコメ部門に参加しており、是非、☆を入れて応援して頂けれると嬉しいです。
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