第十八話 遺跡探索
「それにしても、この天井の高さって……どれくらい地面の下に潜ってるんでしょう?」
「地霊を祭るために作られたものにしては、すごく大がかりなものに思えるけど……」
「どんな経緯で作られたのだろうな。この辺りを治めていた人物が作ったとしたら、祭礼を近隣の人々に一任しているのは何故なのか……時間の流れによるものなのか」
三人が後ろで話しているのを聞きながら、足音が響く広大な廊下を歩いていく。
左右の壁には壁画が描いてある。棒人間が踊るような姿――これはさっき、リスティたちが披露した舞の振り付けを表しているらしい。
「これは……多分、地霊の祭壇に向かう人々と、そこで舞いと音楽を捧げる人を示しているんだな」
「そういうことなのかしら……この、輪を描いてる人たちの真ん中にいるのが地霊様?」
「これって……二人いないですか? 大きいのと小さいのが描いてありますけど」
「――待った。そこの床だが、何か仕掛けがありそうだ。踏まないように
平坦に見えた廊下の床に、かすかな起伏と溝がある。
こういった遺跡には、侵入者を阻むための罠がつきものだ。踏んだら即死というものもそうは見ないが、用心するに越したことは――。
「またぐって、ここのところを? じゃあ、ジャンプした方が良さそうね。えいっ」
「っ……と。問題はなさそうだな」
リスティ、プラチナとクリアしていく。そして最後のナナセもそれに習った。
――カタン、と。
「えっ?」
「ん?」
「あれ?」
ナナセの踵がギリギリ引っかかっている――ライトポーションを持っている彼女は、逆に光が強くて足元が見えにくかったのだろう、それは分からないでもない。
「っ……な、なに?」
地鳴りのような鳴動。側面の壁がこちらに迫ってきている――それはもちろん気のせいではない。
「――走れっ!」
「し、仕掛けが動いちゃったの……!?」
「このままでは潰される……っ、ナナセッ!」
「み、溝に引っかかっちゃいました……っ、衣装の飾りが……っ」
「リスティ、プラチナ、行けっ!」
ナナセは俺がなんとかする、そこまで言っている余裕はなかった。手刀で引っかかった衣装を切るが、ナナセはすぐに動き出せない。
「俺が背負っていく、乗れ!」
「は、はいぃぃっ……!」
「よし、しっかり捕まってろ!」
ナナセの前に屈むと、彼女がおぶさってくる。かなりの勢いでしがみつかれるが、それくらいはどうということはない。
「――うぉぉぉぉっ……!」
「マ、マイト、速っ……あぁぁぁ!」
「ま、負けてなるものっ……速……ぁぁぁぁっ!」
リスティとプラチナを追い抜いていく格好になりかけたが、二人を両腕に抱きかかえて走る――その方が速いというのもどうかと思うが、実際速いのだから仕方がない。
迫ってくる壁から逃れると、今度はがらんどうな上にも下にも広い空間に出て、道がやたらと細くなる。足を踏み外したら終わりだ――だが今は無心になってひたすら走る、広い足場に出るまでは。
「っ……だぁぁぁっ!」
幸いにも広い足場が見えて、最後は気合の一声と共に飛ぶ。着地したあと、すぐに三人を下ろすわけにもいかず、そのままで息をつく。
「……大丈夫か、みんな」
「しゅ、しゅみません……私、こういうのに凄く引っかかりやすくて……」
「……ちょっとドキドキしたけど……あの壁、完全に閉まるわけじゃなくて、すごく細くなるだけみたいね」
「それはどうかな……マイトがこの速さで抜けてくれたから、閉まる前に抜けられたのだろうし……」
「とにかく、切り抜けられてよかった。三人とも、そろそろ下ろすぞ」
「あっ……す、すみませんっ……!」
左の腕に抱えたリスティ、右の腕に抱えたプラチナを下ろす。ナナセも慌てて謝りつつ、ほぼ滑り落ちるようにして俺の背中から降りた。
無心で駆け抜けてきたが、どんな地形だったのだろう。そう思って、俺は何気なく振り返る。
「っ……マ、マイト、待てっ、今は……!」
「ん……うわっ!」
振り返ろうとして、そのまま回転して再び元の方向に戻る。
「ご、ごめんね、マイト。衣装がずれちゃって……」
「致し方ないこととはいえ、このままでは支障があるのでな……ナナセ、紐を結び直すぞ」
「すみません、私のせいで……許せないですね、地霊の遺跡……乙女の敵です」
「ま、まあ……次からはああいう系統のトラップは踏まないように、念を入れて対処しようか」
「は、はい……お願いします、私自身の運動神経をなんとかしたいですけど。敏捷性のポーションはまだ私のレベルだと作れないみたいで……」
レベルが上がるタイミングにもいろいろあるが、『何かを達成したとき』『冒険を終えて宿で休んだとき』が多いとされている。今回のクエストでレベルが上がるといいのだが。
「……プラチナ、これで大丈夫そう? 見えてない?」
「大丈夫だ、問題ない。マイト、待たせたな」
「よし……探索を再開するぞ。といっても、もうゴールが近いといいんだが……」
一本橋のような地形を抜けた先。アーチ状の短い通路を抜けると、そこは広い部屋だった。
部屋の中心には、岩の塊を積んで作ったような人型の像がある。これは見たことがある――もしゴーレムだとしたら動き出しかねないので、三人が近づきすぎないように制止する。
「これが地霊様の本体……っていうことなの?」
『よくここまで来た、大地の子らよ。褒めてあげよう』
「っ……この声は、どこから……」
「大地の子……まさか、地霊の声なんですか……?」
祭壇の近くで聞いた声と同じ――やはり、地霊には地上にいる俺たちが見えていた。
「……無断で入ってきた無礼を、まず謝らせてください」
それは言っておかなければならないだろう――そう思って言ったが、地霊が鷹揚に笑った気配がした。
『ここに入って来られたということは、鍵を手にしたのだろう。それ自体は詫びることではないよ。失われたと思っていた鍵が存在していたのは、ボクの予想外だった』
「失われた……?」
「……どういうことだ?」
リスティとプラチナも、地霊の言葉に違和感を持ったようだった――『失われた』という言葉からは、幾つかの推測ができる。
地霊の祭壇を開くための鍵は存在していたが、何らかの理由で失われた。
そして俺が『賢者』の魔法で鍵を作れるということを、地霊のような存在でも知らないということだ。
「え、えっと……地霊様、私たちは一つお願いがあって参りました」
『願いなら聞こう。すでに供物は捧げられているのだから』
「……俺たちに、供物になれってことですか?」
「「「っ……!?」」」
三人に緊張が走るのが伝わってくる。だが、あまり回りくどい言い方ばかりもしてはいられない。
『君たちはここから出ることはできない。抗えば、母なる大地の力を知ることになる……さあ、どうする? ボクのアースゴーレムと戦ってみるかい?』
「アース……ゴーレム……」
リスティが絶句する。通常なら、最高でレベル3のパーティが戦う相手ではない――この辺りの地域で討伐依頼が出されること自体が無い、完全に格上の相手。
だが、倒さなければ脱出できないというなら――今できることを、やるしかない。
「……アースゴーレムを負かしたら、私たちを外に出してくれるのだな?」
「あ、あの、できればそこまでしたら、野菜の魔物化も止めて欲しいんですけど……っ」
『ああ、構わないよ。君たちは可愛いから、それくらいのお願いは聞いてあげよう。そこの君もせいぜい頑張るといい』
男はどうでもいいという態度だが、戦いに加わること自体は問題ないらしい――それなら。
たとえ
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