第二話 初心者ギルド


 レベルが低くなっても盗賊時代の感覚はそれほど鈍っていないのか、魔物と遭遇せずに都市の正門にたどり着いた。


 他の仕事がすぐ見つかるとも限らないので、冒険者として登録しておきたい。ギルドで受けられるサービスは色々と便利ということもある。


 中央広場にある初心者ギルドを見つけ、建物に入る。窓口に向かう途中で、何か揉めているような声がする――女性冒険者と受付嬢が話している。


「ちょっと、どうして開けられないの? せっかく重いのを持って帰ってきたのに」

「そう言われましても、宝箱の解錠は当ギルドでは承っておりませんので……」

「そうですよね、やっぱりおおっぴらには言えないあのギルドに行くしかないんですよね」

「盗賊ギルドか……城郭の外にあるのは知っているが、彼らの力を借りるのは気が進まない」


(冒険者の三人組……か。このあたりで宝箱を見つけても、大したものは入ってないけどな)


 そんなことを考えつつ見ていると、こちらを振り返った冒険者の一人と目が合った。長い青髪の少女だ。


 いかにも気が強そうで、おてんば娘という感じがする。腰に帯びた宝石のあしらわれた細身の剣や、飾り気が少ないながらも仕立てのいい服などからして、良家の生まれのようだ。


「ふだんはロックピックのご用意もございますが、あいにく在庫を切らしておりまして」

「自分で開けろっていうこと? こういう細かいの、苦手なのよね……」

「いっそ薬品を爆発させて吹き飛ばしてみましょうか?」

「それでは中のものが消し飛んでしまいかねない。私が挑戦してみよう」


(っ……本気か? あの女騎士、器用さがめちゃくちゃ低そうなんだが……)


 赤髪をおさげにした女騎士が、無理やり宝箱を開けようとする――が、受付嬢が慌てて止めた。


「お、お客様っ、ここではなくて、もっと広い場所で……」

「うん? そうか、罠がかかっているかもしれないからな。しかし心配することはない、私は女神の加護を受けた『パラディン』。ゴブリンどもの卑劣な罠になど引っかからない!」

「ゴブリンはこの箱を置いて逃げていっちゃったんです。鍵を出させようとしたんですけど、ちょっと薬の調合が上手く行かなくて」

「お薬の話は人前でしちゃ駄目って言ったでしょ、ナナセ」

「あ、そうでした。でも催眠のポーションくらいなら、街の薬局にもたまに入荷しますし」


 ナナセと呼ばれた少女――ライトパープルというかそんな髪色の、帽子を被った小柄な少女だが、おそらく彼女の職業は『薬師』だろうか。


「では外で宝箱を開けてくる。迷惑をかけて済まなかった」


 青髪の少女冒険者と赤髪の女騎士が、二人で協力して箱を運んでいく。


 盗賊をパーティに入れていないとこんな苦労があるのか、と今更に思う。自分が盗賊だと分からないこともあるものだ。


 俺が盗賊のままだったら、ロックピックなんて使わなくても指先だけで開けられる。そう、こんなふうに――。


「……えっ?」


 箱を持った二人が、俺の目の前を通り過ぎようとした、まさにその時。青髪の少女が、目を見開いて足を止めた。


「……えっ?」


 期せずして、俺も青髪の少女と全く同じ反応をしてしまう。


 ――宝箱の錠前の部分が光っている。


 そして、俺の手の中には。どこから出てきたものか、一本の小さな鍵が握られていた。

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