ラスボス討伐後に始める二周目冒険者ライフ ~はじまりの街でワケあり美少女たちがめちゃくちゃ懐いてきます~
とーわ
プロローグ・1 魔竜討伐
世界の果てには、かつて古代の国を滅ぼしたという魔竜が今も住んでいる。
魔竜は眷属を増やし、やがて人間やその他の種族の国を滅ぼそうと攻めてくる。女神ルナリスはそう神託を下し、各国の国王は魔竜討伐の志願者を集った。
幾万の冒険者たちが魔竜のもとを目指し、その討伐を試みたが、誰も成し遂げることはなかった。魔竜のもとに辿り着くことさえできずに、長い歳月が過ぎた。
しかし俺たちのパーティは、辿り着いた。長い旅をして、多くの困難を越えて――世界の果てまで。
メンバーの四人はそれぞれ限界まで職業を極めている。レベル99、それがこの世界における人間の限界だ。
聖王国から来た
エルフの森から来た
魔導国で作られた兵器であり、意志を持つ
最後に平原の都市から来た
かつてこの場所に存在し、滅びた王国の城塞跡。そこを魔竜は根城としていた。
城の残骸が残っているだけの荒野。魔竜と遭遇した途端に空が赤く染まり、雷鳴が轟いた。
「――グォォォォッ!!」
天地を鳴動させる咆哮と共に、最後の戦いは始まった。
魔竜の爪、牙、尻尾、翼――全てが致死級の威力だが、攻撃役のファリナをサポートするために、敵の攻撃を引きつける。
「ガァァッ!!」
叩き降ろされた腕が地盤を砕く。破片に当たるだけでも命取りになりそうだ。
(一撃が重いなんてもんじゃない……一度でも失敗すれば死ぬ……!)
『盗賊』レベル99で回避能力を上げる技を三種重ね、辛うじて避けられる――攻撃は絶え間なく、技を失敗すればそこで終わる。
俺が魔力を持っていれば、もう少し苦労せずに済んだ。だが生来与えられなかったものを嘆いても仕方がない。
「――はぁぁっ!」
ファリナの繰り出した斬撃は鋭く魔竜を狙うが、魔竜の周囲に展開された球状の結界によって防がれる。
「ファリナ、俺がスキを作るまで待ってくれ!」
「っ……エンジュ、お願いっ!」
『援護攻撃、斉射開始――【
「グォォ……オォォッ……!」
ファリナの指示を受けたエンジュが間髪入れずに応じる。白い炎弾が発生し、魔竜に次々と撃ち込まれる――それでも結界は消えない。
瞬間、戦慄が身体を走り抜ける。反射的に魔竜を『挑発』し、『残像』を発動して敵の狙いを誘導する。
「ガァァァァッ!!」
魔竜は高い知能で魔法まで使いこなす。エンジュの魔導術にも匹敵する威力の衝撃波――命中した俺の残像はかき消され、衝撃波の命中した地面が割れる。
「マイト君、一度下がって! 速度を上げる魔法を……っ」
「シェスカさんはファリナの加護に集中してくれ! 俺は避けられる!」
シェスカはファリナに対する強化魔法を使い続けていて、エンジュも詠唱中は守りが薄くなる――絶えず敵の攻撃を引き付けるにも、俺の技は連続使用に限界がある。
技が使えなくなれば、数秒間完全に役立たずになる。どれだけ経験を積んでも訪れる限界を、どうしても越えられなかった。
それでも――一歩前に出る。必ず隙を作って見せると言ったのだから。
「――うぉぉぉぉぉっ!」
闇のように黒い竜が動いた――直後に放たれたのは、超重量の尾による、俺の間合いの外からの『尾撃』。
極限まで集中し、相手の初動を読み、攻撃の余波までをかわし切る。魔竜が尾を引き戻す前に、ファリナは剣を振り下ろしていた。
「はぁぁぁっ!」
「ガァァアァッ!!」
魔竜は大きく首を振って仰け反り、一歩下がる――防御結界が失われる。それは初めて生まれた絶好機だった。
「白き女神の祝福よ、剣に宿りて闇を切り裂け……っ!」
『マナ・エネルギーがゼロになるまで射撃継続――【
シェスカの祈りによって、ファリナの剣が神の加護を受け、青白い輝きを放つ。エンジュが魔竜の頭部周辺に光弾を絶え間なく叩き込み、その視界を遮る。
「――グォォォッ!!」
魔竜が腕を振り払う――だが、そこにはファリナはいない。
魔竜の死角を突いたファリナの剣が閃く。竜の額にある水晶に亀裂が入り、破片が散る。
攻略不可能に思えた魔竜が、動きを止めてその場に倒れ込む。ファリナは動くことができず、大きく肩で息をしている。
いつも、こうして戦いが終わるのを見届けてきた。相手が魔竜でも、何も変わりはしない。
――それなのに、まだ終わっていないと、何かが警告した。
動くべきではないと分かっているのに、動いていた。それは『盗賊』の本能だった。
『武器奪取』。仲間に使うはずのなかった盗みの技で、俺はファリナの剣をその手から抜き取る――刃が黒く変わり始めていることに気づくことができたから。
「ぐぁぁぁっ……!」
上位の竜は、討伐されるときに呪いを残す。魔竜が持つのは『死の呪い』――その効果は、自分を討伐した者を道連れにする。
魔竜の身体から溢れ出した黒い光が剣を伝わり、俺の身体に吸い込まれる。『死』が身体を満たしていく。
「……マイト……あなた、知っていて……」
茫然としたファリナの声が聞こえる。知っていたんじゃない、『盗賊』の持つ『生存本能』が、呪いの存在を感じ取らせただけだ。
膝を突き、前のめりに倒れる。衝撃も、痛みも何も感じないままに。
「マイト君、すぐに回復を……っ、……!」
シェスカの声が遠のいていく。立ち尽くすファリナの姿がぼやけて、よく見えない。
生き延びられたと思ったが、そう上手くはいかなかったらしい。
盗賊の本能は、本当は――俺に、逃げるように訴えかけていた。生き残れ、そうしなければ意味はないと。
だが、それに抗うことができた。ファリナが死のうとしていることを知っていて、その決意を『奪う』ことができたのだから。
「どうして……どうしてなの、マイト……ッ」
最後に聞こえてきたのは、ファリナの俺を責めるような声だった。
泣かせたくはない。そう思っていたのに、最後の最後に、俺は誰よりも強い聖騎士の泣き顔を見た。
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