第08話「落月の籠 (その1)」


 フーロコード達がオルナ村に飛び立ってから数分が経った。

 彼女達が目的地にてムーンデビルと遭遇してしまうその少し前の話。


 帝都エルーサーでも……落ちてきた月、魔法使いミレニア・イズレインの行方など。死に物狂いの調査が始まろうとしている。


 ミレニア・イズレインが何を企んでいるのか分からない。

 重視する点は一つ。

 彼は月の話をした。月の欠片が封印された要塞施設の上空に現れたのだ。


 もしかしたら、だ。

 彼は……----


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 朝刻、帝都エルーサー。

 月の欠片・収容基地----封印要塞【落月らくづきカゴ】。


「やぁおはよう諸君! 元気に働く君達はヒマワリのように輝いてるね! ハッハッハッハ!!」

 ミレニア・イズレインの宣戦布告から一瞬間の月日が経ち、危機感を覚えた帝都の魔法使い達が取る行動は決まっている。

 月の欠片が封印された要塞【落月の籠】の防衛をより一層強くすること。彼の目的には月の欠片が必要であるのかもしれないからだ。

 フーロコード達だけに頼らず、各調査班も独自に情報を集めていく。行方不明となっているミレニア・イズレインを必ず見つけ出さなくてはならないのだ。


「さてさて! こうしてレフシィズと仕事をするのは一年ぶりかな~?」

「十一月と二日ぶりですね」

「僕と最後に会った日を覚えていてくれるなんて! 思い出を残してくれているなんて……!! 君のような思いやりのある子を心の友と言うのだろうね~」

「貴方ほど印象的な人、忘れたくても忘れられないんですよ~だ。昔と変わらず子供っぽいというか? 年甲斐もなくはしゃぎすぎというか~」

 落ちてきた月から帝都を救ったとされる三賢者。ビアス・エクスペンデンスとレフシィズ・ミラーテリーは【落月の籠】のエントランスを通過する。

「『銀河を統べしビアス』だなんて異名。もしかしなくてもまだ気に入ってたりするんですか?」

「当然じゃないか。多くの友からプレゼントされた大切なモノだからね!」

「やぁ~~っぱり子供ですね~」

 ビアス・エクスペンデンス。腕利きの魔法使いでありながら……その交友関係はどこもかしこも『距離がある』と。フーロコードの対応を見て察した者も多いだろう。

 そう、ビアスは歳の割にハシャいでいる。

 誰かからつけられた異名を十年以上気に入って使っていたり、図々しいほどに距離を詰めてこようとしたり……良くも悪くも子供っぽいと言われる男なのだ。

「そういう君は【幻影姫・レフシィズ】という異名。気にいってないのかい?」

「いや、ストレートにダサいじゃないですか」

 一方、レフシィズは真面目で頑張り屋だと昔から評判だった。歳をとるごとに周りの環境に順応していく適応力の高さがあると良く言われる。故にかビアスよりは多くの友人との距離がそう遠くはない。比較されるのだ、よく。

「幻影姫レフシィズ、銀河を統べしビアス。そして【億に一人の天才・ミレニア】……この並びがイイ~んじゃないか。カッコいいというか、神秘的というか!」

「そういう子供っぽいの、いい加減卒業した方がいいですよ~」

「こういう若さはいつも大切にした方がいい。君、最近『ババくさい』って言われたりしないかい?」

「あ゛あ゛ァアッ!?」

 途端、レフシィズの大人らしい表情が皺と浮き出た血管で歪み切る。女性とは思えない腕力でビアスの胸ぐらを掴み上げる。

「そういうデリカシーのなさも子供っぽいって言ってるんですがねェ~!?」

「あはははっ! 若い若い! 最近多忙とストレスで冷めていないかと思ったけれど、昔と変わらず情熱的で良かったよ~! レフシィズ~!」

「その眼鏡叩き割ってあげましょうか……ねぇえ……?」

 暴力の一つでも叩きつけてやりたいが公共の場だ。

「はぁあっ、はぁあっ……ここ、ですかね」

 何とか冷静になり目的の場所へ。

 要塞の奥地、そこに月の欠片が封印されている。二人もあまり足を踏み入れることはない特別な場所だ。

「あれから数年ぶりに来るけど……度々入れさせてもらえないものかねぇ~? 僕達は伝説の三賢者だよ? それくらいは別にいいでしょ?」

「ここは博物館じゃないんですよ。観光気分で足を踏み入れていい場所じゃないんですって」

 未知の生命体を運んでやってきた月の欠片。要塞のガードは相当固く、一般市民は勿論の事、協会メンバーの中でかなりの権限を持つビアス達でさえもチェックは入念に行われる。


 複数のゲートがある。それを潜るたびに一つ一つチェックが入る。

 武器となる魔導書などは全て預ける。衣服の中、体内に凶器やよからぬ物を隠していないかどうか。

 ゲートのエリアには複数人の魔法使い。その体、その全てを魔術によって透視されるのだ。一つ一つ入念はチェックをビアス達はクリアしていく。

「……」

「どうした? 花嫁修業中の身としては体を易々と見られるのが気分悪いかい? それとも~?」

 厳重なチェックを終え、いよいよ最後のゲートを潜る。

「……いや、詳しくは中で話そうか」

 何か呟こうとしたがビアスは空気を読んだかのように話を切った。

「今日は客人もいる。沈んだ空気は気を遣わせる」

 全てのチェックは終わった。あとは中に入るだけ----


「……久しぶりだね」

「えぇ。本当に久しぶり」

 二人はいよいよ。る。

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