第07話「オルナ村へ急げ!(その2)」


「ほら見ろよ! 田舎村程度あっという間に手中に収めてやったぜ!?」

 岩の物陰から様子を伺っていた盗賊二人は大声をあげる。この呆気ない勝利に歓喜の雄たけびを上げる。

「な、なんだありゃ……?」

 見覚えのない力。ボスは勿論、他の盗賊団もあんな力は持っていない。ルーガは見慣れない光景を前に戸惑っている。

「カルフィナの魔術とは少し違うみたいだが……?」

「この間、から買い取った新兵器ってやつさ! その威力は絶大だぜ……力自慢だけが取り柄の俺達が、っという間に最強の魔法使いの一員ってわけさ! ケヒヒヒッ、こんなのもを見せられて黙っちゃいられねぇ!」

 盗賊二人が岩の物陰から身を乗り出す。

「俺達も加勢してやろうぜ! お前らは来るかどうか任せてやるよ。恐怖のあまり腰を抜かしちまってるからな!」

「な、なにをぉっ!?」

 その場で大地を踏みしめ地団駄を踏むルーガ。走り去っていく盗賊二人の背中を憎らしく眺めている。

「ガキだと小馬鹿にするのも大概にしやがれ! いいかカルフィナ! 俺達も根性見せて番だ! 俺達も二人揃って最強だってところを見せつけて、」

「……いや」

 ムキになってる。子供らしく大人に反抗したくもなる。

少しは見直してもらおうと行動しようとした途端……カルフィナの萎らしい声。

「カル、フィナ?」

「いや……行きたくない」

「どうしてだよっ! 馬鹿にされて悔しくないのかよっ!?」

「分からない。何か…………」

 震えながら立ち上がり、覚束ない手つきでルーガの服の裾を掴む。

 この震え。武者震いとは違う。怯えているようだった。

「怖いってなんだよ?」

「行かないで……一緒に、いて……?」

「……」

 村襲撃の光景を前、大きな前進を喜ぶどころか怖がっているように思える。

 エージェントとの戦いにまだ恐怖しているのか。一度まいただけであってエージェントはおそらくまだこの近くにいる。騒ぎを聞きつけて、再び現れるかもしれない。

「はいはい、分かったよ!」

 しかし、ルーガは悟っていた。

 このカルフィナの恐怖は……別のモノに向けられているような気がして。

「そうだな。悔しいけどアイツらの言う通りだ。今の俺達は使い物になりゃしねぇ。今日は見学しとくとするか」

 ルーガはカルフィナと共に岩の物陰に再び隠れ、村の様子を眺めることにする。

「よいしょっと」

「ルーガ」

 カルフィナの背中に手を添えたままのルーガは声をかけられる。

「どうしたよ?」

「……ありがとう」

「けっ。いつもらしく胸を張ってろってんだ。《緋眼の雷帝》サマよォ~?」

 カルフィナの表情から微かに恐怖が消えた。

 ルーガも自然と頬を緩め、二人並んで村の光景を眺めることにした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 -----数分経過。

 村長たちは今も金をかき集めている。半端な金ではだめだ。事と次第によってはこの村全てが破壊されかねない。

 あの力は何なのか。それを前に戸惑うばかりである。

「おーい、早くしろってんだよォ~。制限時間くらいつけとくべきだったな? いますぐにでも追加ルールでつけちまうか?」

 ボスは耳をほじりながら愚痴を漏らす。

「今の俺達はそれが許されるぐらい偉いんだからなァ~? 早くしないと誠意がないとみなして全員纏めてブッ殺しちまうぜェ~? ホラホラホラホラ早くよォオオオオ~~~~?」

想像以上にかかる時間、妙な真似の準備でもしてるんじゃないかと疑い始める。

「……騒ぎが聞こえて何なのかと思いきや」

 そんな彼らの前に……ようやく現れる。


「ビンゴだわ。白昼堂々随分とやってるじゃない?」

 しかしそれは、金をかき集めていた村人たちではない。


「良かった。これでフーロコードも落ち着く」

「賊どもめ……なにをやっておるのだッ!」

 エージェント・フーロコードとその助手二名。到着。

 一度村で情報を集めようと駆けつけて見たらこの状況。思わぬ展開にフーロコードは運が良いのか悪いのやらと思いつつも機嫌が良い。

 ストレスの対象である盗賊団が目の前に現れてくれたのだから。鬱憤を晴らすチャンスだと思いたくもなる。これは神様からの恵みなのだと都合よく。

「なんだ、新手か?」

 シップゴップは小娘エージェントの登場に笑みを浮かべる。焦る必要も更々ない。

……! それもたくさん!?」

 キョウマは盗賊団達の目つきに唖然とする。

 その眼は先ほどの少女カルフィナの魔術とは違う……見覚えのある鋭い深紅の瞳。忘れるはずもない災厄の予感。

 その目は紛れもなく、あの悪魔と似たようなものだった。

「ぼ、ボス! こいつ、エージェントだぜ!? 胸の紋章がその証だ!?」

「「「エージェントだとぉっ!?」」」

 予想をはるかに上回る強敵の出現。盗賊たちは躊躇い始める。

「構うものかよォオ! 今の俺達は無敵だって言ってるだろうがッ!」

 しかし、やはりボスは一歩も退かない。

「ここでエージェントの一人締めてやれば俺達の実力ってやつも認められるんだぜェエエ!? こいつらもまとめてブッ殺して、実力振りかざしたところで世界征服に乗り出してやるッ!!」

 エージェントと戦い勝利する。そうでもすれば脅威とみなされる。

「俺達がナンバーワンだぁあッ! その気になれば『帝王』にも『魔王』にもなれちまうんだぜェエエエーーーーーーーーッ!!」

 世界中の誰もが盗賊団に怯えて金と命を捧げてくれる最高の日々。そんな毎日を迎えられるかもしれないのだ。シップゴップは逃げも隠れもしない。

 絶頂の瞬間がもうすぐ訪れようとしている。シップゴップは勢いのままにフーロコードへ戦いを挑もうとしていた。


「……うぐっ?」

 しかし。その矢先だ。

「じ、実力……おれ、たちっ、無敵っ……」

 途端、ボスは姿勢を傾け始める。頭を抱える様、前のめりに。

「ウゲッゥ、げげげ……がぐっ、げあががががぅぅぅぅ、ゲげゲげげっ……」

 まるで壊れたレコードのよう耳障りな奇声をあげる。

「ボ、ボス?」「どうしたんだ?」

「酒でも飲み過ぎたのか? なんか気持ち悪そうにみえるっていうか……気分が悪そうに見えるというか……?」

 盗賊数名が頭を抱え唸り続けるボスに寄り添っていく。

 背中を摩るが反応は変わらない。声をかけてみても返事が戻ってくる様子がない。

「----ひぐぅうッ!!!」

  瞬間。その時は訪れる。


「ギャオオオオオオオオOOOOOOOOッーーーー!!!」

 “開花する”


「OOOAAAAAaaaaaaa〓〓〓〓〓〓#####!?!?!?!?!?!?」

 その元々の身を破るように。まるで雛が卵の殻を破るように。

 内側から顔を出す。パラパラと剥がれていく人の皮。

『……syuaaaaAAAAAA〓〓〓.....』

 顔のない悪魔。

 真っ白い肉体の怪物。見覚えのある化け物が人の身の中から姿を現した。

「ムーンッ……!」「デビルですって!?」

 目の前で人が怪物に変貌した。

 再度相まみえる事になった不気味な光景を前、エージェント一同は戦慄した----

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