第2話/未確認飛行物体と謎の少女

「へ?」


 尻もちをついてその言葉を発していたのは、上空に浮かぶ大きな物体が僕の方へと落ちてきていたから。それも太陽を飲み込むほど大きな何か。というか機械。鉄。円盤!


 所謂未確認飛行物体とかいう、オカルトでよくありそうなそれだ。でもそんなことはどうでもよくて、このままだと確実に僕はそれにぶつかって死ぬ。なんならここら辺一帯吹き飛ぶかもしれない。


 逃げなければやられる。なんて思ったのもつかの間、僕の視界は赤と黒で埋め尽くされた。ような気がした。


 ぱっといつの間にか閉じていた目を見開けば、僕の目の前にそれが不時着していた。それも音もなく地面は抉れていない。


 幻覚でも見たのかなんて思って震えている手で目を擦っても、その現実は鮮明にしっかりと眼を焼いてくる。


 つま先から多分五センチほど先には、煤汚れに近い黒ずみがある銀塊が転がっている。本当にあと少し僕かそれがずれていれば間違いなく、足は無くなっていただろう。うん絶対。おかげで肺が潰れそうなほど息も上がり、冷や汗で塗れたワイシャツが気持ち悪いほど背中に張り付いて、正直気持ち悪い。


「びびったぁ……」


 安堵の息を吐くと同時に出てきた一声。心臓も高く脈打って酷く胸が痛い。一瞬死にかけたからか吐き気も催してきて、とてつもなく気持ち悪い。


 喉を焼き切るように昇ってきた胃酸をぐっと飲みこみ、ゆっくりと立ち上がる。すると視界の端になにか見えたような気がして、震える身体で振り向くと、白銀の短い髪がそよ風に靡いている人が倒れてた。それも空を背にして伸びているその様は、地面にめり込んでいるようにも見えなくはない。


 ただ、ここは日本で銀髪の髪は滅多に見ない。というか銀髪なんてファンタジー世界特有だ。ファンタジーですらない現実だから、やっぱりその髪はとても異様に思える。


 加えてさっきまで僕以外誰もいなかったのは紛れもない事実だし、なんといっても服装。派手ではないものの、どことなく未来感がある薄水色と白の上着が、非現実的なこの現状を裏付ける。


「あ、あのー?」


 どこの誰なのかも、どこの馬の骨なのかもわからないこの状況で、露出した色気のある乳白色の素足をまじまじと見てしまいそうになった僕は、思い切り邪念を払いのけるように首を振ってからその人に声をかける。


 ちなみに僕は足フェチではない。


「う、ぅう……あ、れ? ここは……」


「よかった、死んでるかと思った」


 いつからそこにいたのかはわからないが、それでもギャグ漫画に出てきそうなほど、地面に打ち付けられているように見えていたが、いざ起き上がった|女を見てみればそうでもないようだ。


 って、無事であることに安心したけど、鈴のような声とむちっと膨らんでる胸からして、この人、女だったのか……道理で柔らかそうな足して、色気があるわけだ。


「あ、あの、目線怖い……というか、ここは何処?」


「あ、ごめん。つい見惚れて……じゃなくてって、え?ここがどこかわからない?」


 出るところは出ており、顔立ちも整っている。まして異様にも思えていた髪の色が可憐さを引き立たせ、学校一の美女とも言われるあの櫻井と並ぶほど可愛い。僕の素人目でそう思えるのだから間違いない。


 ただその容姿につい見惚れてしまったからか、すっと華奢な腕で胸を隠しつつ睨まれ、そのまま質問をぶつけてきた。


 けれど、その質問がどこかおかしくも思いつつ、とりあえずここが日本にある、大きくも小さくもない町であることを伝え、逆にどこから来たのか、名前とか、色々聞くことにした。


 何かしらわかるのであれば、後ほど交番にでも預けてしまえば早いと思ってこそだ。だが返ってきた返事は思っていたようなものではなく、ここの土地も名前も、どこから来たのかでさえも覚えていないという。所謂記憶喪失だろう。


「何も覚えてない……か。かといってこのままにするわけにもいかないし」


「どうしよう……?」


「うん、それは僕が言いたい……はぁ、とりあえず家くる?」


「えっと、なんか怖いし、何かされそうな予感がするんだけど……」


「そういう感覚はあるんだ……まあ当たり前と言えば当たり前か。でもそこは安心していいよ。家って言ってもシェアハウ……他の人も住んでる家だし、僕以外は全員女性しかいない。正直なんで僕がそこに住んでるのか不思議なくらいだし」


 あまの荘に住む住民は全員女性。それは確かだ。女性だけ受け入れているとかではなく自然と偏って集まったらしい。で、そう考えると男である僕がそこに住んでいいというわけには普通ならない。


 じゃあなんでそこに住んでるのかというと、そこの大家である僕の祖母が倒れて入院してしまったから。ただ僕の母親と父親はどうにも祖母を毛嫌いしてる感じで、やむなく僕が引き継ぐことになったというわけだ。


 正直気を使って生活しないとだから、胃が痛い。今すぐにでも辞めたいとも思ったほどに。ただ任せる人もいなければ、土地を買い取ろうとする輩もいるため、辞めようにも辞めれない。


 ちなみに誰かすらわからない目の前の彼女を、そこに誘ったのは住居者が女性だけということに加えて、空き室があったから。でなければ家に来るかなんて誘えない。


 だがどうにも危険を感じているのか信じてはくれないようで、困っていると知った声が耳を射抜いた。

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