08 追跡者にゃ~
初仕事で森の奥へ奥へと薬草を探しながら魔物を倒していると、魔物の種類が変わる。
オークやオーガも大きくなり、ゴーレムやサイクロプスなんかも出て来た。それらは、わしとコリスならワンパン……わしはニャンパンで倒せる。
べティはてこずるようになり、ノルンは何発も掛かってやっと倒せる程度なので、もう動かないでほしい。
数も増え、百匹近くのゾンビや骸骨に囲まれたりして恐怖に震えるが、わしの広範囲魔法で一蹴。次に出会った鎧の集団と戦っているところで、わしの探知魔法に気になる反応があった。
「コリス。わしはちょっとやることができたから、べティのこと頼めるかにゃ?」
「うん。いいよ~」
「あたしなら一人で大丈夫なのに~」
なのでサブリーダーのコリスに一言掛けたら、べティはブーブー言ってた。でも、無視してわしはこの場から消えるのであった……
* * * * * * * * *
「ゼーゼー……くっそ~~~!!」
わしが急いで移動した理由は、わし達をつけていた人物が魔物に囲まれていたから。
今までは息を潜めていればバレなかったようだが、コウモリみたいなデカイ魔物の前では超音波で発見されたようで、追跡者は必死にクナイを振って戦っている。
「にゃあにゃあ?」
「いま忙しいの!」
そんな現場に到着したわしは、紫色のショートヘアのクノイチみたいな女性の後ろについて声を掛けてみたのだが、こちらも見ないで断られてしまった。
「にゃあにゃあ?」
「だから! ……へ??」
再度声を掛けてみたら、クノイチはこちらを見て固まってしまった。
「おっとにゃ。これ、わしが倒していいかにゃ?」
突然の出来事にクノイチは隙だらけになっていたから巨大コウモリに噛まれそうになったので、わしは刀の峰で受け止めた。
「え、ええ……倒してもらえると助かる……」
「じゃあ、ちゃっちゃっとやっちゃうにゃ~」
クノイチから許可をもらったら、わしは素早く動いて巨大コウモリに攻撃。瞬く間に七匹を斬り捨ててやった。
「フンッ。峰打ちにゃ……」
「そうなの? 全部一撃で死んだわよ??」
「余韻を楽しんでたんにゃから黙っててにゃ~」
「あっ! ごめんなさい」
せっかくかっこよく人助けできたのにクノイチが口を開いてしまったので、いまいち決まらないわしであったとさ。
「ところでお姉さんって、こんにゃところでにゃにしてるにゃ?」
わしはクノイチの行動を全て理解しているので、ニヤニヤしながら質問。
「えっと……道に迷って……」
「へ~。迷子なんにゃ~。仲間は居ないにゃ?」
「い…る。一緒に森に入って狩りをしてたんだけどハグレちゃって……」
「じゃあ、仲間を探さないとだにゃ~。手伝ってあげるにゃ~」
「えっ……それは悪いかな~? それに、もしもハグレたら森の入口で集合することになってるし……」
「プッ……ふ~ん。ここから一人で戻れそうにゃ?」
わしはちょっと吹き出してしまったがずっとニヤニヤしているから、クノイチにはあまり怪しまれていないと思われる。
「……ちょっと厳しいかも」
「それじゃあ、送ってあげるにゃ~。あ、わしはシラタマと申すにゃ~」
「私は……ハナコ。少しの間、お願いできるかな?」
「いいにゃ~。でも、名前はそれでファイナルアンサーにゃ?」
「う、うん。ファイナルアンサーだけど……なんで?」
「それじゃあこっちにゃ~。ププッ」
「なんでずっと笑ってるの??」
「にゃんでもないにゃ~」
さすがにバレそうになったので、わしはこれ以降振り返らずに笑いを
「肩がめちゃくちゃ震えてるけど大丈夫?」
「にゃはははは」
「なに笑ってるのよ!?」
堪え切れずに、わしは大笑いしながら走り続けるのであったとさ。
コリス達の元へ戻ったら、鎧の騎士を倒し終わってドロップアイテムを集めていたので、ハナコには座っているように言ってわしも参加。べティが笑ってないで手伝えと怒るので仕方がないのだ。
素早く動き回り、鎧や剣や魔石等を次元倉庫に入れまくったら、皆にハナコを紹介する。
「こちらは、冒険者って言ってるハナコさんにゃ~。ププププ」
「え? お城から派遣された、あたし達の見張りでしょ??」
「なっ……」
べティが本当のことをぶっちゃけるので、ハナコが大口を開けて固まってしまった。
「本人がそう言ってるんにゃから信じてあげようにゃ~」
「信じてあげるって……ずっとあたし達を一人でつけていたんだから、嘘言ってるに決まってるじゃない」
「だからその嘘に付き合ってあげようと言ってるんにゃ~」
「あ、そゆこと。プププ。シラタマ君ってイジワルね~。きゃはははは」
「親切って言ってくれにゃ~。にゃはははは」
「な、ななななな……」
「「「「にゃ~はっはっはっはっ」」」」
ハナコがとんでもなく焦った顔をするので、わし達は大笑い。おそらくノルンはわかって笑っていて、コリスはわしが笑っているからノリで笑っているのだろう。
「も、もういいわよ! あなた達の見張りでここに居るのよ!!」
さすがにバレバレでは、ハナコも簡単にゲロッた。というか、バカにされているからキレてる。
「あ、もうバラすんにゃ。もうちょっと楽しみたかったのににゃ~。べティがよけいにゃことを言うから~」
「ごめ~ん。でも、それならそうと言っておいてよ~」
「もういいって言ってるんだからやめてよ~」
それでもわし達が追い詰めるから、ハナコは顔を押さえてうずくまるのであった。よっぽど恥ずかしいみたいだ。
「んじゃ、尋問はこの先でしようにゃ~」
ちょっと進んだところに薬草の群生地があるので、そこに移動。ちょうどお昼になったので、テーブルに料理を並べてランチにする。
「実は私は……」
「先に食べようにゃ。そのあとゆっくり聞くにゃ~」
「は、はあ……」
カミングアウトは食事のあと。多く出したけど早く食べないとコリスの頬袋に収められるので仕方がないのだ。
「何これ!? 美味し~~~い!!」
その甲斐あって、先程まで死んだ目をしていたハナコは元気になるのであったとさ。
「いっぱい食べたにゃ~」
「はっ!?」
食事を終えたら、ハナコはお腹パンパン。料理が美味しすぎて夢中で食べていたのを今ごろ気付いたみたいだ。
「ほんで、名前はハナコでよかったにゃ?」
「うっ……本当は違います……」
「えぇ~。ファイナルアンサーって言ってたにゃ~」
「イジワル言わないで……」
もう一度立場を教えてあげたら、諦めたような顔に変わった。
「名前は……アオイです」
「ふ~ん……そのアオイさんは誰の使いにゃ? 王女様かにゃ? それとも王様かにゃ~??」
「そ、それは……」
「言えないってことは王様みたいだにゃ……」
わしが真面目な顔で見詰めると、アオイは視線を落とした。
「ホント、シラタマはアホ面なのに察しがいいんだよ」
「ノルンちゃんは黙ってろにゃ~」
アオイの代わりにノルンがわしを愚弄するのでムカつく。
「となると、わし達の暗殺までが仕事なのかにゃ~?」
「言えない……」
「それって、答えを言ってるのと変わらないんにゃよ?」
「くっ……殺せ!」
わしが核心を突くと、アオイにキッと睨まれた。
「プッ……べティ、こんにゃこと言ってるにゃ~」
「そりゃこんだけ恥を掻かされたら死にたくなるわよ~。シラタマ君。謝ったほうがいいわよ」
「あっちゃ~。からかいすぎちゃったにゃ~。ごめんにゃ~」
わしが頭を下げると、アオイは目をパチクリしている。
「どうしたにゃ?」
「いえ……言ってる意味が……」
「悪いことしたから謝ってるんにゃ。にゃにか問題でもあるにゃ? あ、美味しいケーキでも食べるにゃ??」
「うん……いやいや。悪いことしたのは、私のほうでしょ!? どうしてあなたが謝っているのよ!!」
「アオイさんはただ仕事をしただけだからにゃ。その仕事をバカにしたにゃら、謝るのが筋にゃろ?」
「私はあなたを殺すかも知れなかったのよ!!」
わしが的外れなことを言い続けると、ついにアオイは仕事内容を言っちゃった。
「あ、やっぱり、悪者だと判断したら殺すように言われてたんにゃ」
「あっ……」
アオイが口を塞いでも、もう遅い。
「別に向かって来ても、わしは一向に構わないにゃ。アオイさんがわしを殺せると思っているならにゃ」
「そ、それは……」
「ぶっちゃけ君の実力じゃ、わしに触れることすらできないにゃ。クナイで斬られても傷を負うこともないにゃ。それほど、君とわしとでは差があるんにゃ~」
椅子に座っているアオイの目の前まで近付いてわしがわざと背中を見せると、アオイは懐に手を入れてクナイで襲い掛かった!
「なっ……」
「てにゃ感じで、動くこともできないってわけにゃ~」
しかしアオイは、わしに後ろから押さえられて立つこともならぬ。わしが侍の勘で動き出しを捉えて回り込んだからだ。
「ま、もう少し薬草採取を続けるから、好きにゃように襲い掛かって来てにゃ~。みんにゃ~。休憩は終わりにゃ~」
アオイはわしを殺すことは諦めたように天を仰いでいるので、わし達は薬草をブチブチ抜いて採集。ほどほどで終わらせて、次の群生地を探すのであった。
わしの鼻には、森のさらに奥に行けば薬草がありそうなにおいがあったので、奥へ奥へ。木々は薄気味悪く、大きくなって行く。
それに伴い魔物も大きくなるのでそこそこ手強い。と言っても、現地の人にとってはだ。
「キメラかにゃ? キマイラかにゃ??」
「何を悠長なことを言ってるのよ! 災害級の魔物なんだから早く逃げないと!!」
アオイが焦っているが、10メートル程度の生き物ならお手の物。
「ほい。終わったにゃ~」
「もう! あたしにやらせてくれてもよかったでしょ~」
キマイラの、ライオンの頭から羊の胴体に掛けて蛇の尻尾までを、目にも留まらぬ
「はい? 何をやったかも見えなかった……」
わしの刀を抜く姿どころか体捌きすら見えなかったアオイは、へなへなっと腰を落とすのであったとさ。
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