07 冒険者としての初仕事にゃ~


「さあ、マジカルキャッツ……本格始動よ~!」


 いろいろトラブルがあった翌日、城からこそっと抜け出し、西門から冒険者カードを見せて通してもらったら、べティがなんかカッコつけてる。


「そんにゃに気合い入れても、やるのは薬草採取にゃよ?」

「ちょっ! 『にゃっ!』とか『にゃ~!』とか言ってよ~!!」

「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~。これでいいにゃろ?」

「違うにゃ~~~!!」


 べティは気合いの入った返事がほしかったようだが、これは昔、親友のさっちゃんともやったこと。同じ返しをしてみたら同じことを言っていたので、この二人は同じ思考回路をしているのだろう。


「とりあえず森に入って探そうにゃ。走るけど、コリスに乗らなくてもいいにゃ?」

「聞いてよ~」

「いっくにゃ~」

「乗るからちょっと待って~~~!!」


 文句を言うべティは無視して走り出したら、べティはダッシュで追いかけてコリスに乗せてもらうのであった。



「ねえねえ?」


 街道をひた走り、森に向かっていたら、べティはコリスをわしの近くに寄せて話し掛けて来た。


「にゃに?」

「遅くない? これぐらいなら、あたしでも出せるよ」

「まぁにゃ~……振り切ってしまうと悪いと思ってにゃ~」

「振り切る? ……あっ! もしかしてつけられてるの!?」


 べティは今ごろ気付いたみたいなので、城からずっとつけられていたと教えてあげる。その時、探知魔法でしか発見できないと説明したので、べティも自分の探知魔法を使って確認していた。


「視覚で捉えられないなんて、相当な手練れかもね。てか、城からってことは、あのお姫様の使いってことかしら?」

「もしかしたら、刺客かもにゃ~」

「それは~……あるか。だってシラタマ君って魔王だもん」

「魔王疑いにゃ。魔王疑いだからにゃ?」

「それでこれからどうするの?」

「疑いを晴らしてくれにゃ~」

「無理よ」


 べティは会った頃からわしのことを「魔王寄り」と言っていたから辛辣しんらつ。ツッコミたいところだが面倒くさいのでこれからの話をする。


「真面目に薬草採取してる姿でも見せれば、わしがただの猫だとわかってくれるにゃろ」

「え~! もっと面白そうな魔物探そうよ~」

「それはランクを上げてからにゃ~」


 べティと揉めながらも街道をひた走ると、森に到着。ここで次元倉庫から取り出した薬草のにおいを嗅いで、辺りをクンクンして歩く。


「猫のクセに犬みたいなことしてるし……」

「こっちのほうが早いんにゃからいいにゃろ~」


 べティがちゃちゃを入れてムカつくが、わしはクンクンしながら森の奥へ。すると、五匹のゴブリンと遭遇した。


「喰らえ! エクスプロー…むぐっ!?」

「派手にゃ魔法を使うにゃ~」


 先手必勝でべティは無駄に攻撃範囲の広い爆裂魔法を使おうとするので、わしは後ろに回り込んで口を塞いだ。


「なんで邪魔するのよ~」

「この近くに薬草があるんにゃ~。燃えたらどうするにゃ~」

「えぇ~! じゃあ、あたしにどうやって戦えって言うのよ」

「風魔法があるにゃ~」


 べティは派手な魔法で戦いたいみたいでブーブーうるさいので、わしは次元倉庫に入っていたとっておきの物をあげる。


「何これ? 穴だらけの……ナイフ??」


 わしの出した物は、頑丈な白魔鉱というレアメタルで作ったナイフに軽量処理をした物。これは鉄魔法でちょちょいのちょいで作った、わしの自信作だ。

 側面には大きな穴が五個も開いているのですぐに折れそうに見えるが、それでも強度は普通のナイフの三倍はあるので、べティの筋力ならば折れることはない。


「魔力を注げば、さらに切れ味も強度も上がるからにゃ」

「こんな高いの貰っていいの?」

「最近、訓練頑張っていたらしいし、ご褒美にゃ~」

「やった~! チュチュチュ!!」

「ちゅーするにゃ~」


 わしがべティを押し返してゴブリンと戦わないのかと聞いたら、べティはやる気満々。


「この勇者の剣のさびにしてあげるわ!」

「それ、ただのナイフにゃんだけど……」

「あれ??」

「にゃ~??」


 しかし、さっきまで居たゴブリンは見当たらず。


「ノルンちゃんだよ~~~!!」


 ノルンが勝ち名乗りをしているところを見ると、どうやらゴブリンはノルンが倒したらしいのであった……



「そんな~」

「危ないから、せめて一声掛けろにゃ~」


 ゴブリンの群れはノルン一人で蹴散らしたので、べティは超ガッカリ。わしは壊れていないかノルンの全身を確認する。


「あれぐらいなら、ノルンちゃんでも余裕なんだよ。でも、力を使いすぎたから、ごはんちょうだいだよ~」

「もう勝手にゃ行動はするにゃよ~?」


 ノルンは頷いていたから、エサやり開始。わしの指にむしゃぶりつくノルンから、いちおうどうやってゴブリンを倒したか聞き出してみた。

 どうやらノルンのスピードのほうがゴブリンより遥かに速かったので、一切触れられず。背後から近付き、頭から出した角に電撃をまとってひと突き。これだけでゴブリンは倒れたらしい。


「ノルンちゃんの必殺技【妖精の怒り】は最強なんだよ!」

「ああ。あのビリッと来るヤツにゃ」

「あ……シラタマには効かなかったんだよ……」

「相手が悪いだけにゃ~。元気出すにゃ~」


 ノルンがへこんでしまったがゴブリンはもう居ないので、ドロップアイテムを回収したら前進。少し行ったところで薬草の群生地を発見したので、皆でブチブチちぎり取る。


「もうそんにゃもんにしとこうにゃ。取りすぎたら生えなくなっちゃうかもしれないしにゃ」

「わかってるって。でも、あんまり収穫量ないわよ?」

「ああ。においの確認で寄り道しただけにゃから大丈夫にゃ。この先に、もっと強いにおいがあるから、たぶん大量に生えてるんじゃないかにゃ~?」

「ふ~ん。薬草より魔石のほうが高く売れるんだから、魔物が出て欲しいな~」

「それも問題ないにゃ。この先にウヨウヨ居るにゃ~」

「なるほど……あんなに簡単に折れていたのは、こっちが目的だったのね」

「借金返さなくちゃいけないからにゃ~」

「踏み倒そうとしてたクセに……」


 べティは一言多いので、お喋りはここまでにして奥へと走る。すると、立って歩く豚、オークが3匹現れたので、わしとコリスのパンチで一撃。残り1匹は、べティに回してあげる。


「接近戦でもいけるかにゃ?」

「たぶん……」

「侍講習で習った通りやったら大丈夫にゃ。ま、ビビビッと来なくても、べティのスピードにゃら余裕で捌けるから、落ち着いてやるんにゃよ~?」

「うん! やってみる!!」


 べティは基本は後衛なので、初の接近戦に挑むのは緊張していたから簡単なアドバイス。余裕と聞いたからか、べティの緊張は軽くなったようだ。



 オークがズシズシと前進する中、べティもトコトコと前進。距離が詰まり、体の大きなオークのほうが射程範囲が広いので、先に棍棒を振り下ろした。


「ふぅ~。避けられたけど、後の先が取れなかった……」

「その調子で感じを掴むんにゃ~」


 べティは素早く避けていたので、オークの動き出しはビビビッと掴めていると思われる。なので、わしが練習台にしてもいいと言うと、しばらくべティはオークの攻撃をひょいひょい避け続けるのであった。


「うん。いい感じ……行くよ!」


 侍講習で習ったことを思い出しながら避けていたべティは、ここからが本番。オークの動き出しを先に捉えての、べティは先の先。

 おそらくオークは棍棒を振り下ろそうとしたのに、気付いたらべティに左足を斬られていたのでオロオロしている。


「ほらほら~? オニサンこちら~♪」


 片膝を突くオークはべティから目線を外していたのでわざと注意を引くと、オークはその体勢のまま横薙ぎ。これもべティは先の先で回り込み、オークの首を斬り裂いてトドメを刺すのであった。



「ふぅ~~~」


 オークがチリとなって消えると、べティは大きく息を吐いて緊張を解く。


「にゃはは。疲れたにゃろ?」

「ええ。実践だと倍は疲れるのね。それに得物が短いからよけい疲れたわ」

「う~ん……それ以上長くすると、べティの筋力じゃ振り回されそうだしにゃ~」

「あの光の盾って攻撃に使えないの? リータが使ってた魔法」

「【光盾】にゃ? アレはわしの作った魔道具にゃ。いちおう【光一閃】って、剣にアレンジしてる魔法があるけど、魔力の消費が激しいからにゃ~」

「何それ! このナイフにも付けて~!!」

「まずはその長さに慣れろにゃ~」


 いらんことを言ってべティのおねだりが始まったが、無い胸を強調しても効くわけがない。


「なんですって!?」

「さっさと狩りに行こうにゃ~」


 わしの心を読むべティには、魔物のことを思い出させて話を逸らすのであった。



 それからも、森の奥へ奥へとひた走ると、魔物の強さが上がって行く。オークの群れやオーガの群れ。大きなスライムだったり人骨が襲い掛かって来たり。様々な魔物が出現する。


 基本、わしはネコパンチで一撃。触れるのが気持ちが悪い魔物には魔法で対応。


「いったい腰の物はいつ使うの?」


 べティにツッコまれても、神剣【猫撫での剣】の出番はまだ来ない。だってスライム斬ったらヌメッとしそうなんじゃもん。


 コリスもわしと同じくこの世界のオーバーレベルなので、リスパンチで一発。尻尾で薙ぎ払ったり、上からベチコーンッと叩き潰している。気持ち悪い魔物は、わし任せ。だって気持ち悪いって言うんじゃもん。


 べティは接近戦ばかりやらせるとすぐに動けなくなるので、基本は得意の魔法。派手な魔法は魔力消費が激しいので使わせない。


「エクスプロー……」

「にゃん回言わせるにゃ~!!」


 それでも無駄に派手な魔法を使おうとするので、わしは何度も止めて風魔法だけを使わせるのであった。


「ふふん。楽勝ね」

「楽勝にゃんだから、【エクスプロージョン】は封印しろにゃ~」


 最後にノルンは……


「【妖精の怒り】なんだよ~!」

「勝手に攻撃するにゃと言ってるんにゃ~」


 主であるはずのわしの言葉を無視。気付いたら一人で突っ込んで行って、頭から生やした角で魔物を倒してる。


「お腹ペコペコなんだよ~」

「燃費悪すぎにゃ~」


 それも、ノルンの必殺技は魔力を使いすぎるらしく、使い切ってはわしの魔力を奪いに来るから厄介だ。


「次の休憩までごはん無しにゃ~」

「そ、そんな……ひどいんだよ! ネグレクトなんだよ! え~~~んだよ~~~!!」

「人聞きの悪いことを言うにゃ~」


 それに魔力をあげないと泣き叫ぶので、わしは渋々補充するのであったとさ。


「甘やかしすぎてワガママな子供になるいい見本ね」


 べティの教育論がわしの心に突き刺さる今日この頃であった……

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