キタノ砦には幼なじみが 後編
「あのバカ…… コダチは待てって言ってんだろ! げっ、俺目掛けて突進して来やがる! せ、先生! セイレーン先生!お願いします!!!」
突進してくる剛田の姿に怖れをなし、用心棒役の聖女サマの後ろに隠れるカケル。
ちょっとカッコわるい。
「……仕方ありません」
そう言うと、聖女サマはスキル『
剛田は、10mほど後ろに吹っ飛ばされた……
「ご、ごめんなさい! これでも威力を抑えたのですが……」
『セイレーンさんを怒らせてはいけない』と、周囲にいるすべての者が心に刻んだようだ。
「まったく…… 待てと言っているのに。今、恐ろしくヤバげな攻撃をしたあなたは、確か半年ほど前、王宮でお会いした聖女殿ですね」
淡々と言葉を述べるコダチ。
「はい……」
そう言いながら、聖女サマは吹っ飛ばした剛田のもとへ駆けて行った。
そんな聖女サマを見つめるカケルが——
「やっぱり、セイレーンさんは優しいな。なんかもう、セイレーンさんを見てるだけで、幸せな気分になるよ。
そう言ったカケルに向けて、コダチがひと言。
「…………キモチワル」
「テメエ! フザケンナよ!いくら幼なじみだからって、言っても良いことと悪いことがあるんだからな!」
そうなのだ。実はカケルとコダチは幼なじみなのだ。
「私の黒歴史をほじくり返すのはやめてくれないか。まったく…… カケルはいつも女性をイヤラシイ目で見て…… 本当に困ったものだ」
「今の俺の発言の、どこにイヤラシイ要素があるんだよ! はっきり言っておくが、俺はお前を性的な対象として見たことなんて、あんまりないんだからな!」
「ちょっとはあるんだね…… なんてことはこの際、忘れようか。やあ、みんな久しぶりだね」
爽やか蹴人が笑顔で挨拶するが……
「久しぶりに会ったのに、なんだかあまり歓迎されていないみたいだね」
そんな蹴人の発言を受け、みんなを代表するようにコダチが口を開いた。
「王宮から情報が届いているんだ。極悪非道の変態カケルが、ここに来るかも知れないってね」
「なんだよ。俺が来るのわかってたのか。ああ、だからさっき、セイレーンさんが声を上げたにもかかわらず、俺が近くにいると思ったんだな」
「カケルはプライベートスキル『潜伏』が使えるんだろ? 突然現れるとしたらカケルだろうと思ってな」
本当は『潜伏』じゃなくて、『
「でもお前さっき、『この気配はカケルだな』とか言わなかったか? お前、俺の気配がわかるのかよ?」
「ちょっと、カッコつけたかっただけだ」
「とても自然に言葉が出てきたように思えたが?」
「実はこの台詞、1週間前から考えてたんだ。どうだ、凄腕剣士みたいだっただろ?」
おわかりだろう。
コダチはちょっと天然なのだ。
そんな二人のやり取りを微笑みながら眺めていた蹴人が、再び口を開く。
「まったく、カケルはいつも楽しそうで羨ましいよ。じゃあ改めて、みんな久しぶり、元気だったかい?」
今度は、聖女サマの肩につかまりながらこちらに戻って来た剛田が、蹴人の言葉に応える。
「まさか蹴人もカケルと一緒だったとはな……」
「愛様、大丈夫ですか」
剛田のフルネームは、剛田愛という。
剛田の隣で肩を貸している聖女サマが心配そうな顔をして、そうつぶやいた。
「……剛田と呼んでくれないか。名前で呼ばれるのは…… 恥ずかしいんだ」
「わかりました。では剛田様、改めまして、申し訳ありませんでした」
「いや…… アンタ、あれでも手加減してくれてたんだろ? 感謝するよ。それから、今後アンタを怒らすようなことはしないと、アタシはすべての神様に誓うよ」
よっぽど怖かったんだろうな……
「僕たちはケンカしに来た訳じゃないんだ——」
と、蹴人が話を続ける。
「——カケルのことはちょっとした誤解だよ。僕はカケルと一緒に、みんなの顔を見に来ただけなんだ。ああ、剛田さんも戻って来たみたいだね。剛田さん、大丈夫?」
「あ、ああ。も、問題ない…… かしら」
剛田は蹴人の前だと乙女に変身するのだ。
「剛田様、本当に申し訳ありませんでした。お詫びと言ってはなんですが、皆様との再会を祝って、お茶にでもしませんか? 兵士の皆さんもいかがです?」
ニッコリ笑顔のセイレーン。
「しかし……」
兵士たちは困惑している。そんな兵士たちに向かってコダチが声をかける。
「まあ、いいじゃないか。どうせカケルたちの取り調べをするつもりなんだろ? じゃあ、お茶を飲みながら話をしたって、別に軍規に違反するわけでもないだろうに」
「では……」
コダチにそう言われては、兵士たちもこれ以上、反論できないようだ。
兵士は全部で10人いる。
蹴人が担いでいたリュックから、コップを取り出して——
「コップは8人分しか持ってきてないんで、申し訳ありませんが、兵士のみなさんは、ちょっと待ってて下さいね」
蹴人も笑顔で兵士たちに告げた。
「あの…… コダチ様。本当に飲んでよろしいのですか?」
兵士の一人が、心配そうに声を上げる。
「ああ、そういうことなら、僕たちが先に飲みますよ。それならいいでしょ?」
どこまでも爽やかな蹴人だった。
セイレーンは聖道具で暖かくしたお茶を、器用にコップへと移し替えていた。
「マドロースの街で見つけたお茶の粉末を使っています。あっ、これはここに来る途中に立ち寄った街で買った、シタゴコロ饅頭です。別に深い意味はありませんよ?」
……明らかに怪しいよ。なんでそんな饅頭買ったんだよ。
「お茶を飲むのは久しぶりだ」
そう言うと、コダチは蹴人がコップに口をつけるのを待たずに、自分のコップを手に取り、ぐびりとお茶を喉に流し込んだ。そして——
「ぷはー、上手い!」
風呂上がりにビールを飲んだおっさんのような声を上げた。
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
そう言うと、蹴人も自分のコップに口をつけた。
「剛田さんも、よかったらどうぞ」
蹴人がそう言うと、
「じ、じゃあ、いただこう…… かな」
と、頬を染めながら剛田もお茶を口にした。
二人の様子を見ていた遠投3人娘も、警戒しながらもお茶を口にふくんだ。
さあ、ではお待ちかねの質問タイムだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます