プライベートスキル

 育栄イクエと委員長とのわだかまりが解消された後、どうして育栄だけ洗脳されなかったのか、という点に話題が移った。



「たぶん…… 私、プライベートスキル『清廉せいれん』が使えるからだと思う。『なにものにも動じない、清らかで強靭な精神を有する』って書いてあったから」


「『清廉』だなんて、育栄様は、素晴らしいお方なんですね」

 セイレーンが賞賛の声を上げるが……


「とんでもありません! たぶん、ウチの実家が神社なんで、だからこんなプライベートスキルがあるのかなって、自分では思ってるんだけど」


 どうやら、メインスキルには部活や課外活動が関係し、それ以外になんらかの特徴を持つ者には、サブスキルが与えられるようだ。

 カケルの場合は性格、舞の場合は将来の夢、育栄の場合は実家の特性、といったところか。


「高嶺さん以外は、誰もプライベートスキルの話をしなかったから、なんだか言い出せなかったの。それで、みんなが『帝国のために!』とか言い出したから、私もみんなに合わせて、思ってもいないことを言ってたっていうか……」


 育栄の話を聞いたミサオが口を開く。

「そうだね。みんなちょっと、疑心暗鬼になってた時期があったね。私も『本当はプライベートスキルを持ってるんじゃないか』って、何回か聞かれたことがあるの。舞のプライベートスキルは効果がわかりやすいから、隠しようがなかったけど…… 私も、他の人たちがどんなプライベートスキルを持ってるのかわからくて、ちょっと怖い思いをしてたの」



 この後、改めて各自のプライベートスキルを確認することになった。

 この中でプライベートスキルを持っているのは、カケル、舞、育栄の3人だけ。

 セイレーン、委員長、操は持っていないと断言した。


 もちろん、委員長たち3人が嘘をついて、自分が持っているプライベートスキルを申告していない可能性もあるのだが——


 カケルは、

「信用してるよ」

 と、言って笑い、


 育栄は、

「私もみんなを信頼してる」

 と、力強く答え、


 舞は、

「お腹空いたから、なんか食べようよ」

 と、お腹を鳴らした。


 とりあえず、なんか言っとけばいいやとでも思ったのだろうか?

 それとも、よほどお腹が空いているのだろうか?

 まあ、きっと3人のことを信用してるのだとは思うのだが……


 そういえば、時間はもう12時を過ぎているようだ。


「なら何か食べる? でも、ここって野菜以外、何もないよ?」

 育栄がそう言うと、


「えー、せっかくなら、この辺りの名物料理とか食べたいな」

 と言った舞に対し、


「お前、異世界でグルメツアーしてどうすんだよ? そんな日本の郷土料理みたいなもの——」

 と、カケルが応じたところ、


「あるよ」

 と、育栄が意外な答えを口にした。


「え? あるの?」

 ちょっと驚いたカケル。


「ここから歩いて丸一日ぐらいのところに、日本で言うところのジビエが有名なチイキ・サイハケーン村ってところがあるの。でも、ちょっと遠いかな」


「ふっふっふ、アタシのスキル『飛翔』があれば、あっという間に着いちゃうよ」


 こうしてカケルたち一行は、食いしん坊舞の意見を受け入れ、チイキ・サイハケーン村目指して出発することにした。

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