私の知ってる聖女様じゃない 後編
「あの…… 晩餐会でお会いしたときと、なんだか雰囲気が違うんですが……」
セイレーンに向かって、
「あっ、すみません。なんだかちょっとテンションが上がってしまいまして、エヘヘ。でも、あのときお話させていただいた通り、今でも勇者の皆様方のお力になりたいという気持ちに変わりはありませんよ!」
「私、信じます。あのとき…… 猜疑心の
「流石、セイレーンさんです! 既に農山さんの心を救っていたとは! セイレーンさん、万歳!!!」
「もう、カケル様ったら、恥ずかしいです。でも、そんなカケル様にも万歳!!!」
「なんだよ! アタシも混ぜてくれよ! そんな混ざりたがりのアタシにも万歳!!!」
「……ねえ、水野さん。私今、悪い夢を見てるの?」
「うーん…… バカ1号と2号に触発されて、聖女様もちょっとおバカになっちゃったの」
「そんな…… 私、聖女様に憧れてたのに……」
「でも慣れてきたら、今の聖女様も親しみやすくていいと思いようになると思うの…… たぶん」
さて、おバカなやり取りが一段落した後、聖女サマが育栄に向けて質問を投げかけた。
「育栄様は先ほど、『やっぱりみんな洗脳されてたんだ』とおっしゃいましたが、育栄様は洗脳されていなかったのですか?」
「よくわかりません。でも…… たぶん、そうなのかなあ」
育栄は自分でもよくわかっていないようだ。
「それでは、どうして育栄様は、他の勇者の皆様が洗脳されていると思ったのですか?」
「みんなの様子がおかしかったからです」
「たとえば?」
「みんな帝国のために働きたいとか言い出したから…… それに」
「それに?」
「男子たちはみんな、王女様の言うことをなんでも聞いちゃうから……」
「それは下心があるからだと思うの。男子たちはみんなエロいから」
と、
『どうか俺に、とばっちりが来ませんように』
カケルは心の中で祈った。
操のおかげで、少し場が和んだようだ。
育栄にも、先ほどのような怯えた表情は見られない。
育栄は、操と舞の顔をしげしげと見つめた。そして——
「水野さんも、高嶺さんも、昔の顔つきに戻ったね。二人だけじゃなくて、みんな少しずつ、怖い顔になっていったんだよ」
「アタシ全然自覚なかったんだけど?」
ポカーンとした表情で舞がつぶやいた。
「日を追って、どんどん目つきが鋭くなっていったのよ。最後の方は、本当に怖かったんだから」
どうやら洗脳のスキルは少しずつ効果を発揮するようだ。
ここで、今まで隠れていた委員長が、
「少しずつ変わっていったんだ。急に変わったって訳じゃないのね」
と、言いながら、育栄の前に颯爽と姿を現わすと——
「いいい、委員長! ななな、なぜここに!」
大きく目を見開いて、ありえないという表情をする育栄。
「今までで一番良いリアクションだわ」
そう言って笑う委員長。
「ハァァァ…………」
育栄は大きく息を吐いた。
「どこから聞いてたの?」
と、問う育栄に対し、
「はじめからよ」
と、笑顔で答えた委員長。
「ハァァァ…………」
また育栄は大きく息を吐き出した。
「何よ、それ。それより育栄、あなた私に何か言うことはないの? 久し振りに会ったのよ?」
「…………私、委員長に合わせる顔がないわ」
そう言って
「ちょっと、育栄。それどういうことよ?」
「……私は委員長を裏切ったのよ。さっきも言ったでしょ。少しずつみんなが変わっていったって。逆に言えば、最初からみんな少しおかしかったのよ」
苦しそうに言葉を吐き出す育栄。育栄の独白は続く。
「私は初日から、みんながちょっとおかしいのに気づいてた。そして、王女が『委員長は精神干渉系のスキルが使える』って言い出したとき…… 私は委員長がみんなを洗脳してると思ったのよ…… だから、私はみんなと一緒になって、委員長を隔離すべきだって言ったの……」
育栄は苦しい胸の内をさらけ出す。
「でも…… すぐにそれが間違いだって気づいたわ。だって、委員長が王宮から居なくなってからも、どんどんみんな、おかしくなって行ったんだから……」
「…………育栄、もういいわよ」
委員長も苦しそうに言葉を返した。
「全然いいことないわ! だって、私たちは、同じ
「え? バカの自覚があるんなら、バカ4号に任命してやってもいいよ?」
「もう、舞! そういうこと言わないの! ねえ、農山さん、別にそこまで自分を責めなくても……」
「いいのよ、水野さん。私、本当にバカなんだから。みんなも笑っていいのよ? そうよ、バカな私のこと、みんなで笑えばいいのよ!」
「アッハッハッハッハッハッハ!!!」
「このバカ早瀬! なんで、本当に笑うのよ!!! これは言葉の綾ってヤツでしょ!!! アンタのこと、本当に心の底からバカだと思うわ!!!」
育栄が激怒した……
「ち、違うんだ、聞いてくれ! おい、舞! テメー、ウロウロするんじゃネエよ! お前の『芸人』スキルの効果範囲に入っちゃっただろ! じっとしてろよ、バカ!」
「悪かったよ。アタシ、じっとしてるの苦手なんだよ」
「まったく…… ごめんな、農山さん。えっと、どこまで話してたっけ? あっ、そうだ。『笑えばいいのよ』までだったな。じゃあ、そこから続けてくれるか?」
「そんなところから続けられるわけないでしょ! このバカ1号と2号!!! あんたたちは、ホント、バカなんだから!」
いったい何回バカと言えば、育栄の気が済むのだろうか……
「ハァァァ………… でもなんか、大声で叫んで、スッキリしたかも」
そう言うと、育栄は委員長に向き直り、
「申し訳ありませんでした!」
と、姿勢正しく頭を下げた。
流石、武道系女子だ。とても礼儀正しい。
「別に、最初から怒ってないよ」
そう言って、委員長は笑った。
「こういうの、結果オーライって言うんだよね」
そう得意げな表情で言った舞に、
「なんだか私、バカに踊らされてるみたい……」
と、複雑な表情で返した育栄であった。
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