第24話 お誕生日会
窓が開く音が聞こえた。はっとして、あたしは小走りで部屋に入る。ミランダ様が箒から下りるところだった。
「お、お帰りなさいませ!」
「長旅は疲れるね」
「で、で、電車じゃなかったんですか?」
「ワープ魔法だよ。依頼人が戦友でね、家でちょっと食事して、長話してたらこの時間さ」
「……お疲れ様です」
「お前、いつ帰ってきたんだい?」
「あ、つい、本当にさっきです」
「ああ、お前もお疲れ様」
「はい」
「今夜はさっさと休みな」
「あの……ミランダ様!」
ミランダ様の足が止まった。
「まだ、日は跨いでません。だから、あの、間に合うと、思って……」
ミランダ様が振り返った。
「遅くなって、も、申し訳ございません」
ラッピングされたプレゼントを、両手に持って、ミランダ様に差し出す。
「お誕生日、おめでとうございます。ミランダ様」
「……お前」
ミランダ様が意外そうな顔で言った。
「知ってたのかい?」
「……も、もちろんですとも!」
「……本当は?」
「……カレンダーに書いておいてください……」
「なんで自分の生まれた日をカレンダーに書かなきゃいけないのさ」
「明日、あの、夜に、サイモンさんが、食事を用意してくださるそうです。あの、今日は、流石にお疲れだと思ったので……」
「ああ。そいつは嬉しいね。どっちにしろ、行く予定だったけど」
「……あ、そうだったんですか?」
「でも予約はしてなかったからね。ありがとう」
ミランダ様があたしに近づいた。プレゼントを見つめる。
「受け取っていいのかい?」
「……はい!」
アンジェちゃんが大丈夫って言ってた。アンジェちゃんが大丈夫って言ってた。大丈夫。アンジェちゃんが大丈夫って言ってた!
「あたしの、気持ちです!!」
「はいはい。わざわざどうもありがとう。開けていいかい?」
「は……はい!!」
「……小さい箱だね」
ミランダ様がリボンを解き、ラッピングペーパーを外した。そして――商品を見て、ピタッと固まった。
「……これは……」
(や、やっぱり……!)
あたしは固唾をのんだ。
(いくらなんでも、テキトーすぎましたよね!?)
お子様ランチにつける旗パック(限定バージョン)(*'ω'*)お会計1080ワドル(*'ω'*)
(終わった)
あたしは膝から崩れ落ちた。
(殺される)
ミランダ様が怒りで体を震わせている。
(破門どころじゃねえ。まじで殺される。ずたずたに包丁で切り裂かれて、四肢をバラバラにされて、あたし、殺されるんだ)
あたしの脳内に走馬灯が流れた。ああ、良くない人生だったな。次生まれ変わる時はADHDなんか持ってない健常者に生まれたいです。
「……お前……これ……!」
ミランダ様がギラギラ光らせる瞳であたしに振り返った。ひい! お助けを!! 情けを!! 誰かあたしを助けて!!
「――限 定 品 じゃないかい!!!!」
(……あれ?)
「な……な……なんてことだろうね!!!!!」
ミランダ様が箱から旗を取り出した。あ、ネズミさんの旗。
「ネズミさんのランチ旗じゃないかい!!! はっ!!! こっちには……リスさんまでいるじゃないかい!!!!」
「……(え、この人、ガチ?)」
「る、ルーチェ……!! お前……!!」
真っ赤な顔のミランダ様が膝立ちし、あたしをしっかり抱きしめた。
「偉い!!!!!!!」
(……アンジェちゃん、すげー)
「すごい! いっぱいある! 見てごらん! ルーチェ! いっぱいあるよ!!」
「……あ、はい」
「今後ハンバーグを作る時はこれを挿すんだよ! いいね!!」
(……なるほど。今まで山のようにあったランチ旗は……アンジェちゃんが渡したものだったのか……。なるほど……。謎が解けた……)
「セーレムに自慢してくるよ!!」
「あ、はい」
「セーレム! 見てごらん!! ルーチェが! プレゼントしてきたんだよ!!」
「わあ! すげー!! いいじゃん! これ!!」
「限定品だよ!! いいだろー!!」
「何それ!! すっげー! いいなー!!」
(……え、まじで言ってんの? 二人とも。ランチ旗だよ?)
リビングに行くと、まじでミランダ様がセーレムに自慢して、自慢されたセーレムは羨ましそうな目であたしを見てきた。
「ルーチェ、俺もランチ旗欲しい!!」
「……(あ、ガチだわ)うん。わかった。お誕生日にね」
「やったー!!」
「ミランダ様、セーレムのお誕生日はいつですか?」
「2月19日」
「ちゃんとカレンダーに書いておいてくださいよ」
ペンを持って先にカレンダーに書いておく。これなら絶対に忘れない。
(教えてくれてたらちゃんとお祝いしたの……)
ぎゅっ。
(に……)
体が石化した。後ろから、上機嫌のミランダ様に抱きしめられたから。
「ありがとう。ルーチェ」
手の感触。ぬくもり。ミランダ様の声。
「私もセーレムも好きなんだよ。ランチ旗。嬉しいよ。どうもありがとう」
「……よ……喜んで……もらえたのであれば……あの……よ、よ、良かった……です……」
「まあ、……アンジェ辺りの入れ知恵だとは思うけどね」
(何も言わないでおこう)
「……嬉しいね。二つもプレゼントが貰えるなんて」
「……え? 二つ……ですか?」
振り返ると、ミランダ様が薄く笑っていた。
「何か……お渡ししましたっけ……?」
「ああ。物じゃないけどね。魔法を」
「魔法?」
「マリア先生は勿体ないって評価してたけど」
あたしはビギッ! と目を見開いた。
「あれは上出来の魔法だったよ。ルーチェ」
「……あの、ひょっとして……」
マリア先生の側にいた『黒猫』。
「……あれ、ミランダ様ですか?」
「あれならお前気付かなかっただろ?」
(うわあああああああああああああああああああああああああ見られたあああああああああああああああああああああああああ!!!!! 消えてなくなりたあああああああああああああああああい!!!!)
「研究生クラスの中では良かった方だと思うけどね、でもマリア先生の評価も間違ってない。もっと精進しな。ルーチェ」
「はい……(あれ、でも……)」
あたしはちらっとミランダ様を見つつ、訊いた。
「見てて、くれたんですね」
「……評価した分、完成系は気になるもんだよ。若いのはいくらでも可能性を秘めてるからね」
(……ミランダ様……)
「低く評価した奴らも良くはなってた。でもまだまだ練習不足で準備不足。そんな奴らに負けるんじゃないよ。ルーチェ。お前はこのミランダの弟子なんだからね」
「……はい」
「……悪くない顔するようになったじゃないかい」
ミランダ様があたしの頭を一回撫でてから、体を離した。
「風呂から出たらお前のお土産でもいただくかね」
「は、はい。ぜひ。沢山買ってきました! ……せ、セーレムのもあるよ。ほら!」
「うわっ! 何これ! すごーい!」
セーレムが大喜びで新しい玩具に飛びついた。
(*'ω'*)
翌日の夜。
ミランダ様にはお酒とおつまみが。あたしにはオムライスがやってきた。
「ルーチェちゃん、いっぱい食べるんだよ!」
ありがとうございます。
「ミランダちゃん、本当に貸し切りじゃなくて良いのかい?」
「ちゃちゃっと食べてちゃちゃっと帰るんで」
「父さん、オーダー」
「ああ、ちきしょう。今日に限って忙しいんだからよう」
「ルーチェ、ゆっくりしてってね」
ありがとう。アンジェちゃん。
「お前からプレゼントはないのかい?」
「バケツに入った水なんてどう?」
「ああ、そうだね。怖い怖い」
「ふん!」
「アンジェ、このレタスなかなか悪くないよ! 俺、胃が敏感なんだけどさ、結構いい感じだよ!」
「ああ、邪魔。セーレム。退いて!」
「なんだよ。ツンデレかよ。アンジェも可愛いとこあんじゃん!」
違う。アンジェは遠くの席に座ってた客に呼ばれ、オーダーを取りに行っただけだ。あたしはゆっくりオムライスを食べる。ミランダ様はお酒をおつまみで十分そうだ。
ダンスコンテストの打ち上げの時は盛大にやったのに、ミランダ様は自分の誕生日となると、あたしとセーレムだけを連れてきて、ひっそりと食事だけ楽しむ。もっとお出かけとか、好きなこととかしないんですか? って訊いたら、こう返ってきた。
「好きなことは毎日やってるし、毎日出かけてるからね。旅行なら、アウデ・アイルでホテルとワインを楽しんだし……別に変わらないんだよ。普段と」
(いやー、あたしもそんなこと言ってみたいなあ。あたしだったら撮り溜めたセーレムの動画編集してるか、絵を描いてるか、小説書いてるかしたいけどなあ。水族館とか動物園とか行きたいし、博物館とか美術館にも行ってみたい)
オムライスをぱくり。
(うま……)
「美味いかい? ルーチェ」
「めちゃくちゃ美味しいです」
「そいつは良かったよ」
「ミランダ様おいくつになったんですか?」
ミランダ様がお酒を一気飲みした。あたしは黙った。ミランダ様がグラスを置いた。
「……あんだって?」
「いいえ。何も」
「ああ。そうだろうね」
「(受け入れろよ……。誰だって年齢は重なるもんだって……)お注ぎします」
「ああ、ありがとう」
ボトルからグラスに注いでいく。
「あまり飲まないでくださ、さいね」
「誕生日だよ。好きなだけ飲ませとくれ」
「飲酒飛行はよくないですよ」
「アイス頼むかい?」
「ケーキがあります」
「種類は?」
「アンジェちゃん、に任せてます」
「なら安心だね」
「アンジェちゃんすごいです。ミ、ミランダ様のお好みをわかりきってます」
「覚えだけは良いからね」
「……ふふっ」
「……なんだい? ご機嫌だね」
「だって……嬉しくて」
ボトルの位置を戻す。
「なんだか、久しぶりに……ミランダ様とのお時間が……取れた気がして」
「……ババア相手にしたって何もいいことないよ」
「ババアじゃありません。ミランダ様は、本当に、すご、すごくかっこいい……魔法使い様です」
ミランダ様が鼻で笑った。
「あたしも早く、ミランダ様のおと、お隣に立っても、恥ずかしくない魔法使いになりたいです」
「それなら家帰ってから防御魔法の一つや二つ、マスターするんだね」
「……あ、あれなら出来るようになりました。魔力探し」
「あんなの子供のうちにマスターするもんだよ。お前何やってたんだい」
「いやぁ……全くその通りですよね。電車の中でトゥルエノとや、やったのですが、普通に出来ました」
「……仲良くなれて良かったじゃないかい」
「……そうですね。今まであまり関わったことなかったのですが……」
トゥルエノは、
……あの子、本当に良い子で……すごく優しくて、電車の中でずっとゲームして遊んでくれたんです。
「ああ、そうかい」
それと、魔法書の魔法も一緒にやってみたりして遊んでました。お陰でいくつか出来るようになりました。
「テスト日を早めてもいいかもね」
……あ、でも……いけると思います。結構簡単だったので。
「ん? そうかい?」
はい。本当に基礎的なものが多かったので、あれなら……来週くらいで指定されたところは全部出来そうです。
「そうかい。……じゃあ来週見せてもらおうかね」
はい。
「はいよー。お待ち! ミランダちゃん!」
「……サイモンさん、この子がちょっとだけ成長したみたいだよ」
え?
「子供の成長って早いよなぁ。特に女の子はなー。アンジェもそうだったよ。こんくらい小さい時はパパ、パパって甘えん坊だったのに、今と来たら……」
「父さん! 早く! オーダー!」
「わかってるって! うるせえな! 全くよぅ!」
サイモンが料理に戻り、あたしはクスクス笑い、ミランダ様はおつまみを食べる。ついでにあたしは話題を変える。
あ、そうだ。ミランダ様。お伺いしたいことがあるんですけど。
「ん?」
ミランダ様は、魔法調査隊についてお詳しいですか?
「……まあ、内部の話は知らないけど、一般的になら。どうしてだい?」
……ジュリアさんに、見学に来ないか誘われてるんです。
――ミランダ様が黙ってお酒を飲んだ。あたしは話を続ける。
よく考えてみたら、魔法調査隊のことって、あたしは何も知らなくて……だから、見学だけなら、正直行きたいなって思っていて……。
「……」
……行ってみても……いいですか?
「駄目って言ったら、お前行かないのかい?」
あたしはきょとんと瞬きした。ミランダ様があたしを見ている。あたしは返事をした。
「はい」
頷く。
「ミランダ様が行くなと仰るなら、行きません」
「……馬鹿だね。そこは否定されても行くんだよ」
「あたしよりもただ、正しい道をわかってるのはミランダ様です。ミランダ様があたしに向いてることを勧めないはずがありません」
「私だって間違える時はあるよ」
「でもミランダ様、この数ヶ月間、あた、あたしはミランダ様とすー……過ごさせて頂きましたが、ミランダ様の言う言葉を無視した結果、あたしは散々酷い目に遭ってる気がします」
「それはそうだよ」
「なので、今回はミランダ様にご相談して、その通りにします。……行くなと言うなら行きません」
ミランダ様が黙った。酔った頭に一瞬で冷静さが戻り、考え、またお酒を飲んだ。
「誰か連れて行きな」
「……行っていいんですか?」
「魔法調査隊の見学なんて早々出来るもんじゃない。一人なら行かせないけど、友達を誰か連れて行きな」
「あ、そこは、あの、じゃあ、ジュリアさんにもい、い、良いって言われてるので、あの、トゥルエノ……を、誘おうかなって」
「ん。あの子なら……大丈夫だと思うよ」
ミランダ様が軽く笑った。
「勉強しておいで」
「……ありがとうございます!」
「……チャーシュー食べな」
「えっ、いいんですか? いただきます!」
ミランダ様に見守れながらおつまみをいただく。うわ、うめー! 美味しさに感動していると、ミランダ様がふと訊いてきた。
「ところでね、ルーチェ、あのトゥルエノってお友達は」
「ん? はい」
「女装趣味があるのかい?」
店内のラジオからパーソナリティの声が聞こえた。イケメンタレントとして有名なロバート・イルグルムさんが妻のルフィーナさんとの離婚を発表しました。理由は、ロバートさんが性のカミングアウトをしたことでした。籍からは外れたものの、今後は夫と妻ではなく、人生のパートナーとして息子達家族と過ごしていく前向きな言葉をSNSに載せています。これを受けて、視聴者からの意見です。これから女性として見られないルフィーナが可哀想! 普通墓場まで持っていかない? ルフィーナが可哀想! 私ならはっ? ってなるー! こんなこと言われても受け入れる選択しかないルフィーナが哀れ。ロバートは無責任すぎ! そういうのって、結婚する前に話し合わない? ロバート最低。父親として無責任! 子供が可哀想!
あたしはスプーンを置いた。
「男の体で生まれたそうです。中身は女の子です」
「……なるほどね」
「ミランダ様、性別って……そんなに大事ですか? 人を愛することって、男は女として見て、女は男として見て、っていうのじゃないと、恋愛しちゃいけないんですかね? あたしは正直……人間が人間を愛しているなら、性別がどうであれ、せ、成立っていうか……本当に、なんていうか、全く、問題ないと思うんですけど。本人達がしー、幸せであれば」
「そういうのは少人数しかいないからね」
「今このラジオで流れてる件もそうですけど……そんなに、周りがとやかく言うことですか?」
「それはタレントだからだよ」
「あたしは……こ、これからこの人と、生きていこうと決めた人であれば、男でも、女でも、……あたしを愛してくれるなら……あたしは、別にどうでもいいんですけど……あ、愛してくれずに、乱暴してきたり、浮気したりする人の方が、あたしは……嫌です」
「ルーチェ、ヤジを飛ばしてる相手はね、暇なんだよ。他にやることがないから、自分がやらないことをやる人に攻撃したくなるもんなんだよ」
「そうではなくて、ミランダ様。……トゥルエノが、こういう話を聞いて、どう思うのかなって思って……」
グラスを握りしめる手に自然と力が入る。
「親友なんです」
日は浅いけど。
「唯一、本音を言い合えた子なんです」
男でも、女でも、どっちでもいい。
「あたしは……トゥルエノに……は、墓場まで持っていってほしいとは思いません。どうして多人数の意見のために、あの子が苦しまないといけないんですか? 時代は、もう新しいんですよ? 多様性を認めてる。なのに、世間は、性別はまだ受け入れないんですか? どれだけ時代遅れなんですか?」
「ルーチェ、声を抑えな。デリケートな話だから」
「……」
「……私が思うに、8割はお前と同じ意見だと思うよ。メディアに出てるのは2割の意見。あいつらはね、そういうのを拾って表に出して視聴率を稼ぐんだよ。惑わされるんじゃない」
「……だとしても、悲しいです。ミランダ様。本人達は前向きな意見を言ってるのに、なんで周りは否定的になるんですか?」
「自分がしてないことをしてるからさ」
「背中を押してあげたらいいじゃないですか」
「そういう教育がされてないんだよ」
「酷いです。冷たいです。みんな……否定したって、悲しいことしか生まれないのに。受け入れて、背中を押してあげて、それでいいじゃないですか。お互いあた、あ、あ、温かい気持ちになるじゃないですか。なんで性別にこだわる人がいるんですか? 関係ないじゃないですか」
「色んな人がいるんだよ。ルーチェ」
「色んな人がいるから、ADHDも煙たがられるんです。なんであたし達が……気を遣って隠さないといけないんですか? 好きでこの体に生まれたわけじゃないのに。……同等に見てくれたら……こんな想いしなくていいのに。……みんな酷いです」
「……2割だって言ってるだろ。皆じゃないよ。2割」
「……」
「むくれるんじゃないよ。ジュースおかわりするかい?」
「……はい」
「……お前は、トゥルエノが好きなんだろう?」
「大好きです。……もっとあの子を知りたいです」
「なら、それでいいじゃないかい」
ミランダ様がメニュー表を開いた。
「側にいて、仲良くしてあげな」
「……はい」
「アンジェ、新しい手拭いくれないかい?」
「……えっ!? なんでルーチェ泣いてるの!? ルーチェ! このババアに何言われたの!?」
「失礼な奴だね。お前」
男だろうが、女だろうが、トゥルエノはトゥルエノだ。あたしの親友だ。あたしはあの子のことをもっと知りたい。仲良くなりたい。もっともっと喋りたい。
あの子が仲良くしてくれる限り、世間から冷たい目を浴びたとしても、あたしはあの子の味方でいよう。
(やだな。熱くなっちゃった)
新しい手拭いを目頭に当てれば、ミランダ様の優しい手が、あたしの頭を撫でてくるものだから――すっかりミランダ様の優しさに甘えてしまって、とろけてしまう。いつの間にか、涙は引っ込んでいた。また不満話をしたり、世間話をしたり、魔法の話をしたり、ミランダ様のお仕事の話を聞いてる途中で――サイモンがケーキを持ってきた。
他のお客さんがいるから小さな声であたしは歌う。ミランダ様は「いいよ、いらないよ」と止めたけど、あたしはそれを無視して、笑顔で歌った。サイモンもノリノリで歌った。アンジェは小さく手拍子した。少し気恥ずかしそうなミランダ様がろうそくの火を吹いて消した。拍手をする。ろうそくの匂いが鼻をかすめる。
平和な夜。ミランダ様のお誕生日会が、無事に終わった。
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