第22話 2学期


(わあー、久しぶりの学校だー)


 改札口から出ると、鞄を持った魔法学生が学校に向かって歩いている。


(今日は始業式だから一応制服着てきたけど、やっぱ私服の方が楽……)

「おっすー! ルーチェっぴ!」

「うわっ!!」


 突然声をかけられて驚き――クレイジーに振り返る。


「び、び、びっくりした……」

「あー! 制服じゃーん! やっば! 超可愛いー!」

「あ、あり、がとう……」

「学校まで一緒に行こ!」

「あ、う、うん……。いいよ……」


 並んで二人で歩く。なんか本当にカップルみたい。……友達ですよ?


「やー、2学期かー。移行期間だから忙しくなりそう」

「……仕事やりながら課題も重なってーとか、あるかもね。……いいなー」

「ま、俺っちにかかれば何でも来いって感じだけどね?」

「飛行魔法は?」

「その話は置いといて」

「うふふふ!」

「早くデビューしなよ? 待ってから」

「……うん」


 今日から2学期が始まる。


「出来る限り、頑張る」

「そうこなくっちゃ」


 学校に着けば、玄関でお別れ。


「じゃあね、ルーチェっぴ。頑張って」

「うん。クレイジー君もね」

(はあー。2ヶ月ぶりの教室かー。またベリーには無視されるんだろうなー。はー、やだなー、会いたくないなー)


 あたしは教室の扉を開けた。教室にいたクラスメイトが全員あたしに振り返った。


「あ、おはよ……」

「ルーチェ!!!!!」


 年頃のクラスメイトに囲まれた。


「クレバー君とダンスコンテスト参加したの!?」

「なんで呼んでくれなかったの!?」

(え?)

「見たよ! これ!!」


 レイラがスマートフォンをあたしに見せた。そこには、吸血鬼の衣装を着たクレイジーとドレスを着たあたしが、アルプス一万尺をやって遊んでいる姿が、動画に撮られていた。


 ダンスコンテストなう。参加者の凸凹コンビに胸きゅん( *´艸`)遊ぶ前は手を繋いでました★カップルで参加なのかな?


(……あ、なんか、撮られてたな。そういえば。すげー。こう見たらクレイジー君イケメンかも。……てか、これバズってね? いいねとリトゥイート数やばくない?)

「ルーチェ、クレバー君と知り合いだったの!?」

「ねえ、連絡先教えて!?」

「えっ?」

「お友達になりたいの!」

「……え? クレイジーく……ユアン・クレバー君のことだよね?」

「ルーチェ、まさか知らないわけじゃないでしょ? ヤミー魔術ミスターコン第一位の男の子」

「え? ミスターコ……な、何?」

「ヤミー魔術学校イケメンミスターコンテストの一位、ユアン・クレバー君だよ!!」

「悪な感じがたまんなーい!」

「笑顔が素敵ー!」

「ミステリアスー!」

(……まじで言ってんの? あの子、Mだよ? 怒られて人を好きになる子だよ? 超クレイジー青年だよ? みんな、まじで言ってんの?)

「おばさんおはよー」

「あ、おはよう。……おばさんって言わないの」

「えへへ!」

「ルーチェママおはよー」

「おはよー」

「ママー、なんかトゥイッター見たー」

「あーね。……なんかねー、あったねー」

「おはよー。ベリー!」

「サーシャ、おはよー!」


 あたしとベリーが無言ですれ違った。あたしは空いてる席につく。


(とりあえずここ座っとこ……)

「あ、ルーチェ」

(あ)


 オレンジ色の髪の毛がなびき、真っ赤に燃える炎のような、はたまたルビーのように美しいワインレッドの瞳があたしを見つめ、美しい笑顔を見せる。


「おはよう」

「おはよう。トゥルエノ」

「隣いい?」

「うん。どうぞ」

「ありがとう」


 わあ。すごい。座り方まで女の子らしい。流石ヤミー魔術学校ミス・コンテストで三年連続一位。トゥルエノ・エルヴィス・タータ。お父さんがなんか会社やってるんだっけ? すげー。これが本物のお嬢様かー。お人形みたい。可愛いなー。あたしもこんな顔だったらモテモテだったんだろうなー。羨ましー。良い人生なんだろうなー。


「諸君、おはよう。ホームルームだ。席につきなさい」

(ああ、来た来た)


 フィリップ先生が教壇に立った。


「さて、ホームルームは私が担当だ。皆、お久しぶりです。夏休みはどうだったかな?」

「海行きました!」

「宿題やってました!」

「お婆ちゃん家に行ってました!」

「彼女に振られました!」

「うわ」

「どんまい」

「そういうこともあるって」

「……ぐすっ……みんな、ありがとう……」

「沢山の思い出を作ってきたようで何よりだ。さて、今日から2学期が始まるわけだが……お待ちかね。二週間後には宿泊学習が待っている!」

(わあ、もうそんな時期か)


 ヤミー魔術学校の学費が馬鹿にならない理由の一つ。宿泊学習費用が含まれている。ここで詐欺だ! だなんて口が滑ったって言ってはならない。なぜなら、絶対詐欺ではないからだ。毎年、魔法使いの歴史がある場所へ連れて行ってくれる。あたしは今年で11回目だが、1回も場所は被ったことがない。覚えてるのは戦地だったかな。激戦の跡が残っていて、なんとも言えない気持ちになったのが印象的だった。平和な時代に生まれてよかった。


(今年はどこに行くんだろう?)


「各自二人一組でチームを決めておくように」

(あー、余った人でいいや。ベリーはサーシャと組むだろうし。クラスの人と別段仲悪いわけでもないし)

「エリナちゃん組もうー!」

「組もー!」

「サーシャ組もう!」

「いいよ!」

「マイク組もうぜー」

「ニコラス、組む?」

「……ルーチェ?」


 声をかけられて隣を見る。笑顔の可愛いトゥルエノがあたしを見ている。


「誰かとやる?」

「……や、余った人でいいかなって」

「あ、わ、私と組まない?」


 え?


「……別にいいけど……あ、あた、あたしでいいの?」

「うん! ほら、ルーチェと私って、あまり話したことなかったから、いつか、何かの機会に一緒に課題とか出来たらなーって思ってて!」

「……あ、そーなんだ……(すげー。クラスのマドンナと組んじゃったよ……)あ……よろしくね」

「よろしく! ルーチェ! ……あ、それと」

「うん?」

「魔法ダンスコンテスト、見てたよ」


 トゥルエノが微笑んだ。


「すごかった!」

「……いたの?」

「うん! 会場にいた!」

「……じゃあ、猫の騒動の時いたんだ。た、た、大変だったね」

「杖振り回してたよ。……でも、ほら、ルーチェ達が捕まえてくれたから、途中からそっちに集中しちゃった。あはは。ダンス上手だったよ!」

「……あ、ありがとう」

「ベストマジックダンス賞も選ばれてたね。おめでとう!」

「あー、ありがとう(よく褒めてくれる子だなー。これはモテるな)」

「宿泊学習か。どこ行くんだろうね?」


 トゥルエノが黒板を見た。


「何も起きないと良いけど……」

(それなー)

「ほらほら、みんな、廊下に並びなさい! 全校集会に行こうじゃないか」

(わー、眠くなるやつー)

「ルーチェ、一緒に行こう?」

「あ、うん。いいよ」


 トゥルエノと並んで集会ホールに集まる。演台に立つホーネッド校長先生からありがたい言葉をいただく。


「諸君、夏休みはどうだったかな? ある人は思い出を作り、ある人は成長への道を歩き、ある人は汗と涙を流した青春を送ったのではないだろうか。……これから2学期が始まる。秋が始まり、これから寒さが強くなっていく。季節の変化で体調を崩しやすくなるだろうが、管理をするのは君達本人だ。一日一日を大切に。時は止められない。君達が魔法使いになるために、日々最善を尽くしてくれることを祈っている」

(……今まで流して聞いてたけど、身に染みるな)


 一日一日、魔法使いに近づくために最善を尽くそう。時は待ってくれないのだから。もたもたしていると……あたしのように年だけ食ってしまう。


(今日はこれで学校おしまーい)

「トゥルエノちゃん、ばいばーい」

「ばいばーい。……ルーチェ、また明日ね」

「あ、うん。したっけねー」


 バイトは明日からだから、今日はお屋敷で掃除でもしようかな!


(わあ、なんか新学期って最初だけやる気に満ち溢れるんだよなー! これが続けばいいのにー! あたし、明日からも頑張ろー!)


 イヤホンをして、音楽を聞く為にスマートフォンを開いた。――待ち受け画面には、トロフィーを貰って号泣するあたしと、ピースをする笑顔のクレイジーのツーショットが設定されているのを――見て、改めて思った。


(……これで満足しちゃ駄目だ)


 結果を出し続けないと。


(また新しい課題、見つけないと)


 あたしは音楽を聞きながら帰ってくる。森の奥には、見慣れたミランダ様のお屋敷が待っている。


(ミランダ様は外出中かな?)


 あたしは杖を向けた。


「オープン・ザ・ドア」


 扉が開いて、あたしは中に入る。


「セーレム、ただい……」







 屋敷の中がとんでもなく荒れていた。ソファーが廊下に投げられたように置かれ、写真の額縁が地面に落ち、カーペットがめくれ、ガラスが飛び散り、あたしは唖然としてその場に立ち尽くす。


(何これ……。……泥棒じゃ……ないよね?)

「うわあ! る、ルーチェ!」


 セーレムがリビングから走ってきて、あたしの腕に飛び込んできた。


「助けて!」

「どうしたの!?」

「ミランダを止めて!」

「……ミランダ様!?」


 あたしはセーレムを抱えたまま、ガラスの破片が散らばる廊下を小走りで進み、リビングに入った。


「ミランダ様、一体何がっ……」


 光の玉が飛んで、あたしとセーレムが悲鳴を上げ、あたしは後ろに後ずさって玉を避けた。壁に穴が開き、ぞっとして――振り返ると、今度は闇の玉が飛んできた。あたしとセーレムが再び悲鳴を上げて、今度は腰を抜かした。壁がなくなった。セーレムとあたしの体が震えだし、目玉をダイニングに向けると――血を流しながら殴り合うジュリアとミランダ様がいた。


「ミランダぁぁああああああ!!!」

「ジュリアぁぁああああああ!!!」

「怖いよ! ルーチェーーー!!!」

(ひいいいいい!! 何事ーーーーー!?)




 二人の怒号が、森中に木霊した。








 第七章:奇策な緑の魔法使い END

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