第7話 幻覚魔法を習得しよう

 ジャージ姿もパーフェクトなパルフェクトが手を叩いた。


「昨日の復習も兼ねて、魔法もちょこっとやってみよっか」

「うっす! やろーぜ! ルーチェっぴ!」

「……」

「ん? どうしたの? なんで目そらすの?」

(ろくに見直し出来てないからです。……寝てて……)

「見直しはしてきましたか?」

「あ、パルフェクトさん!」


 クレイジーが手を挙げて元気いっぱいに答えた。


「時間が足りなくて全く出来てません!!」

(はっきり言うかー!)

「けど、俺っち達、互いに必要な演出は昨日考えてきたんすよ! ノートにメモしてるんで、見てもらっていいっすか?」


 そう言ってクレイジーがホワイトボードに自分の役割とあたしの役割を書いていく。


(……この子、見た目に寄らず積極性と行動力はお手の物なんだよな。これが駆け出しクラスの実力か……)


「こんなところっす!」

「なるほど。でも、こんな感じで良いと思うよ。軸はこれにして、肉付けはどんどんやっていけばいいから」

「ありがとうございます! んで、すみません。今日はダンスの復習だと思ってたっつーか、ルーチェっぴが幻覚魔法使ったこと無くて、今日の時点で魔法は難しいと思います」

「あれ、ルーチェ♡、まだ習ってないの?」

「……研究生クラスではまだやってません」

「わあ! 言ってくれたら特別教室の時に教えたのに!」

(知るか! あの時はそれどころじゃなかったんだよ!)

「ちなみにクレイジー君は使えるの?」

「俺っち出来ますよ!」


 クレイジーが杖を構えた。


「糸よ布よ姿を変えよ。我の思う通りの姿となりて、頭を見よ、思考を見よ、我はこの姿を求める」


 クレイジーの杖から魔力が流れた。パルフェクトがきょとんとした。魔力はクレイジーの姿を隠し、次の瞬間、――赤フンドシ姿のドヤ顔クレイジーが現れた。あたしは絶叫。パルフェクトは吹き出した。


「わぁーーー!?」

「あははははははは!!!」

「ちょーーー! 何やってるの! クレイジー君!」

「ぎゃははは! どうよ! ルーチェっぴ!」

「もう!」


 あたしは慌てて自分のジャージの上着を脱ぎ、クレイジーに羽織らせる。


「すげーだろ! これやるために、バイト終わりに猛練習したんだぁー!」

「こんなことに猛練習しない!」

「駄目ぇー! 赤フンドシ! あはははは!!」

「い、い、印象残りすぎて、あたしまで赤フンドシにへんし、変身しちゃったらどーするの!」

「大丈夫! そん時は喜んでルーチェっぴの体じっくり見るって!」

「あたしが嫌なの!」

「あはははは……! はーあ。笑った、笑った。お腹痛い! うふふ! ユアン君。ルーチェ♡に教えるから……ぶふふっ! 元に戻ろっか!」

「うす!」


 クレイジーが元のジャージ姿に戻った。あたしは自分のジャージを再び着ると、クレイジーが声を潜めてあたしに言った。


「やったぜ。ルーチェっぴ。俺っち、パルフェクトを笑わせたぜ……!」

「ああ、そう」

「ルーチェ♡、ドレスの幻覚魔法からやってみよっか。……念の為……」


 パルフェクトがクレイジーを見た。


「ユアン君、一瞬廊下いい?」

「了解っす! あ、じゃあ、ルーチェっぴ。これ教科書」

「あ、ありがとう」

「じゃ、俺っち、元ネタのアニメでも見て、廊下いますわ」


 クレイジーがイヤホンを耳に入れ、スマートフォンを持って廊下に出ていった。あたしは受け取った教科書を見る。


【幻覚とは】

 対象は存在しないが、はっきりとした感覚が存在すること。

 これを魔法で見せること。このことを「幻覚魔法」という。


【幻覚魔法の呪文】

 ○○よ○○よ。姿を変えよ。我の思う通りの姿となりて。頭を見よ。思考を見よ。我はこの姿を求める。


【幻覚魔法。衣服について】

 服には作り手の魂が込められている。また、着る者の魂と作った者の魂が共鳴している。この共鳴を利用し、布と糸を変形させる。必ず最初に「糸」を呼び、「布」を呼び、それらをどのように変形させたいのかイメージした後、糸と布で服を作り上げた人の魂に願いを伝える。誠心誠意の真心を込めれば、魂がその願いを聞き入れ、元の形は変化しないが、幻覚を見せてくれるだろう。


「対象がないのに、その対象のように見せる。これが幻覚魔法。つまり、幻覚になりえるはっきりしたイメージが必要なの。ルーチェ、ドレスの形をまず覚えて」


 あたしは動画を再生しながらドレスの形を観察する。頭の中に刻んで、強くイメージする。


「さっきのユアン君みたいに唱えてみて。教科書に書かれてるこの呪文ね。ゆっくりでいいよ」


(イメージして)


 目の前のドレスを見ながら、口を動かす。


「糸よ、布よ、姿を変えよ。我の思う通りの姿となりて、頭を見よ、思考を見よ、我はこの姿を求める」


 イメージする。ドレス。アニメーション。少女のドレス。動画が流れる。――突然、広告が流れた。パルフェクトが声を上げた。


「あ」

『夏はやっぱり、デ・ルーチェ♡』

(あ)


 集中力が切れた。ぼわんっ! と魔力が破裂した。パルフェクトが瞬きした。あたしはうんざりした。自分の服装が、広告に映ってたパルフェクトと同じ水着姿になってしまっていた。


(うわー……)

「ふわぁーーー♡♡!!」


 パルフェクトが瞳を輝かせた。


「水着ルーチェ♡ちょーかわぁーー!」

「え!? 水着!?」


 クレイジーがドアを開けた。


「ひょーい! ルーチェっぴ! 俺っちにも見せ……!」


 あたしはすかさず鞄を投げた。クレイジーの顔面に直撃する。クレイジーが鼻血を出してその場で倒れた。ついでにあたしの魔法も解けた。元のジャージ姿になる。ゆっくりと近づき、殺意を込めて倒れるクレイジーを見下ろす。


「なんでドア開けたの……?」

「水着って……聞こえたから……男なら……見るべきだと……」

「クレイジー君!」

「ごめんごめん。ルーチェ♡、もう一回やってみよ! 今度は停止して! ね!」

「クレイジー君はあっち行ってて!」

「んだよー。ちょっとくらい良いじゃーん!」

「良くない!」


 再挑戦。集中して魔力を衣服に包み込ませ、魂に願いを伝える。


「糸よ、布よ、姿を変えよ。我の思う通りの姿となりて、頭を見よ、思考を見よ、我はこの姿を求める」


 ジャージを作った人の魂に問いかける。どうかこのドレスに変身させてくれませんか? お願いします。一瞬でいいんです。あたしの魔力が布と糸を包み込むと、布と糸に元々あった魂が同調されていき、ジャージが溶けて、あたしの体を包み込み、溶けた布がアニメーションと同じドレスになった。


「成功!」

(わっ、出来た……!)

「ルーチェ♡激やばかわたん!」

「やり方合ってますか?」

「ばっちり!」

(なるほど。感覚……ちょっとわかったかも……)

「ユアン君、もういいよー!」

「ういーっす!」


 クレイジーがドアを開け、ドレス姿のあたしを見て、ぴたりと口を止めた。


「……」

「ルーチェ♡、上手くいってよかったね! すっぎょく激やばかわたん!」

「後でメモしておきます」

「……」

「クレイジー君、どうかな? こんな感じで大丈夫?」

「……ん」


 クレイジーがこくこくと頷いた。


「全然、ん、大丈夫……」

「そっか。良かった」

「むしろ」

「え?」

「いや、……何でもないよー! あははは!」

(……なんか変なのかな?)


 ドレスからジャージに戻る。この間に水分補給も忘れずに。


「良かった。大丈夫そうだね! あとは訓練あるのみ! ルーチェ♡、頑張ってね!」

「……ありがとうございます」


 きゅん♡

 パルフェクトの胸がときめいた気がした。知らないけど。


「うふふ。ふふふ♡ えっと♡ 魔法は練習してもらうとして、じゃあ、動きの確認と、振り付けの復習、ゆっくりやってみましょうか! はい! 最初の立ち位置は?」


 あたしとクレイジーが目を合わせる。ここ? いや、こっちじゃない? いや、ルーチェっぴ、ステージがあって、そこから登場するから……。え、だったらこっちじゃない? ……あり? あたしとクレイジーがパルフェクトを見た。


「オッケー! そこからやろっか!」


 ぱちんと、パルフェクトがウインクした。



(*'ω'*)



「はい! じゃあ今日はここまで! 成長楽しみにしてるね!」


 そう言って、動けなくなってその場に倒れるあたしとクレイジーを置いて、パルフェクトは優雅にスタジオから出て行った。


(疲れた……)

「うおお……やべぇ……今日はやばみすぎぃ……足ちょー痛ぇ……まじ卍ぃ……」

(何もできない……)

「ルーチェっぴ、大丈夫かぁー!?」

(大丈夫じゃない……)

「あ、ありがとー!」

「え?」

「ん?」

「今、ありがとうって……」

「いや、スイッチ切ってくれたから」


 あたしはきょとんとしてラジカセを見た。曲は止まっている。――再生されていたのに。


「……」


 あたしとクレイジー君は倒れている。パルフェクトも出て行った。誰も停止ボタンは押せない。


「……、……」


 あたしは固唾を呑んだ。


「誰か来た?」

「あー……ルーチェっぴ……疲れてるでしょ。そうだよなあ。パルフェクトがこんなにハードに教えてくれるなんて、予想外だっちゃー」

「いや、え、だって、この距離……」

「ルーチェっぴ、まだ余裕ある?」

「え!?」

「ちょっと幻覚魔法、練習していかね?」


 クレイジーが緑の瞳をあたしに向ける。


「ルーチェっぴ、あんま使ったことないんでしょ?」

「……うん。存在は知ってたけど、使う機会もなかったし……ちゃんとしたのは初めて」

「ルーチェっぴも言ってた通り、魔法は数。慣れ。練習あるのみ。まだスタジオ使えるからさ、ちょっと練習してこうや。俺っちもやりたいしさ!」

「Cステージの発表って……二週間後だよね……」


 あたしは溜め息を吐いた。


「鬼だね」

「はっはっはっ!」

「二週間でダンス初心者が踊れるようになるわけないじゃん……」

「ルーチェっぴ、あくまでCステージは一次審査だから、そんなに気にする必要ねえって」

「い、い、いけると思う?」

「うん。いけると思う」


 あたしはぽかんとした。クレイジーはきょとんとした。


「ん?」

「……いけると思ってるの?」

「うん」

「すごい自信だね」

「だってあのパルフェクトが教えてくれたんだよ? いかなかったら、男のプライドが傷付くって!」

「プレッシャーとか感じないの?」

「あー、ルーチェっぴ、プレッシャーに弄ばれてんね。あー、ダメダメ。それはナンセンスだって。自分を追い詰める方法は自分でコントロールしなくっちゃ! 知ってる? プレッシャーは楽しむものなんだよ?」


 にんまりと笑うクレイジーに眉を下げると、クレイジーが声を出して笑った。


「本当だって! 何事も楽しまないと人生損損じゃん? あのパルフェクトが教えてくれた。じゃあ絶対にBにはいかないと。相方はルーチェっぴ。誘ったのは俺っち。さて、言い出しっぺの俺っちはどこまでやれるかな? ほら、わくわくして来ね?」

「……あたしはしてこない。不安の方が勝つ」

「ルーチェっぴ真面目すぎぃー。もっと緩く行こうぜぇー!」

「ああ、よく言われる。頑固者の頭でっかちだって」

「ゲーム感覚で考えると楽しいよ? ね? ルーチェっぴもやってみなって! ご褒美とかつけるとやる気出るもんよ?」

「あー、ご褒美ね……」


(ご褒美か……。もしCステージが通ってBステージに上がれたら……)


 ――ミランダ様に、膝枕をしてもらう――とか……。


「……」


 あたしの胸が、とぅんく……と鳴った。


(駄目かな?)


 あたしは起き上がり、スマートフォンを出した。クレイジーが瞬きする。あたしはチャットアプリを出した。クレイジーが天井を見た。あたしはチャットを打った。


 <ミランダ様、もしCステージが通ってBステージまで行けたら、膝枕してもらえませんか?


 ……。タイミングが良かったのだろうか。既読マークがついた。クレイジーが後ろから覗いてきた。あたしは気付かずチャットを眺める。ミランダ様からお返事が来た。


 >私の膝はそんなに安かないよ。


(デスヨネー)


 >今練習中かい?

 <副作用に気を付けるために休憩してます。

 >帰りは遅くなるのかい?

 <バイトがあるので昨日と同じ時間になるかと。

 >バナナと光の粉買ってこれるかい? 無くなっちまってね。

 <かしこまりました。


 あたしはタスクメモにすぐにメモした。バナナ。光の粉。


(はーあ。駄目だったか。膝枕。……しゅん……)


「……まじでミランダと喋ってんじゃん」

「わっ!!」


 あたしはスマートフォンを胸に抱き、覗いてたであろうクレイジーに振り返った。


「ひ、ひ、人のスマホは、んのぉーぞいちゃ駄目なんだよ……!?」

「いや、急に触り出したから何かなーって思って」

「プライバシーの侵害だよ!?」

「ねえねえ、訊いてもいい? ここだけの話」

「何……」

「ミランダの弟子ってどんなことするの? 職場とかさ、連れてってもらったりすんの? そんで、伝手増やして、大活躍ぅー的な?」

「……あー……いや」


 あたしは首を振った。


「ミランダ様、そういうのしない方だから」

「え? そうなの?」

「たまに見学させてもらえたりするけど、でも、やっぱり……他の魔法つか、使いが使う魔法をよ、よ、よく見なさいって言われる。ミランダ様の魔法ばかり知ってたって、ふ、っ、っ、プロになんかなれないって」

「ふーん」

「どちらかと言うと、ミランダ様は甲斐甲斐しく弟子の面倒を見る……んじゃなくて、ヒントをくれる。魔法使いに必要なこととか、それ以前に、社会人として必要なこととか、生きていく上で大切なことを、言葉じゃなくて、なんていうか、行動……とか、生活の中で遠回しにヒントをくださるから、それを見つけて、実行できるようにする……感じかな。あたしは」

「へえー。……ちょっとイメージと違ったっぴなー」

「そうなの?」

「師弟って、なんか、漫画みたいにさ、師匠の側で仕事する姿見ながら、そこで大活躍してどんどんこう、世界を広げていって? 評価も上がってって? ……みたいな感じかなって思ってた」

「うーん。そうだね。人よりは……伝手とか、ある方なのかもしれないけど、……実際、仕事に行くのはミランダ様だし、依頼人と喋ったとしてもあたしは電話番だから、そこでおしまい。世界とか、伝手とか、そういうのは自分で知り合って広げなさいって言われてる。ミランダ様関係でし、し、知り合ったのって……ジュリアさんくらいだと思う」

「ジュリア?」

「ジュリア・ディクステラさん」

「……魔法調査隊の?」

「あ、知ってる?」

「え!? 会ったことあんの!?」

(……あー、あたしもこんな感じだったんだなぁ……)


 ジュリアを知る前のあたしを思い出す。ジュリアさんのマント、燃やしちゃったなぁ……。


「やっべ! ジュリア・ディクステラって、あの仮面の下とかどうなってんの!? なんかさ、噂では火傷の痕が酷くて表に顔出せないから仮面してる説とかあるじゃん? そうなの!? てか、やっぱり魔法とかすごいの!?」

「学校祭来てたよ」

「えー!? まじぃー!? 俺っち、全然気付かなかったぁー!」

(……クレイジー君にジュリアさんの魔力を見せたらどうなるんだろう)


 あたしは体内にさえ入らなければ平気だったけど、重圧に耐えられない人達は倒れて動けなくなっていた。


(見た目はどうあれ、彼は選抜から選抜されたクラス、駆け出しクラスに上がれた一人。どうして彼は駆け出しクラスに上がれたんだろう。なんであたしは研究生クラスのままなんだろう)

「いや、ルーチェっぴ、やっぱさ、そういうのまじ強いって! ディクステラと知り合いなんてまじですげーじゃん! この間来てた特別講師の先生も言ってたけど、ジュリアは謎で怖いって言ってたよ! いやー! すげー! いいなー!」

(クレイジー君はまだプロになってない。まだ学生だ。彼の魔法なら……)


 あたしでも盗めるものがあるかもしれない。

 ある意味――彼と組めたのは幸運だったのかも。


 折角の機会だ。これを利用しない手はない。

 あたしだって魔法使いになりたい。なる為にここにいるんだ。


「ね、クレイジー君」

「ん?」

「クレイジー君は、どんな魔法使いになりたいの?」

「俺っち? 俺っちはね! やっぱり植物? 緑魔法使いとしてあちこち回って、お花とか観葉植物とか、元気なくなった命を応援するっていうの? そういうのしたいんだわ!」

「……あ、そっか。花屋でバイトしてるんだっけ?」

「そそっ! 母ちゃんがお花好きなんだよ!」

「花かー。……うちはあまり、花に関わることはなかったな」

「花はいいぜー。癒やし効果にも繋がるからさ」

「……緑魔法、幻覚魔法で何か使えないかな」

「……ん、例えば?」

「あたしが階段上がって逃げた先に吸血鬼が待ってるでしょ? その時に蔓とか使って追いかけるとか」

「あー! それいいかも! ちょっと待って!」


 クレイジーがノートを広げて、鉛筆で書き始めた。


「ルーチェっぴ逃げるじゃん。で、ここに俺っちいるじゃん。ここでしょ?」

「うん。このタイミングで、あたしが作った階段の手すりに絡ませたりして、追いかけたり、で、糸でぶら下がるところあるじゃん。ここも蔓にするとか」

「けど蔓にしたら取れなくなるくね? 糸なら噛んで取れるけど」

「クレイジー君、あたしは魔法使いだよ?」

「あー……ここで魔法を見せつけちゃう?」

「そういうこと」

「いいじゃん。……まだ時間あるし、魔法の演出考えよー。ルーチェっぴ、明日も時間ある?」

「昼は空いてるから、できる限りやろう。あたしもプレッシャーに勝ち、勝ちたいもん」

「ん! 土日はどうする?」

「……」

「ま、……休みも大事だよな」

「一日だけ休まない?」

「お、大丈夫?」

「うん。一日だけ休み入れよう。……あたしがで、出来てないから、個人連したい」

「りょー。じゃあさ、土曜日休む? どっちにしろ次パルフェクト来るのって日曜日じゃん? その次の月曜日が一次予選っしょ?」

「あ、そうだね。じゃあ……そうしようか」

「おっけー。じゃあ明日の金曜日は来てー、土曜は休み……」


 そこでクレイジーが声を上げた。


「あーーーー!」

「ひぇっ、何?」

「忘れてたー! ルーチェっぴ! チーム名、まだ決めてなかった!」

「……チーム名?」

「提出明日までだった! くぅー! やっべー! ちょー絶望的!」

「だったら今決めちゃおうよ」

「だねー。どうするー?」

「「……」」


 あたしとクレイジーが黙った。


「「……」」


 スタジオがとても静かになった。


「……ルーチェっぴ、どんなのがいい?」

「……カッコいいのがいい」

「カッコいいのかー」

「何かないかな。カッコいいの」

「んー」

「単語書いていったらいいかも」

「あ、確かに」


 クレイジーが言葉をノートに書いた。


 吸血鬼。夜。凸凹。男女。緑。光。植物。えとせとら。


「……うーん……」

「……一回持ち帰る?」

「だね。俺っちもバイト中に考えてみるよ」

「あたしも考えておくね」

(今日、気前のいい先輩が出勤だったはず。記者だし、何かいい案くれるかも)

「考えたらチャットして。今日は演出の魔法についてまとめよー」

「うん」


 あたしとクレイジーが再びノートに向き合った。


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