そりゃまた不思議な縁だな

「よ……4万8000イエン!?」

「はい。ご不満ですか?」

「え、いや。不満とかじゃなくて……そんなに!?」

「はい。ゴブリンの魔石は1つで1000イエン。ゴブリンの特殊個体の魔石は1つで2000イエン。グラスウルフの魔石が1つで4000イエン。随分倒してきたんですね」


 微笑む職員から視線を外し、イストファはカイルへと振り向く。


「あれだけゴブリンを倒したんだ。妥当だろ」

「そ、そうなのかな」


 正直、もう何匹倒したのかも覚えていなかったが……目の前のカウンターに置かれた4枚の1万イエン金貨の輝きと、5000イエン銀貨、そして1000イエン銀貨3枚の輝き。

 どれも今までのイストファの人生では、こんなにたくさんのお金が輝いているのを見た事などなかった。

 思わずゴクリと喉を鳴らし「あ、ありがとうございます」と言いながら震える手でイストファは硬貨を袋に仕舞う。


「この調子で頑張ってくださいね」

「は、はい!」

「ああ、それとだ。売りたい情報がある」


 そこでようやく前に進み出てきたカイルに、職員は「どのような情報でしょうか?」と言いながら紙とペンを差し出してくる。

 口頭では当然聞かれる可能性があるが故に、筆談で「買うに値する情報か」を確かめるわけだが……そこにカイルは慣れた手つきでサラサラと書いていく。

 文字の分からないイストファには当然のように読めなかったが、カイルから紙を受け取った職員は「なるほど」と頷いてみせる。


「この情報ですが……すでに複数件寄せられています」

「なに……?」

「実のところ、ドロップ情報に関しては当たれば儲けくらいの気持ちで不確定情報を寄せられる方も多く……」


 苦笑する職員に、カイルは苦々しい表情になる。


「ですので、最近は職員同行か、あるいはギルド指定の冒険者によるドロップの現場確認でしかドロップ情報の買取はしていないのです」

「チッ……くだらん奴が多いな」

「仰る通りかと。ところで、現物があるなら是非買い取りたいのですが」

「使ってしまった」

「なるほど。残念です」


 然程残念そうでもない表情で言う職員だが、カイルは大きく溜息をつくとイストファへと向き直る。


「すまんな、ぬか喜びさせた」

「え、別にいいよ。無事に帰ってこられたんだし」

「……ま、それはそうかもしれんが」


 頭を掻いたカイルは息を吐くと「……帰るか」と呟く。


「そうだね。カイルは何処の宿なの?」

「俺か? 俺は星見の羊亭だ」

「えっ」

「なんだ、まさか同じ宿か」

「僕っていうか師匠だけど……」

「ふーん? そりゃまた不思議な縁だな」


 面白そうに言うカイルにイストファも「そうだね」と笑う。

 確かに不思議な縁だ。

 カイルと出会って、友達になって。

 宿が同じ……というにはちょっとアレだが、一緒に帰る。

 今までの人生には無かった経験に、イストファはくすぐったいような感覚を覚える。


「じゃあ、行くか」

「うん」


 頷いて、二人は歩き出して。


「あ、ちょっと待てガキども」


 近くのテーブルで話し合いらしきものをしていた冒険者達の一人に、そう声をかけられる。


「なんだお前。何か用か」

「ちょっとカイル。またそんな……」


 早速喧嘩腰のカイルをイストファは抑えるが、冒険者の男は気にした様子もない。


「夕方頃、武器屋に落ちぶれ者共が押し入ったみたいでな。何本か安いのを持ってかれたって話だ。衛兵が見回っちゃいるが……」

「えっ、それってまさかフリートさんの」


 イストファが顔を真っ青にすると、冒険者の男達はハハッと声をあげて笑う。


「フリートの頑固親父がそんなヘマすっかよ! あの親父の店に押し入ってたら全員『開き』になってるわな!」

「そうそう、何しろ手加減知らねえからな! 覚えてるか、先月ジョージの馬鹿がナイフ折った時の」

「あー。あのバカ、宝箱の金具弄っただけでへし折れるたあ何事だって怒鳴り込んで」

「お前をへし折ってやろうかって店の外までブッ飛ばされたんだろ? 見たかったよ!」


 楽しそうに笑い合う男達の会話の内容にイストファは思わず口の端がヒクつくのを感じる。

 あの優しいフリートさんがまさかそんな、とは思うのだが……どうにも嘘にも聞こえない。


「そのフリートってのと知り合いなのか?」

「あー……うん。色々お世話になってて」


 カイルにそう答えると、ジョージとかいう男の話で盛り上がっていた冒険者達が一斉に振り向く。


「お、なんだイストファ。お前フリートの親父に可愛がられてんのか?」

「え? えーと……この前買い物したくらいですけど」

「ほー。そんじゃ、その装備はフリートの親父の見立てか」

「確かにモノはいいな。色々足りてねえけど……まあ、金の問題もあるわな」


 何かを納得した風の冒険者達は頷くと、真剣な表情でイストファへと顔を向ける。


「その縁、大切にしとけよ。あの親父、気に入らねえ奴の相手はしねえからな」

「だから儲からねえんだよな!」

「違いねえ! だからカミさんに逃げられんだ!」


 今度はフリートの話題で盛り上がり始める冒険者達にカイルが「酔ってるのかこいつ等……」と呟いて。

 イストファはそれに、苦笑で返すしかなかった。

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