ま、今後に期待しといてくれ

「うわっ……!?」

「うおっ!」


 足を止めた二人の先に居たのは、弓を構えたゴブリンと……そして、もう一匹。


「ギイイイイ!」

「くっ!」


 イストファの足が早くて先行していたのは幸いだっただろう。

 一気に距離を詰めて剣を振るってきたもう一匹のゴブリンの剣を、イストファは短剣で弾く。


「この……ボルト!」


 カイルの杖から放たれた電撃を受け、剣のゴブリンは僅かに顔をしかめて後ろへと跳ぶ。


「くそっ、やっぱりダメか!」

「カイル、今のって……」

「電撃魔法ボルトだ! 今の俺じゃ、軽く殴ったくらいの威力しかねえ!」

「充分!」


 それでも距離をとらせるくらいの威力はあったのだ。

 ならば、それだけで充分な援護になるはずだとイストファは思う。


「それで、カイル! アレはファイター!?」

「違う! 弓の方はゴブリンアーチャー、剣の方は……たぶんゴブリンソードマンだ! 技術がある分ファイターより面倒だ、気を付けろ!」

「分かった!」


 技術がある、つまり剣技の心得があるのだろうとイストファは理解する。

 そして実際、その理解は正しかった。

 人間のそれではなく、あくまでゴブリン流だが……ゴブリンソードマンは「ソードマン」と言われるだけの剣技を誇るゴブリンだ。

 胸部鎧を着込み油断なく剣を構えるその姿は、剣士そのもので……しかし、アーチャーの存在がそれだけに集中させてくれない。

 キリキリと音をたてて弓を引き絞るゴブリンアーチャーの姿は、それだけで脅威だ。


「安心しろ、イストファ」

「カイル?」

「アーチャーは俺がどうにかする。お前はソードマンを全力で押さえろ」

「えっ」

「くるぞ!」


 イストファが来ないと悟ったゴブリンソードマンがイストファへと向けて地を蹴る。

 横薙ぎに繰り出される剣をイストファは自分の短剣で受け、払う。

 ギイン、と響く音はゴブリンファイターのそれよりも軽いが、すぐに切り返し襲ってくる斬撃をイストファは弾くだけで精一杯になってしまう。


「う……強い!?」

「落ち着け! 技があるからそう見えるだけだ! それより……うおっ!?」


 足元に矢が刺さったカイルが叫び後ろへと下がる。


「それより、もっと射線を開けてくれ! 今のままじゃどうにも出来ん!」

「そ、そんな事言われたって……!」


 防戦一方のイストファにはどうしようもない。


「カイル、さっきの魔法で隙作れないの!?」

「無理だ、ちょっとズレたらお前に当たるぞ!」


 死にはしないが隙は出来る。そんなものをイストファに当ててしまえばどうなるかは明らかだ。

 防戦一方とはいえ、イストファとゴブリンソードマンは激しく動き立ち回っている。

 イストファだけを避けてゴブリンソードマンに上手く「ボルト」を当てる自信はカイルには無いし、今のカイルの魔力だと「フレイム」を使えばイストファが火傷しかねない。


「ならどうしたら……!」

「ぬぐぐ……」


 考える。カイルは必死で考える。

 どうしたら、どうすれば。

 考えて……ふと、気付く。


「……ん?」


 そういえば、おかしい。

 ゴブリンアーチャーの射撃の頻度がやけに低い。

 その事実に気付きカイルは二人の向こうのゴブリンアーチャーへと視線を向ける。

 そうすると……そこには、弓に矢を番えたままオロオロしているゴブリンアーチャーの姿があった。


「……ハッ、そういうことか」


 気付いた瞬間、カイルは走り出す。


「えっ、カイル!?」


 驚くイストファだが、ゴブリンソードマンを放置できるはずもない。

 何か考えがあるのだと無理矢理信じてゴブリンソードマンに集中し……その横を、カイルが走り抜ける。


「ギ……ギイッ!」


 そして、そんなカイルへとゴブリンアーチャーの矢が放たれて……しかし、その矢はカイルの黒いローブに弾かれる。


「ギッ!?」

「効かん!」


 慌てて次の矢を番えようとしたゴブリンアーチャーだが、その時にはもうカイルが眼前で杖を振り上げている。


「おおおおらあああああああ!」

「ギャガッ!?」


 ガヅンッ、と鈍い音が響きゴブリンアーチャーが地面に転がる。

 金属製のカイルの杖はそれなりに重量があり、ハンマーやメイスとまではいかないが鈍器として使えば打撃力もある。

 そんなもので殴られたゴブリンアーチャーはたまったものではない。

 元々カイルが一人で潜っていたのも、その打撃力を頼んでのことだったが……それが今、活きた。


「このっ、この! おらおらあ!」


 倒れたゴブリンアーチャーに杖を振り下ろすカイルの姿は魔法士でもなんでもないが、威力は確かだ。


「ギッ……」


 そして、それはゴブリンソードマンに思わず仲間を助けに行こうかと一瞬思わせる程の効果はあった。

 だからこそ……イストファはそこに、致命的な隙をみた。

 今だ、と。声にあげないままにイストファは短剣を振るう。

 狙うのは、剣を持つ手。切り裂く一撃が、ゴブリンソードマンに悲鳴をあげさせ剣を取り落とさせる。


「ギアアアアアッ!?」


 苦し紛れのゴブリンソードマンの拳がイストファを捉えて。

 しかし、吹き飛ばない。その場で踏み止まり、イストファは笑う。


「……ごめん。ぜんっぜん効かないや」


 嘘だ。ヒリヒリするし、口の中をちょっと切った。

 でも、耐えた。

 その事実を、喜びを感じながらイストファはゴブリンソードマンの鎧に守られていない腹部に横薙ぎの一撃を加える。


「ガ、ァッ……」


 膝をついたゴブリンソードマンに、トドメの一撃が加えられる。

 動かなくなったゴブリンソードマンを見下ろし、イストファは同様に戦闘音がしなくなったゴブリンアーチャーとカイルの方へ視線を向ける。


「終わったか」

「うん。カイルも?」

「見ての通りだ。魔法士らしくはねえが……ま、今後に期待しといてくれ」

「そうさせて貰うよ」


 そして、笑い合う。

 二人の協力……というには少々問題もあるし連携というかも疑問だが。

 とにかく二人で得た勝利は、確かな自信を二人の中に刻んでいた。

 

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