第6話 ドラゴン狩り

「かかれー!」

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』


 二千の兵が雄たけびを上げてドラゴンの群れに突撃する。


 どうしても通らなければならないルートには計八体の中型ドラゴン。


 見上げるほど巨大な体躯を揺らし突進するドラゴンに兵士は蹴散らされ、一撃で家二軒を灰にする炎を吐いて一度に一〇人以上の兵士を焼き殺す。


 金属質な緑色のウロコに剣を立て槍を突き立て弓を引く。


 一部の兵が惹きつけている間に弓兵部隊の矢がドラゴンの目に刺さり、また別のドラゴンには裂帛の気合と共に突き出された槍を一斉に腹に着き刺し殺した。


 それでも、やはり勇者の活躍には敵わない。


 それこそ群衆で以って一体のドラゴンに立ち向かってなお何十人もの犠牲を伴う兵士だが、勇者達は二、三組のパーティーだけで一体のドラゴンを倒している。


 勇者といえどドラゴン退治は骨が折れるが、逆に大変なだけで勝ててしまう。


「やっぱレイド学園卒業した連中は違うな」


 合図を待つ弓兵部隊の一人がそんな言葉を口にする。


「ガキの頃から戦闘漬けだもんな」

「国から勇者の称号貰えるだけ鍛えるなんて俺にゃできないね」

「特にあの譲ちゃん、あれで今年卒業ってマジかよ……」

「放てぇえええええ!!」


 合図と同時に、無駄口を喋っていた四人も慌てて他の弓兵のように矢を放った。

 彼らの視線の先にあったのは……


「アルア!」

「任せて!」


 アルアが手を前にかざして目の前に貼った防御結界は、ドラゴンの火炎を簡単に防ぎ、その間にエリスは一陣の風となり、二本の後ろ脚で立つドラゴンの背後にまわり飛びかかる。


 気付いたドラゴンが振り向くがそれはエリスの計算通り、自ら顔を向けたくれたドラゴンの目を斬りつけた。


 地面に着地すると、口を開けて苦しむドラゴンに向けて剣を一閃。


 すると魔力を込めた銀色の剣から光の刃が飛び出し、ドラゴンの口の中に命中。


 口から血を吐き苦しむドラゴンにアルアが追撃をしかける。


「サンダーブレイク!」


 空から突如巨大な雷が降り注ぎ、ドラゴンの身を焼き焦がす。

 たまらず四つん這いに戻り、そして突進の姿勢を取るドラゴン。

 だがそんな事は許さず、エリスは再び右手の剣に魔力を込めて両手で持ち直す。


「はぁああああああああ!!」


 気合い一閃、両手で振り下ろした剣でドラゴンの首を両断し、エリスは剣についた血を払い落してから剣を鞘に納める。


「わぁい、やったねエリス♪」


 エリスが左腕についたスモールシールドをかざす。


「なんであたしに防御姿勢?」

「いや邪悪な気配を感じてな」

「邪悪じゃないよ、ただ勝利のハグと乳揉みと尻揉みをしようと、って剣向けないでよ!」


 二、三組のパーティーどころかたった一組、それも二人だけで最強のモンスター、ドラゴンを倒す二人の姿には他の勇者パーティーも驚きを隠せなかった。


 やがて戦闘は三〇分ほどで終了。


 八体のドラゴン全てを片付け、軍隊は隊列を組み直してまた行進を続ける。


 死んだ兵士を一人ずつ弔ってやりたいのは皆同じだがそんな時間は無い。


 ドラゴン以外にもモンスターの多いこの山に長居はできない、今は一刻も早くグレモア盆地へ辿りつき大天使を召喚しなくてはならないのだ。


 エリスは行進が始まる直前、犠牲になった兵士達を振りかえり、唇を噛んでから前を剥いた。


「アルア、この作戦、必ず成功させるぞ」

「あったり前じゃん♪」


 明るい笑顔を返してくれるアルアの頭を撫で、そしてソレは起こった。


「なっ!?」

「うわわ!?」


 世界が揺れる。


 なんの前触れも無く起きた突然の大地震に一万近い兵が動揺し、隊列が乱れる。


 揺れはさらに酷くなり、まるで世界の終わりかと思うほどだった。


 地面に亀裂が入り、離れた場所の崖が崩落する。


 立てる者はおらず、全員地面を転がり方向感覚すら失ってしまう。


 邪神の攻撃か、もしやこの作戦に気付き邪魔をしようというのか、そんな考えがエリスの頭によぎった時、ついに世界が崩壊した。


 体を包む浮遊感、落下する兵士、周囲の全てが奈落の底へと飲み込まれていく。


 どうやら巨大な地割れに飲み込まれたらしい。


 なんとか抜けださなくては、そう考えたエリスだが上からは兵士や荷車、そして崩落した岩が雪崩のように襲い掛かる。


「くっ、アルア! アルアー!」


 頼みの仲間を呼ぶが返事は無い、いや、仮にあっても兵士達の悲鳴にきっとかき消されただろう。


 エリスの意識が続いたのはそれまでだった……


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