第十三話 ガレオ商会

 菊地が異変に気づく10分ほど前。

 ロバートはまだミギマと共にアクィラ商会にいた。


「ふぃー! これで全ての商品の見積もりが終わりですねぇー!」


「あわあわわ、0がいっぱいついてるっす……」


 ミギマに掲示された金額を見てロバートは目を回す。

 その額はロバートが一回の行商で得られる収入を遥かに超えていた。

 もしこの収入を安定して得られるならば自分の商会を作ることすら考えられる金額だ。


「ロバート商会……悪くない響きっす……」


 ロバートは自分が商会長になっている姿を想像し、頬を緩ませる。

 しかしそんな至福の時間も突然商会に入ってきた者たちによって終わりを迎えた。


「相変わらずさびれた陰気くせえ商会だなここは! ちゃんと稼げてんのかねえ!?」


 入って来たのはガラの悪い五人組の男たち。

 ロバートは最初チンピラが入って来たのかと思ったがよく見たら彼らの胸には商会のエンブレムのバッジがあった。あんなナリでも商人なのかとロバートは驚く。


「奴らもこりないですねぇ……。ロバートさん、少し席を外させていただきますよぅ」


 ミギマはそう言うととても嫌々そうに男たちの元へ向かう。


「これはこれはガレオ商会のみなさん! アクィラ商会へようこそ! 本日はどんな御用でしょうかぁ?」


 ミギマの大声に男たちは少し怯むが、先頭に立つ彼らのリーダー的存在だけは全く意に介していなかった。

 その栗色の髪をした長身の男は近づいて来たミギマを苛々しげに睨みつける。


「ミギマァ、おふざけはヤメにしようぜ? 観念して立ち退いた方が身の為だぜ!」


 そう言って男は商会の柱を蹴っ飛ばす。

 柱はミシミシ! と鳴るが折れるほどではない。

 分かっている、これは挑発だ。乗ったらあいつらの思うツボだ。

 ミギマはそう理解しながらも湧き出る怒りを止めきれず歯をくいしばる。


「……伝統あるこの商会を畳むことは出来ません。貴方達こそ商会こそやめて傭兵にでもなった方が活躍出来るのでは?」


「言うじゃねえかミギマ。だがいくら吠えたところでムダだ。見てみろよお前ら、この貧相な客達を! こんな奴らと商売して儲かるわけが……ん?」


 男は更にミギマを挑発するために客に目をつけるが、その過程でロバートに目が止まる。


「お、お前……ロバートか?」


「へ? なんで俺っちの名前を?」


 ロバートは突然名前を呼ばれてキョトンとする。

 彼は目の前の人物に心当たりがなかった。


「ハッハッハッ! こら傑作だ! まさかあの泣き虫ロバートがいっちょ前に商人まがいの事をやってるとはな!! まあお前が俺の事を覚えてないのも仕方ねえ。まだお前は

 小さかったからな」


「い、いったい何を言ってるんすか! お前はいったい誰なんすか!?」


 男はニヤリと意地が悪そうに笑いながらロバートに素性を明かした。


「俺はガレオ商会のジーマ。そしててめえの……兄だ。久しぶりだなロバート」

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