第十二話 スライムチェンジ

 人間は本当かわからない情報を話す時どうしてもそれが仕草に出てしまう。だったらそれが出てない人物、つまり確信をもって話している人物を探せばいい。


 俺はざっと周りを見渡し、一人の青年にアタリをつける。

 その青年は確証を持った様子で何かを周りに言っている。一体何を話しているんだ?


「ちょっといいか? なにかあったのか?」


「え?  ああ、大変なんだよ! なんかアクィラ商会の近くで若い商人が他の商会の奴らに絡まれてるのを見てさ! 若い商人の方は護衛を連れてないしいったいどうなっていしまうんだろう!」


「アクィラ商会に若い商人だって!?」


「ひぃ!」


 俺は思わず大声を出し青年に詰め寄る。

 いかんいかん、冷静にならねば。


「その情報は確かなのか?」


「あ、ああほんの3分前くらいにこの目で見たからな。『なんっすか、あんたらは!』って叫んでたから何だと思ってチラ見したんだよ」


 この口調、間違いない。

 ロバートだ。


 くそっ! 何でこんな短時間で何回もピンチになるんだよ!

 とにかく急いで助けに行かなければ!


「そら! スライムチェンジだ!」


「うん!」


 そらは残りのジュースを一気飲みし、俺の肩から飛び降り変身を始める。

 まずボム! と大きくなったそらはうにょうにょと体を変形させ四足獣のような形になる。


 そして変形を開始して数十秒でそらの体は昔俺が戦った魔物、『グランドウルフ』と全く同じ形になる。


「へんしんかんりょー!」


 そらは変身してテンションが上がったのか遠吠えをあげる。

 やめろやめろ通行人が驚いてるじゃないか。


 この『スライムチェンジ』はそらのみが使える能力だ。いちど触れた相手の姿なら何でも変身できるらしい。すごい能力だ。

 しかしそらの大きくなる限度以上の大きさの生き物にはもちろん変身できない。

 その他にも見た目は水色の半透明のままというデメリットはあるが身体能力は変身元とほぼ同じという特徴も持っている。

 なのでこの状態のそらの移動能力は凄まじい。


「どうやらここでお別れのようじゃの」


 気づけばリンドが近くに来ていた。

 そらのこの姿を見ても驚かないとは本当に豪胆な爺さんだ。


「色々教えてくれてありがとう。また会えたら礼をさせてくれ」


「ほほ、こちらこそ楽しかったよ。また会おうスライムマスター殿」


「ああ!」


 俺は別れの挨拶を手早く済ませグランドウルフになったそらにまたがる。

 グランドウルフ状態は嗅覚もいいからすぐにロバートを見つけてくれるだろう。


「行け! そら!」


「がおー!」


 楽しそうな雄叫びを上げてそらは大ジャンプする。

 そして屋根と屋根をジャンプしながら進む! これならすぐにつきそうだ!


 ……にしてもあの爺さんは何者だったのだろうか。

 不思議な爺さんだったな。


 俺はあの爺さんと話したことを思い返す。

 そしてその中で不思議なことが一つあったことに気が付いた。


「……そういえばあの爺さん。なんで俺がスライムマスターだって知ってたんだ?」


 俺のその小さな疑問は現場に着く頃にはすっかり忘れていた。

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