第二話 大森林へ
「お、落ち着け!」
俺たちは4人がかりで暴れるエルフの女性を抑えつけ落ち着かせる。
正気を失ったかのように暴れたエルフもしばらくすると疲れたのか次第に大人しくなっていった。
「大丈夫か?」
「はあ、はあ、すいません取り乱しました」
「で? 一体どういうことなんだ村が食い尽くされるってのは」
俺が聞くとエルフは一瞬ためらうそぶりを見せたが、少しすると意を決し話し始める。
「私たちエルフの村はここより北西の大森林の中にあります。自然と共に平和に生きてきた私たちですが二日ほど前、奴らが現れたことによりその平穏は崩れ去りました」
話が進むごとにエルフの体が小刻みに震え始める。
よほど怖い思いをしたのだろう。
「その奴らってのは何者なんだ?」
「彼らの種族はオークといいます。何十人もの群れで襲撃してきた彼らに私たちは為すすべもありませんでした。女子供を逃すことはできましたが男衆は全滅、生き残ったエルフは今も逃亡生活を行なっています」
「なんと痛ましい……」
「ええ、許せません」
エルフの話に心を痛めたのかエイルと桃が悲痛な表情を見せる。
俺も顔にこそ出していないがかなりショックを受けている。
そりゃそうだよな。モンスターがいる世界なんだからこういう残虐なことは俺の元いた世界以上に起きているだろう。
「わ、私は残された同胞を救うため一人助けを求めに来ました。今まで人から避けるように暮らしてきた私たちが今更助けて欲しいなどと厚かましいことは百も承知です。でもどうか、どうか残された仲間を救っていただけないでしょうか? お願いします。私に出来ることなら何でもしますから……」
エルフは消え入りそうな声で頭を地面にこすりつけながら嘆願してくる。
どれほど悔しかったのだろうか。どれほど辛かったのだろうか。
彼女がいい暮らしをしていた事はその所作から想像がつく。その彼女が恥も外聞も気にせず顔をぐしゃぐしゃに濡らし歪ませるほどのことがわずか二日間の間にあったのだろう。
俺は気づくと泣きながら地に伏せる彼女の手を取り体を起こしていた。
「……え?」
「事情は分かりました。あとは俺たちに任せてください」
「あなたたちに……?」
不思議そうに首をかしげるエルフの女性。
そりゃそうだ。彼女も人里に降りてきたのは冒険者協会を頼るためだろう。だが今から王国に行って人を集めてなんてしてたら時間がかかりすぎる。
だったら。
「ええ。俺たちがやります。なあお前ら?」
俺の呼びかけに桃と緑は待ってましたとばかりに笑みを浮かべる。
「もちろんですキクチ様。私たちの力はあなたの為にあるのですから」
「ふふ、旦那様ならそう言ってくださると桃は信じてましたよ♪」
二人も一緒に戦ってくれるみたいだ。
心強い限りだ。
「よし! カラーズを集めろ! 準備が出来次第出発する! 目標は大森林だ!」
「「はい!!」」
こうして俺たちの新しい戦いの火蓋は切って落とされた。
◇
調べたところによるとエルフとオークの
しかしオークには凄まじい再生能力があるらしい。素早さと精密射撃が得意のエルフでは決定打に欠け、戦いが泥沼化し負けたのだろう。持久戦では怪力と再生力のあるオークに敵うはずもない。
おまけにオークの中に一際大きく強力な個体がいたらしい。
その話が本当ならオークの上位個体ハイオークだろう。ハイオークの階級は
俺たちも気をつけなきゃな。
「よし、全員揃ったな」
俺は集まった5人の人型スライム達を見回す。
全員やる気満々といった感じだ。
「まさかこんなに早く力を振るえるとはな。おまけに相手はくそったれ、手加減しなくていいときたもんだ」
「あたしも話を聞いてムカついたからな。思いっきり暴れてやるぜ!」
武闘派の紅蓮と雷子は特にやる気満々だ。
飛ばしすぎないといいのだが。
「み、皆様本当に大丈夫ですか? 相手はあの凶暴なオークなのですよ!?」
エルフの女性、ニーファは心配したように言う。
まあ側から見たら心配になるのも当然、オークの群れにたった6人で挑もうとしているのだから。
「安心してくれよ。確かに旦那は一見強そうには見えないかもしれないが実はとんでもねえ実力者なんだぜ? ギガマンティスを倒したから王国では『マンティスキラー』って異名が付けられるほどなんだぜ!」
「おい! その名は言うなよ紅蓮!」
そうなのだ、嬉しくないことに冒険者の間では俺のことを「マンティスキラー」と呼んでいるらしい。ドラゴンキラーとかだったら格好いいのだがよりにもよって
「ギガマンティスを倒したのですか!? すごい……エルフが総出でかかっても追い返すのがやっとだというのに……!」
ニーファが俺に羨望の眼差しを向ける。照れる、何だか悪い気はしないな。
スライムの女性陣3人の視線が少し冷ややかなのが怖いが。
「無駄話はこれくらいにしてとっとと行くぞ。今こうしている間にもエルフ達は危険な状態なんだから」
「あの、ところでどうやって向かうのですか? 見たところ馬などはいないようですが……」
「ああ、それなら心配いらない」
俺はスライムナイト状態に変身しニーファをひょいっと背負う。
「へ?」
突然の出来事にキョトンとする彼女を背負った俺は足に力を込める。
「ちゃんと捕まって下さいよ!」
そう言った俺は全力で駆け出す!
スライムナイト状態の俺の移動速度は馬を軽く凌駕する。あっという間に村が見えなくなる。
ちなみに他の5人のスライム達も今はスライム状態になり俺の中に入ってる。紅蓮や雷子あたりは付いてこれるだろうがわざわざ体力を浪費することはない。雷子が合体してくれた方が速度も上がるしな。
「どうだ乗りごごちは?」
背中部分のスライムは柔らかくしてるから乗り心地は悪くないはずだ。
そう思い聞いてみたのだが返事がない。いったいどうしたんだろうか。
そう思っているとそらが肩に乗ってきてこう言った。
「キクチ、このひときぜつしてるよ」
「……」
今度何か気絶しない乗り物を考えるとしよう。
俺はそう決心するのだった。
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