第十三話 ギガマンティス
「いやあ、まさかお主がそこまで強いとはな! 我輩びっくりしたのである!」
バシバシと俺の背中を叩きながらモリーは豪快に笑い飛ばす。
ザガンほどではないが痛い。この世界の冒険者はこうするのがお決まりなのだろうか。
「おいやめろってモリー。飯の時くらいゆっくりしてくれ」
「ガハハ! 了解である!」
ゴブリンの群れを撃退した俺たちは、お目当の薬草を採取を終え野宿をしていた。
バズの作ってくれたスープは素朴ながらもおいしかった。こういうキャンプみたいのはあまりしたことがないので楽しい。
「にしてもまさか今日中に採取が終わるとはな、こりゃキクチさんには報酬をはずまないとな」
実は薬草を集める時、早く集めるためスライム達に手伝ってもらったのだ。
一匹一匹が集まる速度はそれほど速いわけではないが100匹もいれば話は別。みんなのおかげで俺たちは目標の量のヒポポ草を集めることができたのだ。
「いいっていいって。この依頼を持ってきてくれてのはそっちなんだから銀貨5枚でいいよ」
「そうか? 遠慮しなくてもいいんだけどなあ」
銀貨は銅貨の百倍の価値、つまり一万円くらいの価値がある。
1日で銀貨5枚稼げる仕事は低級冒険者にはそうそうない。ここは欲を張らず彼らに恩を売ることにしよう。
「まあそういうならいいんだけどな。今回は一つ貸しにしとくぜ」
「ああ。それで明日はどうするんだ?」
「もう目標は達成したらな。長居する理由なんてないから朝早く出発して王国に向かおうと思っている」
それは俺としても助かる話だ。
遅くなったらロバートも心配するだろうしな。
「分かった。じゃあ今日は早めに寝なきゃな」
「ぼくもねむいー」
今日はたくさん働いたのでそらも眠そうだ。
早く寝て明日に備えるとするか……。
◇
次の日。
天気は快晴、絶好の冒険日和ってやつだが今日は帰るだけ。
俺たちは朝早く出発し緑豊かな森の中を進んでいた。
「この分だと昼前には着きそうだな。魔物も全然出てこないし順調そのものってやつだな」
アンディのいう通りこの日俺たちはまだ一回も魔獣に遭遇していなかった。
昨日はゴブリン以外にもちょくちょく魔獣に遭遇していたんだけどな。
「……あまりにも静か。嫌な予感がする」
「ガハハ! バズは慎重すぎるのだ! こんないい天気だから魔獣もまだ寝ているのだろう!」
「……モリーが大雑把過ぎるんでしょ」
そんな感じで賑やかに歩いていると先頭を歩いているアンディが何かに気づき声を上げる。
「おい! 森を抜けるぞ、王国までもう少しだ!」
アンディの言った通りほどなくして森の切れ目が見えてくる。
森を超えれば大きな平原が広がっておりそこまで行けば王国まですぐだ。
「よしこれで森をこえ……ん?」
不意にアンディが立ち止まる。
何か見つけたのだろうか。
「どうした? 何かあったのか?」
俺はアンディの横から顔を出し視線の先を見る。
その先にはやはり一度通った緑豊かな平原が広がっている……のだが。一つだけ見覚えのない物があった。
「あれは……木か?」
平原のど真ん中にポツンと何やら緑色の大きな何かが立っていた。
「ううん、木じゃない。よく見ると動いてる……!」
バズの言う通りその何かはゆっくりだが確かに王国の方に動いていた。
生き物、なのか……?
「ちょっと怖いがゆっくり近づいてみるか。あれに気づかれないよう気をつけるぞ」
アンディに従い俺たちはあれに近づいて確認することにする。
身を隠すところはあまりないがポツポツと木が生えているので、そこを利用すればバレないだろう。
「やっぱり生き物みたいだな」
近くに従ってそれの姿が分かってくる。
緑色の体に複数の手と足。それにあのフォルムは……虫か?
巨大な虫。それもカマキリみたいな魔獣だ。
「あ……あれはギガマンティス!? なんでこんなところに!?」
あの冷静なバズが取り乱し驚きの声を上げる。
額からは汗を流し口は半開き。そんなにヤバイやつなのか?
見れば他の二人もギガマンティスという名前を聞いて顔を青くしている。
「アンディ、そのギガマンティスってのはどんな魔物なんだ?」
「ぎ、ギガマンティスは森の奥深くに棲むと言われる昆虫型の魔獣だ。滅多に人前に現れることはないがその性格は獰猛。そしてその強さも桁違い、階級にしてA級の災害級モンスターだ」
「え、A級だって!?」
A級といえば金等級冒険者じゃないと戦闘許可が降りないほどの化け物だ。
そんな魔物がなんでこんなところに?
「おいおいまずいぞ! もう少し進むと小さな村がある。ギガマンティスにそこが見つかったらただじゃ済まない!」
「だったら今から王国に急いで援軍を呼ぶべきである! 我々だけでとても敵う相手じゃないのである!」
「……それじゃとても間に合わない。ここから迂回して王国に着くまでの間に村はまるごと奴の胃の中」
「じゃあどうすればいいのである! こうしてる間にもギガマンティスは進んでいるのであるぞ!」
ギガマンティスをどうするかをめぐり「トライデント」の三人は議論を重ねる。
しかし相手は規格外の化け物。銅等級のみで結成された彼らでは手に余る。
だけど俺なら。
俺ならどうにかできるんじゃないか?
「できるかもしれないよ」
「へ?」
見ると俺の左肩に緑色のスライム、
緑はお気に入りのメガネをクイと上げ、言葉を続ける。
「スライム・ナイトでもあのギガマンティスをたおすのはむずかしいとおもう。でもぼくたちのちからをつかえばどんなやつにでもかてる!!」
気づけば俺の目の前には、そらの友達の五匹のスライム達がいた。
色とりどりの彼らを俺は
「そうだぜだんな! おれたちをほかのスライムたちといっしょにしてもらっちゃこまるぜ!」
「そうです
「だからあたしたちにまかせて!」
「かならずやおちからになりますよ!」
紅蓮に氷雨、雷子に桃も自信満々に答える。
力強い限りだ。
「本当に任せて大丈夫なのか?」
アンディが心配そうに聞いてくる。
無理もない、スライムは今まで彼らにとって最弱の魔物だったはず。そんなスライムに頼むのは不安になってしまうだろう。
「……正直私たちではギガマンティス相手じゃまともなダメージを与えられない。だけどサポートに専念すれば多少は役に立てるはず」
「成る程。じゃあバズは魔法でサポートを頼む。俺は……まあ足の速さを活かして囮くらいにはなれるか。じゃあモリーは……ええと……」
「よい。我輩がこの戦いに役に立てないのはわかっておる」
モリーの担当は防御と攻撃だ。
しかし圧倒的格上であるギガマンティス相手ではどちらも役に立たないだろう。
それをモリーは言われずとも理解していた。
「我輩は迂回して村に避難指示を出してくる。そしたすぐに王国へ行き援軍を出してくる。必ずそれまで生き残っていてくれよ!」
「ああ、勿論だ。お前も気をつけろよ」
モリーはパーティーメンバーと別れの挨拶を済ますと俺の方へやってくる。
「まだ知り合って間もないお主にこのようなことを頼むのは心が痛むが……仲間を頼む」
モリーは頭を下げ頼み込んでくる。
力になれない自分が一番辛いだろうに。いい奴だ。
「水くさいな。俺ももう仲間だろ?」
「フ、フハハハハ! それもそうだったな! 頼んだぞ新しき友よ!」
俺とモリーは拳をぶつけ合い、お互いの健闘を願うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます