第三話 空
「す、スライムって喋れるのか!?」
色々驚くところはあったがまずはそこだ。
本にもスライムは知能が低く喋ることはないって書いてあったぞ!?
「えとねー、ぼくたちすらいむはあたまのなかでおはなしできるんだ。でもねこうやっておとにしておはなしはいままでできなかったんだ!!」
頭の中でお話、つまり念話やテレパシーみたいなものか。
ということは図鑑に書いてあったことは間違いでスライムの知能は低くなかったんだ!!
これは学会も驚くぞ、学会なんてものが存在するかはわからないが。
それより気になるのは今まで声は出せなかったということだ。
今まで出来なかったことが俺に出会って出来るようになった。つまり俺の
真偽はわからないけど喋れるようになったのはありがたい。
これでいろいろ聞けるからな。
「えっと……まずは自己紹介しようか。俺は菊地誠っていうんだ、よろしくな」
俺はかがんで視線をあわせスライムに自己紹介する。
相手は声からしておそらく子供。立って話していては威圧感を感じるだろうからな。
ちなみに俺の身長は170cm、対してスライムは縦横30cmくらいだ。図鑑では30cmから2mと書いてあったので小型なのだろう。
「きくちー?」
スライムは俺の言ったことを復唱する。すぐにマネをする子供みたいでなんとも愛らしい。
最初こそ驚いてしまったがよく見てみるとなかなか可愛い生き物じゃないか。
「きくちきくちキクチ。うんおぼえた!!」
「覚えてくれてありがとう。君の名前も教えてくれるか?」
「なまえー? そんなのないよ」
衝撃の事実。
言葉を使えるなら名前をつけそうなものだが。
「じゃあ今まではどうやって仲間を判別していたんだい?」
「えー? そんなのなんとなくわかるよ」
「そ、そうなのか」
どうやらそこらへんはスライム独自の感覚で分かるみたいだ。
動物がにおいで仲間を判別するようなものだと納得しておこう。
しかし困った。これから俺がたくさんのスライムと会うことになった時に名前がないとどうしても不便になってしまう。
それは困るな……だったら。
「そうだ。もし良かったら名前をつけさせてくれないか」
「な、なまえ!?」
俺が提案するとスライムは急に声をあげ高速でぷるぷるし始める!
いったいどうしたんだ!?
なにかまずいことだったのか!?
「ど、どうしたんだ? なにか嫌だったか?」
心配してそう尋ねるが返ってきたのは意外な言葉だった。
「ううん! うれしいの!」
そのまま振動しながらスライムは飛び跳ね始める。
スライムの感情表現は独特なんだな……。
ともあれ喜んでくれて良かった。
せっかくだからいい名前をつけてあげなきゃな。
「なまえ……!」
きらきらした強い視線を感じる。
目はないはずなのにこれほどのプレッシャーを与えてくるとはよほど期待しているようだ。
せっかくだから彼の特徴を取り入れた名前にしたいな。そのほうが覚えてもらいやすい。
といってもスライムの特徴といえば大きさと色だけ。
小さいからチビって名前でもいいが彼もこれから大きくなるかもしれない。そうしたら変ななまえになってしまう。
だから使うなら色。彼の透き通った綺麗な水色は図鑑にのってる他のスライムの色よりも綺麗に透き通っている。
そう、例えるなら……
「空色……」
決まりだ。
元いた世界も、この世界も空の色は変わらず俺の心を晴れやかにしてくれる。
その色をこの子に送ろう。
「『そら』って名前はどうだ? 君の色にぴったりだと思うんだけど」
「そら……! そら! そら! ぼくはそら!」
どうやら気に入ってくれたみたいでそらはまたぴょんぴょん跳ね回る。
こんなちっちゃい体のどこにそんな力が秘められているんだろうか。
あれ? そういえば一つ聞いてないことがあったな。
「そら。そういえばどうしてこの村に入ってこれたんだ? 柵があって入れなかったと思うんだけど」
俺が尋ねるとそらは飛び回るのを中断し「うーん」と思い出し始める。
「ほら、腰の高さくらいの木の柵なんだけど。見覚えないか」
「うーん……あ! おもいだした! えっとね、ふだんははいれないんだけど、きょうはさくがこわれててはいれたんだよ!」
「……え?」
そらの思わぬ回答に戦慄する。
柵が壊れてた……!? それが本当なら村の一大事じゃないか!!
「く、詳しく教えてくれ! 一体どう壊れてたんだ!?」
「えとね、いちまいだけいたがぬけおちててね、そのすきまをそらははいってきたんだよ!」
えへん、とそらは胸を張り自慢げにする。
隙間をくぐり抜けたことを褒めて欲しいらしい。俺はよしよしと頭を撫でながら対抗策を考える。
そらの話だと柵はあまり壊れてないみたいだ。村まで戻って大工を呼ぶくらいだったら俺が直しに行った方が早いだろう。村の中心部と教会は少し離れているからな。
幸い教会には簡単な工具ならある。
事態は急を要する。
今すぐ行かなくては!
「そら! 悪いんだけどその柵が壊れてたところに案内してくれないか? 俺の大切なものが危ないんだ!」
そらへ頭を下げ懇願する。
この村の人たちは身元のわからない俺を受け入れてくれた。それに俺がどれだけ救われたことか。
その恩を返せずに終わってたまるか。絶対になんとかしてみせる!
「頼む!」
そらからしたらどうでもいいことかもしれない。
でもそらの助けがないと壊れた場所を発見できない。俺は必死に頭を地面に擦り付ける!
「キクチ、あたまをあげて」
「へ?」
言われた通り頭をあげるとそらが体の一部を腕の形に変えてこっちへ差し出してきた。
「そらとキクチはもうなかまだよ。だからキクチのたいせつなものはそらのたいせつでもあるんだよ。だからいそごう! そらがちからになるから!」
「そら……」
なんて純粋。そして優しい心の持ち主なのだろうか。
スライムの知能が低いだなんて大嘘だ。彼らは優しさを持った高潔な種族だ。
「……ありがとう、そら。力を貸してくれ!!」
そらの差し出す手をぎゅっと握りそのまま持ち上げ俺の肩に乗せる。
そらは俺の肩にぴったりフィットししがみついてくる。ひんやりモチモチしててなんとも気持ちいい。
「あっち! あっちからそらはきたんだよ!」
「わかった!しっかり捕まっててくれよそら!」
「うんー!」
こうして俺は新しい友達を肩に乗せ走り出したのだった。
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