情動戦域ーー感情を支配した者達が起こす異次元バトル

@watason0

プロローグ

狭い路地に三人の男の影。


「おら、さっさと財布出せや」


 派手なシャツを着る男が胸ぐらを掴み、吠える。


「おっさん、そいつ手ぇ出すの早いから、さっさと出した方が身の為だぜ」


 煙草を吹かし、サングラスをかけた男が口を挟む。


「わ、わかった。出すから殴らないでくれ」


 スーツを着用し、胸ぐらを掴まれている四十代ほどの男がスーツの裏側から財布を取り出す。


「寄越せ!」


 乱暴に財布を取り上げられ、振り解かれた男が尻もちをつきながら頭を壁にぶつけた。痛みが後頭部と腰に走る。その後「うぅ」と呻き声をあげ、財布の中を確認する二人組を見上げる。


「お願いします、どうかカード類だけは...」


 乞う様に願うも、二人組の侮辱する視線が貫く。


「なんだこれ、おっさん、少なすぎんだよ」

「こりゃクソだわ、あり得ねぇ、しけすぎ」


 サングラスの男が、財布から紙幣だけを抜き取り、ポケットからライターを取り出す。


「な、なにを?」


 頬を引き攣らせ、恐る恐る口を開く。サングラスの男はこちらを見ようともせず、にやけた口を開かせ、


「ゴミは焼却しないとな」


 カチッと音がするとともに暗闇に灯りを照らす火が財布を燃やす。


「ーーやめてくれ!」


 立ち上がろうと足腰に力を入れるが、それを遮るように顔面に蹴りが入り、その衝撃により壁に頭と背中を強打する。


「がはっ」と声を上げ、何が起こったのかと目を瞬く。痛みを感じる鼻からは赤い血が流れ、同時に口の中が切れたのか、呑み込む唾から血の匂いがする。


「うるせぇよ、ゴミ」

「やめてくれっだってよ、はは」


 その後、燃える財布を横目に二人から数度の蹴りを喰らい、意識が朦朧としだす。



 ーーなんで私が



「おい、抵抗してみろや」

「ははは、こいつ雑魚すぎ」



 ーーふざけるな、私が何をした



「無視すんなや、オラッ」

「はっ、しょーもない。

 もういいだろ、そろそろ行こうぜ」



 ーーふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな・・・



 意識を完全に失う、身体は沈黙し、ただ血だけが流れ落ちる。


「やばい、やりすぎた」

「やべえって、さっさと離れるぞ」


 ピタリと動かなくなった男を横目に裏路地から離れようとした瞬間、





 『怒り』が爆ける。






「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」




 雄叫びが響き、男が立ち上がり二人組を睨む。


「な、なんだよ、こいつ」

「やべえ、やべぇってこれ」


 怒りと恐怖が交わり、その後、路地裏からは二つの悲鳴が轟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る