『疲れが取れなくて』

N(えぬ)

つかれた顔を笑顔にします

ミサエは最近、体がだるくて仕方がなかった。


「30歳を超えたら、急にきつくなったわ」と、ある日のランチで仕事の同僚に愚痴をこぼした。すると後輩女性は、


「ミサエさん、会社に来る時と帰り、大変そうだな、って私も見て思ってました」と心配そうに言った。


「そう。通勤は肩に、ズゥンと来るのよねえ。入浴剤とか強壮ドリンクとかやってみたけど、疲れが取れなくて」


ミサエはため息をついた。


「私、いいお薬を持ってるんですけど、使ってみますか?」そう言って、後輩女性はバッグから小さな紙包みを出してミサエに見せた。


「薬包紙?漢方薬とか?」


「漢方薬みたいなものですね。合うかどうかわからないから、一度飲んでで見てください」


ミサエはそう言われて、その場で薬包を広げ、キラキラと少し光る顆粒を水でのどに流し込んだ。



翌日ミサエは、昨日薬をくれた彼女に微笑んで声をかけた。


「昨日の帰りはだいぶ体が楽だったわ。今朝もかなり快調。よかったらあの薬の名前を教えてくれる?買いに行きたいの」


ミサエがそういうと後輩女性は自分のバッグを開けて、小さな箱を取り出した。そして、急にひそひそと小声になり、


「これがあの薬の箱なんですけど、普通のお店では売ってないんです。……うちに伝わる秘伝といいましょうか。うちのおばあちゃんの特製で。薬の説明は、箱の裏に書いてありますから」といって、箱をミサエに差し出した。




ミサエは「へぇー」と目を丸くして感心した声を上げ、もらった箱の裏を返して読んでみた。


「症状:肩や腰がズシリと重い。首すじがギュッと痛むなどの緩和に効果があります。完全に取り去るまでには数か月かかる場合があります……詳しい用法容量は専門の鑑定士にご相談ください……え?鑑定士?」


「そうなんです。でも大丈夫ですよ。私、鑑定士なので」


「疲れをとるのに鑑定するの?」


「いえ、ミサエさんのは『疲れ』ではなくて『憑かれてる』んです。……私みたいな鑑定士には見えるんですよね。あぁ、あの人、『背中に憑かれてる』なぁって」


「で、私には何が憑いているの?」


「あぁ、それはあんまり詳しく聞かないほうが気楽でいいですよ。肩だけじゃなくて気が重くなったりしますから~」


後輩女性は、ミサエの背中を優しくなでながらニコッと笑ってそう言った。


おわり


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『疲れが取れなくて』 N(えぬ) @enu2020

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