第16話:パドマの問い
白い皿に乗ったオムレツにフォークを伸ばし、やわらかそうな黄色い塊をすくって、口元まで運んだ。が、それを
人間の舌のような形をした台地に作られた庭園には、人工的な川が縦横に数本ずつ走っており、川や
目の前にある光景は、間違いなくユニークで美しい。けれど残念ながら、今はそれを楽しむ余裕がなかった。どうしても、視界の一番手前にある青いシートが目についてしまう。そしてそのシートを見ると、女性の白く膨らんだ肌を思い出す。
私は詳細な映像を思い出す前に首を振って、食堂の中に視線を戻した。二本の長机が配置された室内の構造は昨日と変わらないけれど、雰囲気は昨日と違い、重く沈んでいる。人の姿はまばらで、聞こえる話声も
「集団生活って、こういうものなの?」
フォークでオムレツをつつきながら、パドマが聞いてきた。
「こういうものって?」
「暴力はつきもの?」
「どうなんだろうね」
「他人事みたいに言わないでほしいなぁ。アガサは小さいころ、周りに人がいたんでしょ?」
「いたけど、ほとんど老人だったから」
「老人が多いと、こういうことは起きないの? 人間は成長するってこと?」
「気力と体力が衰える、という方が正確かも」
「悲観的だなぁ」パドマは、ため息を漏らすように言った。「せっかく肯定的な内容にしようと思ったのに」
「気力と体力の衰えを
「それ、楽観的にしたつもり?」
「一応」
個人的には筋の通った考えを披露したつもりだったけれど、パドマが目を細めているのを見る限り、万人受けする内容ではなかったらしい。
「でも、排除することに何の意味があるんだろう」
少女は、ほほに手を当てた。
「王女を入れ替えたり、立場を空けたりすることに意味があるんじゃない? それでどんな利益があるのかは、ちょっと分からないけど」
「そういう意味じゃなくて」
「そういう意味じゃない?」
「もっと根本的な方。個人が得するために他人を排除するのは、人間全体で見れば合理的じゃないよね?」
「どうだろう。簡単には断言できないような」
得をするという言葉を聞くと、どうしても浅はかな欲望を
いや、でも。
個人の排除を許容すると、排除合戦を招いて結局自体が好転しない、という可能性もありそうだ。やはり、関わりのある要素が多すぎて、断言はできそうにない。少なくとも、会話の合間に考えるくらいでは。
「それに、他人を排除することが合理的ではなかったとしても、そういう行動をとる人がいるのはおかしくないと思うよ。感情に流されないで、合理的に行動をし続けられる人間はいないわけだし」
「それは同感。でも、私が言いたいのはそういうことじゃなくて、排除したい、という感情が生まれること自体に疑問を感じてるの」
「ずいぶんさかのぼるなぁ。でも、感情でしょ? それこそ合理性で考えるのは難しい気がするけど」
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