そして今

蝶子ママが病気で亡くなって十六年目の冬。

命日である十二月十六日を迎えた。

今年蝶子ママが亡くなった年をついに追い越してしまった。

「亜子ちゃん」

娘の声にドキっとして我に返った。

「ぼぉっとしててごめんね」

「蝶子さんも清くんもきっと喜んでいるよ」

「うん、そうだね」

娘がハンカチで涙を拭ってくれた。

身長が147センチしかない母に対し今年大学生になった娘は160センチ。あっという間に追い抜かされた。

「自殺に追い込んだ時点で加害者生徒に殺人罪を適用することが出来れば清くんみたいな子が減るのかな?加害者にも未来がある。じゃあ、被害者には?被害者にだって未来はあるのに。いじめられた子は一生心に傷を背負うことになるのに……亜子ちゃん生きててくれててありがとう」

「どうしたの急に?」

「だって亜子ちゃんとこうしてデートが出来ないでしょう?誕生日を祝ってもらうことも出来ないでしょう。それに美味しいものを一緒に食べることも出来ないでしょう。亜子ちゃんがいなかったら私生きてられなかったから。助けてくれてありがとう。育ててくれてありがとう」

「最近年のせいか涙もろくなってるのよ。そんな嬉しいことを言われたら……」

白い息を吐きながら、ずずっと鼻を啜った。

泣きすぎて鼻先がひりひりと痛い。

娘の紗綾さや…は私の本当の娘ではない。妹、沙織さおり…沙織さおりの子だ。十八歳のときにデキ婚し紗綾を産んだ。

紗綾が中学二年になった年、沙織はある男性と再婚をした。紗綾は初めて会ったときから継父が大嫌いだった。沙織が赤ちゃんを産んで入院中に大事件が起きた。

その日は姪の十三歳の誕生日だった。

ひとりでお風呂に入っていた紗綾。そこに真っ裸の継父が入ってきたのだ。パパが紗綾に性教育を教えてあげる。その一言に一瞬で凍り付いた紗綾。どれほどの恐怖を感じたことか。風呂場から逃げ出した紗綾を継父はにたにたと笑いながら追いかけ回した。ベランダに逃げ、泣きながら私の携帯に助けを求めた。

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