村上清くん

クラスに村上清くんという男子生徒がいた。今思えば私と同じ発達障害だった。私は軽度だけど清くんは中度くらい。

吃音でうまくしゃべることが出来ない。

なにを言われてもヘラヘラと笑っていて、頭を叩かれても、お腹を蹴られても、足をかけられ転ばされても、ヘラヘラと笑っている。

クラスでも格好のいじめの対象だった。


♪清このヤロー、

♪気色わりぃんだよー


しまいにはきよしこの夜の替え歌を歌い出し、からかう始末。

だからクリスマスソングにいい思い出はない。クリスマスなんてなければいいのに。そうずっと思っていた。頼みの綱の担任はいない。入学式当日、

「六月から産休にはいります」

まさかの一言に保護者も生徒も唖然となった。学級主任が担任の代わりをしていたけど、注意するどころか一緒になって清くんをからかっていた。

いじめは悪いことかも知れないが、いじめられる側にそもそもの問題があるんだ。いいか、このクラスにはいじめ自体存在しない。分かったか、余計なことを言うなよ。悪いのはお前らなんだから。

あれから三十年以上過ぎたけど、いまだにこの言葉忘れることが出来ない。



「蝶子ママ、クリスマスの予定は?」

「そりゃあ、もちろん彼氏とデートだろう」

「ごめんなさいね。あーちゃんとデートする約束なの」

「え?」

初耳だったから驚いた。

「だってアタシ、あーちゃんラブだもの」

「ママとあーちゃんはまるで姉妹みたいだ」

「仲が良くて羨ましいよ」

「あら~~嬉しいこと言ってくれるじゃない。ありがとー」

蝶子ママが肩をそっと抱き締めてくれた。






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