第4話 母の思い
「まいちゃんが寝ている間に、急いで行きましょうか」
母親のまりが長女まおと、近くのコンビニへデザートのプリンを、買いに出かけようとしていた。
食後に次女まいの好物が食べられるように、内緒で買ってきたいと思ったのだ。
近くにコンビニは二軒あり、街に一軒、海岸線に一軒、どちらも家から十分の所にある。
海岸のコンビニは、海岸の国道沿いにあり、景色がよく信号も少ないので、時々使っている。
今日は、海岸のコンビニへ向かった。
海岸のコンビニで買い物をしていると、駐車場に複数のバイクが止まる音がした。
バイクの男達は、店内のまりを舐めるように、ねっとりと眺めニヤニヤしている。
母親のまりは三十歳だが、見た目は若く、美しい。
八歳のまおと並んでも歳の離れた姉妹に見えるほどだ。
買い物が終わった、まりとまおの母子が車に戻ると、バイクの男達もエンジンをかけた。
流石にコンビニの駐車場で悪さも出来ないので、人気の無いところへ追い込もうというのだろう。
バイクは七台、七人の暴走族がまりの進路を邪魔した。
家へは、コンビニから右に曲がり、街の方へ進路を取らなければならない。
だが、その進路を四台のバイクがふさいだ。
まりは小さな子供もいるので、トラブルを避けるため、左にハンドルをきった。
「ただいまーー」
「おそいよーー」
まいが母と姉の帰りを起きて待っていた。
この家には、父親はいない。
まいが生まれる前に、まりが離婚をしたのだ。
まりは、女手一つで二人の子供を育てているのだ。
「まいちゃん、ごめんねー」
「いまから用意するのでおねーちゃんとお風呂入ちゃってー」
「まい、はいるよー」
「わかったー」
まいはお風呂から出ると、ハンバーグとご飯をたべた。
まいが、ご飯を食べていると、母親がお風呂にいき。
姉は、テレビを見ている。
いつもは一緒に食べるのに、変だと思ったが、そういう日もあったので気にしなかった。
まいは、翌日の朝も、ハンバーグを食べた。
母親は、いつものように仕事に出かけた。
「おねーちゃん、わたし達も行くよ」
「くすくす、まいはバカね、今日からお休みでしょ」
「いっぱい、遊ぶわよ」
「はーい」
まいは、姉のまおといっぱい遊び眠くなった。
「まい、眠いの?」
「うん」
「じゃあ、風邪引くといけないからベッドで、ちゃんと寝なさい」
「うん、お休みおねーちゃん」
まいが目を覚ますと、母親のまりが帰っていた。
「あら、おはよう」
「よく眠っていたわね」
「おかーさんお帰り」
「お腹空いた」
「くすくす、もーまいちゃんたらー」
「机にあるわよ」
机にはハンバーグが用意されていた。
「わー今日もハンバーグだー」
まいは大喜びで食べているが、まりとまおの表情は暗かった。
ごはんを自分で茶碗に入れるとご飯がなくなった。
「ごはんがなくなったよー」
「そう、じゃあ止め方を説明するからやってみて」
「まいちゃんも、保育園の年少さんだから、出来るわよね」
「うん」
「できるよー」
まいは、母親の説明通り、炊飯器のスイッチを操作した。
「はい、よくできました」
翌朝は、目が覚めると母親はもういなかった。
「おねーちゃん、おかーさんは?」
「もう行っちゃったよ」
「えーー」
「ちゃんと起こしてよー」
「さよならしたいんだからー」
「バカまい、ちゃんと起こしたけど」
「あなたが起きなかったんでしょ」
「そっかー」
「ごめんなさい」
「いいよ」
「それより何して遊ぶ」
「ゲーム?」
「ううん」
「だって、ゲームだとおねーちゃん見てるだけだもん」
「つまんない」
「じゃあ、かくれんぼ?」
「うん、かくれんぼ」
「よし、じゃあ、おねーちゃんが鬼ね」
「まいは、かくれて」
「うん」
まいは隠れている最中、眠気に襲われ眠ってしまった。
目が覚めて、リビングへ行くと、母親と姉がいた。
「おっはよー」
「よく眠っていたわね」
「うん」
「お腹空いたー」
「まいは、いつもそればかりね」
「じゃあ、用意するから」
「まってて」
「うん」
まいがずっと、待っていてもなかなか出てこない。
しまいには眠くなり眠ってしまった。
目が覚めると翌朝だった。
「おねーちゃん」
「おかーさんは」
「お仕事よ」
「ちぇー」
「ねーおねーちゃん、お腹空いたー」
「冷蔵庫に牛乳があるわ」
「それを飲んで」
「うんわかったー」
コンコン
「どうぞ」
入って来たのは、まりあとまゆに連れられた、暴走族風の男だった。
「た、助けて下さい」
「そう言われてもなー、おれはただの会社員だしなー」
「この事務所は、安かったから借りているだけで、ただの自宅だぜ」
「コウさん、聞くだけ聞いてあげて」
「お爺さんからの紹介なの」
まりあが男を気遣って、困った表情で話しかけてきた。
まりあと、まゆは、姉妹でこの事務所の助手気取りの居候だ。
以前、とりつかれていた、呪霊を除霊してから、おれの事を信頼して、いつもここで俺の世話をしてくれている。
この二人のお爺さんは任侠の人で、組長さんだ。
それが恐いわけじゃねえが、この二人はやばいから、ここで自由にさせている。
今来た、この暴走族風の男は超やばい。
入るなり、おれの体感温度が5℃位下がった。
鳥肌が収まらない。
「ねえ、どうなの」
まゆが聞いてくる。
「だから、いつも言っているだろ、俺は霊など信じてねえし、見えないんだよ」
「おまえはどうなんだよ」
「ふふ、その鳥肌はなによ」
「感じないっていうのはこう言うこというのよ」
まゆが上の服を脱ぎ、下着姿になり、胸を人の顔の前に近づけてきた。
「どお、ぜんぜんなんともないでしょ」
「それにひきかえ、コウさんのこれは何」
まゆは俺の手を取ると、胸に押しつけながら、手の鳥肌を指摘してくる。
「わかった、わかった」
「とりあえず手を離せ」
まゆが手を離すと、男を手招きした。
俺の前に座らせると、男をじっと見た。
あーやばいわー、うっすらと男の後ろに人影がみえる。
こころなしか服を引っ張ってどこかに連れて行こうとしているようにみえる。
「全て話してもらおう」
おれは、逃げられないとあきらめ、男に話しかけた。
「おれの、仲間が四人事故で死んだ」
「はーーっ」
いきなり、がちな奴が来ちゃったよ。
勘弁してくれよ。
もう聞きたくないよ。
「この前、バイクを運転していたら、腕が引っ張られて、こけたんだ」
「誰もいねーのに、確かに引っ張られたんだ」
「たまたま、かすり傷で済んだんだけど、こえーんだよ」
「助けてくれよ」
大の男がポロポロ大粒の涙を流し泣き出した。
いやいや、それを聞かされたおれが、泣きたいよまったく。
「隠すと、助けられないぜ」
「何をした」
「なにもしてねー」
「じゃあ、心当たりは、ねーってのかい」
「……」
「それを、聞かなきゃ救えねーぜ」
「帰ってもらおうか」
おれが、席を立とうとしたら。
「ま、まってくれ、言うよ全部言うよ」
「一ヶ月位前、俺たち七人でH海岸の国道を走っていたんだ」
「あそこの市街地へ入る手前にコンビニがあるだろ」
「あそこによ、すげー美人がいたんだ、ほんとにすげー美人でよ」
「七人とも一目惚れさ」
「ちょっと、お茶でも誘おうと思ったんだ」
「でもよ、めちゃめちゃな勢いで逃げるから」
「追いかけちまったんだ」
おれは、あきれ顔で、その男の顔をにらんだ。
だって、こいつらみてーな奴が、お茶を誘うなどありえねーだろ。
だが、そのままだまって男の説明を続けさせた。
「すげー勢いで走っていくから、カーブを曲がりきれず海にドボン」
「俺たちは恐くなって、そのまま逃げちまったんだ」
「そしたら、四人事故死だ、おれも危うく死ぬところだったんだ」
「なー全部話した、助けてくれよ」
まりあ、まゆ、どっちでもいい、警察に知り合いはいないか。
「いるけど、わたし達の知り合いの刑事さんはマルボウの人だけだけどいいの」
「構わない」
「速くしないと間に合わない」
「何に?」
「それがわかれば苦労はしない」
「その感情だけが分かるんだ」
俺たちは警察に同行し、車の飛び込んだ場所を特定して海中捜査の様子を見ていた。
現場はうまくガードレールを飛び越したのか、車が落ちた形跡がなかった。
しばらく、何も出てこなかったため、男の刑事が俺たちをにらみつけてきた。
さらに数時間が経過したあと、その刑事の上司らしい女性刑事が、近づいてきた。
「あったわ」
「ナンバーから自宅が特定出来ました」
「行きますよ」
俺はまりあとまゆを残し、女性刑事のパトカーにのって、沈んだ車の、持ち主の家にむかった。
その車の持ち主の家に着くと。
ピーンポーン、ピーンポーン
ドアホンのチャイムを鳴らした。
何度もならしたが無反応だった。
「仕方が無いです」
女性刑事が家の玄関のカギを無理矢理開けた。
ギーー
無理矢理開けたので、ドアがきしむ。
ドアを開けて中をのぞき込む。
「うわっ」
女性刑事と俺は驚いた、暗い家の中、大人の女性と子供が、立っていたのだ。
「ま、間に合ったのか」
二人は、笑顔になると奥の部屋を指さした。
女性刑事と俺は部屋の中に駆け込んだ。
ベッドに弱々しい呼吸をしている幼女の姿があった。
「生きている、生きているぞ」
女性刑事が電話をして救急車を手配した。
救急車が来るまで、部屋を見たが、綺麗にかたづけられていた。
空のマヨネーズの容器やソース、味噌、その他の調味料、砂糖の袋などがゴミ箱に入っていて、上手に栄養の補給をしていたことが、想像出来た。
「あんた達、よく頑張ったな」
おれが誰とも無く話しかけると、女性刑事が、俺の顔をのぞき込んで来た。
「あなた、見えたの」
「おれは、霊など信じてねーし、見たこともねー」
「くすくす、あなたとは気が合いそうね」
「わたしもよ」
その後、三人の暴走族の男は自首をした。
海から引き上げられた車には二人の女性の遺体が残されていた。
まいという女の子は、父親が引き取りを拒否したので、まりあが勝手に引き取る手配をして、父親の了承をとった。
「結局、おれが引き取るのかよ」
「籍を入れて二人の養女にしましょう」
「な、な、何を言っているのですか、まりあ姉さん、コウさんはわたしの……」
まゆは真っ赤になって俺の腕につかまって胸を押しつけてきた。
まいを引き取った俺の事務所兼自宅には、あの二人の気配も時々感じるようになった。
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