第22話お買い物②


 平和魔道具店東京本店は戦争終結後、すぐに作られた魔道具店で、平和になった世界に魔道具はいらないと回収と処分を目的に、金を持つ人間が始めた店だったが、サルバドールが作った魔石中心社会により、また危険にさらされる人間が増えたことで、売られた物を中古品として売り出す魔道具店へと姿を変えた。


 俺達は最も高価なショーケースや武器が飾られるコーナーに入っていく。下は赤の絨毯で歩いているとふわふわと歩き心地が良い。高価な絨毯だと素人でも分かる。


「こ、ここか」


 迅君がゴクリと唾を飲む。


「もう騒がないでくれよ。今度は追い出されるから」


 俺は迅君に念押しする。


「わーってるよ!」


 迅君はのしのしと大股歩きで、一級品の棚を見に歩く。俺たちも後に続いた。


__


 他のみんなが各々の商品を見る中、俺は2本の太刀に引き寄せられていた。


【炎天】【氷天】と書かれた太刀は紅い紋様と青い紋様が入り、2本の刀身剥き出しの刀がクロス状に壁に飾られている。


「火属性と氷属性。まるで違う属性だけど、2本で1本の太刀と書かれてる。何で?」


 俺は疑問を感じながら、その刀を見つめていた。


「気になりますか?」


 気づくととても品の良い清潔感溢れる店の店員が近くで微笑んでいた。


「これは10年前の品で当時【二天の剣王】と呼ばれた剣士が愛刀として使っていたものと言われています。その剣士が二刀流の使い手で、この刀を使っていたことから、この刀は2本で1本の太刀と呼ばれているのです」


 店員が刀の由来を教えてくれる。


「その【ニ天の剣王】さんは今どうしてるんですか?」

「亡くなられたそうです。戦争終結後に亡くなられる前にこの2本の刀の処分をお願いしたとか。仲間を逃す為にハイエルフと戦い、腕を1本失われていた。2本の刀を振るうことが出来なくなっていたそうです」

「そうだったんですね。でも処分はされなかった」


 俺は疑問を口にする。


「戦争終結後にサルバドールたちが魔石中心の社会を作りました。再びの危機に処分は取りやめ、剣王の遺族にも確認して、売りに出すことになりました」

「そんな凄い刀なのに、売れないんですか?」

「二刀流というスタイルを取る方が少ない上に、これを使った方は皆亡くなっている。ちょっとした曰く付きの品物でして。有名な方であればそのことをご存じの方は多く、敬遠されてしまうのです」


 店員さんは不吉なこと簡単に言ってのける。嘘は言わないのが信条なのだろうか。


 しかし剣王以外扱えない刀か。きっと超越能力ハイパーギフトの持ち主だったのだろう。それ超えるハイエルフとは。凄まじいな。


「値段は…40億か。予算オーバーです」

「左様ですか。他にも良い刀や剣はございますので、ごゆっくりご覧下さい」


 不吉な刀でも、名のある刀はやはり高いな。


「試しに握っても良いですか?」

「ええ、どうぞ」


 綺麗な白い手袋をした店員さんが刀を取り外してくれる。


 とても見事だ。吸い寄せられるような光。


「それ欲しいの?」


 女性の声。振り向くと舞ちゃんがいた。


「うん。だけど予算オーバーだ」


 舞ちゃんが値段を確認する。


「私もこれ欲しい。一緒に買お」

「舞ちゃんが欲しいわけないだろ。気を使わなくて良いよ」

「欲しいよ。これで戦う研君。見てみたいな」


 俺は目をしばしばしてしまう。


「結構びっくりなこと平気で言うよね」

「二刀流? 自信ないの?」


 舞ちゃんは自分の発言で俺が驚いてるとは思ってないようだ。


「あるさ。二刀流。格好良いだろ?」

「研君なら絶対似合うね」


 この子は絶対天然のたらしだ。悔しいが俺はもう落ちている。泣くのは戦いでではない気がする。


 舞ちゃんだって装備は必要だが、この素晴らしい刀を振ってみたいという衝動は抑えられなかった。


「【炎天】【氷天】下さい」


 店員は頭を下げて、カウンターへ案内してくれる。


「このお礼は必ずするから」


 俺は舞ちゃんにお礼をする。


「期待してるね」


 笑顔の舞ちゃんはとても楽しそうだった。


__


 みんなが買い物を終え、店を出た。


「一ノ瀬さんは何か買えた?」


 一ノ瀬さんに聞いてみる。


「ええ。【レグリス】て言うアイテム。イヤリングの魔道具。私みたいな時を取り扱う力を伸ばしてくれるみたい」

「逆行する時間をもっと戻せるってこと?」

「本当に少しね。それでもとてもレアなアイテムよ。まあ時を扱う能力ギフト自体がレアすぎて、安く買えた」


 一ノ瀬さんが笑う。俺の前でもだいぶ喋ってくれるようになったな。


「迅君はどうだった?」

「お? 良いもんくれって言ったら、これだってよ」


 腕輪を見せてくれる。小さな鎖のような物が付いている。


「【オンス】だってよ。一回引っ張ると攻撃力が+10されるってさ」

「え!? すげーじゃん!」


 迅君は難しい顔をする。


「腕輪の重さも+10キロされる。その後の重さはかけ算だとよ」

「え?」

「2回引っ張れば攻撃力+20。そん代わり腕輪の重さは20キロになる。+30なら40キロ」


 攻撃力+50になれば160キロ。持てなくはないだろうが、攻撃の速度は落ちる。更にあげれば、また落ちる。リスクはあるけど、元々迅君は攻撃力が高い。1tくらいならいけるはず。かなり使えるアイテムだと思う。


「まさに迅君の腕の見せ所だ」

「おう。気合い入るぜ」


 迅君は腕輪を睨んで、文字通り気合を入れてる。


 みんないい買い物が出来たかな。舞ちゃんは何も手に入れていない。何をプレゼントするか。早くも頭を悩ませていた。


__


 平和魔道具店東京本店で誰よりも動きが洗練された男が【炎天】と【氷天】が飾られていた壁を見つめている。もう1人の店員が近づいて行く。


「店長」


 壁を見つめていた男が振り向く。


「売れたんだね。刀」

「はい」

「また戻ってこないといいが」


 店長と呼ばれた男は壁を見つめ直す。


「私は、今度は戻ってこないのではと思っています」


 刀を少年に渡した店員の男性がその時の様子を思い出している。


「どうしてそう思うのかな?」

「10年前。【ニ天の剣王】から刀を預かったのは私です。少年が刀を身につけた時に昔を思い出しました」


 店長は黙って店員の話に耳を傾ける。店員の男性は瞳を輝かせていた。


「私は思いました。再び【ニ天の剣王】が戻ったと」


 いや、それ以上かもしれない。何故だかは分からない。だが店員の男性は少年にそれほどの才能を感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る