第5話姉ちゃん
俺が家に帰ると、母親にどちらを引き継いだか聞かれたので、母親のだと答えておいた。更に自分がオーバースペックで剣術も手に入れたと話すと、母親は飛び跳ねて喜んでくれた。
「私の目を引き継いだあんたはラッキーよ。私は戦場で常に敵を監視して、安全なルートにみんなを導いたんだから!」
母は興奮気味にそう話す。実際戦争中は母が常に母達が共にしていた仲間グループの目となり、危険を回避した。20年という戦争の中、安全を確保できたのは凄い貢献だ。だが母さん達は常に安全圏にいることで余りレベルが上がらなかったし、基礎能力を上げていた為に、俺の暗視双眼鏡の目についてはよく分からないと話した。
これも調べるしかなさそうだが、自分の能力だ。出来ることは分かる。後衛の監視役なら任せろという感じだな。
夕食の時は父親が大いに喜んでいた。
「オーバースペックか! しかも剣術かぁ。素晴らしいじゃないか」
「ありがとう。父ちゃん」
「いや、うちは才能のある子に恵まれた。鳴子も固有が剣術で今や異名持ちだもんな」
異名。それは探索者の憧れだ。その一言で誰を指すか分かる。強い探索者なら誰もが持つもう一つの名。その強い者になるのにどれほどの苦労が必要か。
俺には10歳離れた姉がいる。18の時に家を出て、ずっと帰ってこないけど、両親にも俺にも定期的に連絡くれる優しい姉だ。久しぶりに連絡してみるか。剣士の目指す方向性もアドバイスが欲しいしな。
__
自分の部屋に戻ると、早速姉に連絡をしてみる。本当に多忙な人だ。すぐに連絡はつかないかもしれない。でもどこかで出てくれる。そういう人だ。
「はい? 鳴子だけど?」
「あ、姉ちゃん? 珍しいね」
「あんたが連絡してきたんでしょうが。まあ母さんから連絡あったし。ステータスの話でしょ?」
母親が喜んで姉に連絡したらしい。姉も弟がそろそろステータスを得る頃だと気にもしてくれていたのだ。
「オーバースペックだって? 面倒なことになったね」
「そうなんだ。SPがどう計算しても足りなくて。剣術を得た以上はそこを中心にして行きたい。でも基本は取れて、一つか二つ。何を切り捨てればいいのか」
「基本の
俺は詳しく姉に自分の力を伝えた。
「またいいの引いたね。まあ俊敏一択でいいかな。器用さは剣士の腕で補正されるし、攻撃力も軽い素材で良い剣は沢山ある。それで十分補えるわ」
「そっか。やっぱりそれが一番か」
「うん。基礎は大切だけど、補えない遺伝や固有の力を伸ばした方があたしはいいと思う。あんたがいつも言ってるそこそこの成功の近道だよ」
やはり姉は頼りになる。間違っていようと迷いのない言い切る意見を言ってくれる。こちらも心が軽くなる。
「頑張りなよ。探索者の世界で待ってるからね。2年生はインターンもあるんだろ。うちを指名したら優先する。そのくらいコネを使いなさい。あ、あとお祝い。送っておいたからね」
「分かった。ありがとう」
最近の様子などを聞きたかったが、忙しいからと切られてしまった。
姉くらい強くなり、忙しくなったら、俺の思う。そこそこの成功なんだろうか。
__
ステータスを得て、座学の中間試験を受かると、次は早速期末の話になる。
「なんと言っても仮免ですからね」
「ああ、正式なギルドの人がついていれば、簡単なダンジョンなら潜ることができる。レベルも上げられる」
「ですよね!」
月野はいつもの元気で答える。レベル上げは大変だけど、折角の
ちなみに萌香も冷児も中学の時に仮免を取っている。だからこその強さ。多分2人ともレベル10は言っているだろう。
__
今日も舞ちゃんと校門前で別れる。帰り道は同じだが、舞ちゃんはいつもお出迎えがある。俺にぶつかった自転車事故以来。常に車ということになったらしい。勿論お嬢様が危ないからという理由で、俺には一切詫びはない。
舞ちゃんが車に乗るのを見送ると、俺は駅に向かって歩き出す。
「君」
「え?」
振り返るとスーツにサングラスという出立ち。歳は20代後半というところ。そんな人に話しかけられた。
「何ですか?」
「お嬢さまに近づくな」
「分かりました」
俺は振り返って帰り始める。
「本当に分かっているのか! お前とは住む世界が違う御方だ!」
「住んでる世界は同じです。勝手に次元を変えないで下さい」
俺とスーツの人が睨み合う。
「少し痛めを見るか?」
男の威圧。それだけ分かる実力の差。かなり高レベルの人なのだろう。だからなんだ。舞ちゃんいつもそうやって1人にされてきた。俺まで離れたら可哀想じゃないか。
俺は付けているクリスタルのペンダントに手を当てる。ペンダントが反応し、展開して、長剣となる。
姉からの祝いの品だ。普段はペンダントに収まり、簡単に剣に展開できる。非常に軽いが、切れ味は抜群。かなりの高級品だが。
「私はもう使わないから、上げる」
と、簡単にくれた姉はやはり凄い人だ。
「良いものを持ってる。お姉さんのお古かな?」
「姉ちゃんのことも知ってるか。流石」
スーツの男が笑う。
「我々の力はお姉さんを遥かに超えるよ。無理はしないことだ。周りも不幸になるよ」
「俺は俺のやりたいようにやる」
再びスーツの男と睨み合う。
「そこ! 何をやってる!」
警官らしき人が走ってくるのが見える。誰かが通報してくれたのかもしれない。
「ダンジョン外での
スーツの男は何も言わずに用意されていた車に乗り、発進してしまう。警官も相手が権力ある者と感じ取ったのだ。
「君、怪我はないかな? ああいう輩には関わらないようにね」
「向こうから来たんですよ」
「それでもだ」
警官はやれやれという感じで引き上げていく。
嫌なものは嫌だ。俺はこれからもはっきりとそう言っていくと、改めて思った。
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