肆 鑑賞会
幸運は、続く時は続く。今回は正にその典型的な例である。
「不発弾が小学校と中学校の双方で同時に見つかるなんて。これは本当に偶然と言って良いのかな?」
木曜日の午後、
かくして、明照と杏果は足掛け4日間も一緒に過ごすことになった。理論上何方に泊まっても問題は無かった。だが、ショッピングモールへの距離が近い杏果の家の方がより適切と明照は判断したのだった。何せ敷地内にはバス停とタクシー乗場も有る。杏果の要望、或はその他特殊な事情でも無い限り、答えは1つだった。
家に着くと、杏果は玄関口に座っていた。
「早かったね。さぁ入って!」
手を引かれ、明照は専用の部屋に通された。そこは昔、杏果の母が使っていた部屋で、長らく空き部屋だった。掃除を行い、不用品を残らず始末した後、明照の着替やら何やら運び込み、何時でも泊まれる様にしていたのだった。
コンクールの数日後に知ったのだが、明照の家には杏果が何時でも泊まれる様に専用の部屋を用意して、衣類等を搬入していたのだった。そして逆もまた然り。
専用の部屋で荷物の整理をし終えた明照は俯せになり、肩・太股・背中・脹脛・足の裏を揉んでもらっていた。
「本当に僕がこの部屋を使って良いのかな。杏果ちゃんだって少し位はこの部屋に思い入れが…あ、御免。考えたくなかったよね」
不味い事を口にしたと慌てたが、意外にも杏果は冷静だった。
「良いんだよ。一応あれでも良い所、何も無い訳じゃないから。掃除・洗濯・縫い物・お料理等、色々教えてもらったんだよね。これに関しては本当に感謝しているんだよ。まぁ、割合は約11%だけどね」
顔は笑ってはいたが、内心怒っているだろうと思い明照は罪悪感を出さない様気を付けた。マッサージして貰っている上、気を遣わせては大変申し訳無い。そんな思いで一杯だった。おやつに出された黄色い西瓜を食べている間も、夕食を食べにショッピングモールのレストラン棟に行った時も、明照は表面では笑顔だったが、これ以上要らぬ事を言わない様にと警戒した。御蔭で、帰る前に立ち寄ったゲームコーナーでも明照は心から楽しめていなかった。
一緒に入浴するのはもうこれで何度目だろう。何時からか明照は考えるのを止めていた。体を洗って貰っている時、杏果は不意に思わぬ事を言い出した。
「明照君、漫画とかアニメとかゲームでよく見る入れ替わり、興味有る? 相手は勿論あたしだよ」
杏果は何時も急に思わぬ事を言い出す。頭と性格は良くても、矢張りそこは幼い子供と明照は親近感を覚えた。
「確かによく見掛けるね。考えたこと…一度も無いかも。でもどうして?」
至極当然の疑問に、杏果は白い歯を見せ笑った。
「見た目は同じだけど、これで明照君を抱っこまたはおんぶ出来るよ。勿論肩車も。考えただけで楽しくて楽しくて堪らないね」
「成る程ね。それじゃ聞くけど、もし僕の魂が杏果ちゃんの体に入ったとして抱っこされた時、パニックでお漏らししたらどうする?」
明照にとってはちょっとした与太話のつもりだった。だが杏果はその状況を真面目に考え始めた。
「そもそも最初にトイレに連れて行けば良いんだよね。でもこの場合、家は兎も角、外だとどっちに入るのかな…多目的トイレは何処にでも必ず有るとは限らないよね…」
予想以上に真剣に考えるので、明照は慌てふためいた。
「御免。そんな真剣に考えるとは思わなかった。忘れて良いから、うん」
ポカンとする杏果の頬を撫でながら、明照は斜め上を見上げた。
「何やっているの? 上、何も無いよ」
「気にしないで。何でもないから」
また懲りずにやらかした。明照は自分の不甲斐なさが情けなくなった。
明日の朝食の下準備等、やる事を全部終えた後、明照は魔法少女の
「魔法少女の世界へようこそ。盛大に歓迎するよ」
「僕、男だけど盛大に歓迎されたね。良いのかな」
「女とか男とか如何でも良いよ。今も昔も条件は唯1つ。魔法少女が心から大好きって心。これだけ。これさえ有れば魔法少女の世界に住んで良いよ。何なら魔法少女になることさえも出来るから」
「それは到底想像出来ないなぁ。一体如何なるんだろう」
色々想像している間に映像が始まった。
<愛と正義を貫く、ムーンライトガーディアン! 宇宙に代わって、懲らしめるわよ!>
天文学がモチーフの魔法少女“ムーンライトガーディアン”は一時代を築いた、金字塔と言って良い存在だった。29年も前の作品とは到底思えない程、高度な作画・声優の演技力・美しい世界観で知られ、海外でも知らないと馬鹿にされる程だった。明照は食い入る様に画面を凝視していた。事故の後DVD-BOXを贈ってくれた何処かの誰かへの感謝の念で一杯だった。最初の内は何となく色眼鏡で見ていたが、やがて偏見は消し炭となった。気がつくと、杏果と同じ位この武闘派の魔法少女に魅了されていた。
第1シーズンの回を全部見終わった後、杏果は明照の膝から下り、DVDを取り出しパッケージに戻した。
「明照君、入れっぱなしは厳禁だから覚えておいてね。下手すると2度と再生出来なくなるんだよ。贈られた物が被って、同じ物が幾つも有ったとしても、そんなの関係無いから」
「それは確かに大事な事だね。教えてくれて有難う」
素直に御礼を言う明照が、杏果には愛おしく映った。
「そうだ、良い機会だからトイレ行ってくるね。序に飲物と御菓子持ってくるから。明照君も行くならどうぞ。うちには3つ有るから」
「そうなんだ。じゃあ行ってくる」
観ている最中の中座は失礼だと思い、明照はトイレを済ませることにした。
魔法少女の間に戻ってきたが、未だ杏果は戻ってなかった。そんな時、明照の視界に、ムーンライトガーディアンの専用武器、ムーンライトワンドが視界に入った。先端に満月の付いた魔法の杖は、必要に応じて半月・三日月・上弦の月・下弦の月・新月等に付け替えられる仕様だった。
「今だけ、ちょっとだけ借りるね、杏果ちゃん。へぇ〜…再現度凄く高いな」
暫くは手にとって光に翳していたが、やがて飽きてるの欲望が顔を出した。
「今なら誰も見てないよね。今この部屋には僕1人……もう我慢出来ない!
“愛と正義の光が、あなたの邪心を祓います。ムーンライト、ホーリーキャノン!!”」
明照は先程DVDで見た動作を精一杯真似した。
この時明照は気付いていなかった。魔法少女の間に戻った時、扉を半開きにしていた。飲物と御菓子を持った杏果が入り易い様にとの気配りだった。それは、断じて間違いではなかった。しかし、その配慮が裏目に出るとは想定出来なかった。結果として、明照が最も恐れていた事が起きた。何時の間にか戻っていた杏果は、テーブルの上にトレーを置いた後、明照の行為をじっと見ていた。
「あ、そこね、体を時計回りに1回転させてから決めポーズにシフトすると凄く格好良いよ。フィギュアスケートのスピンみたいに強くなくても良いから」
「あぁそうなんだ。有難う……あ゛っ……!」
次の瞬間、明照は悟った。終わった。何もかもが終わった。一番見られてはならないものを、一番見られてはならない相手に知られた。何と言い訳すれば良いのか。否、それともいっそ開き直るべきなのか。そんな明照に対して、杏果は何時も通り神対応だった。
「身も心も完全に魔法少女の世界の住人だね。おめでとう。実に素晴らしいよ。知りたい事は何でも教えるから、遠慮無くあたしに頼ってね」
杏果に抱き締められるのは今夜が初めてではなかった。しかし、何故か今日のハグは普段と何かが違う気がした。
「僕にこんな日が来るなんて思わなかった…」
明照は先程迄の恥ずかしさも忘れ、表情を蕩けさせていた。
後日、明照は、今迄殆ど使ってなかった小遣いで魔法少女グッズを古物店で山程買い漁った。両親と祖父母は当初、愕然とした。しかし数秒後、杏果との話題について行く為と勝手に思い込み、納得した。剰え、掛かった分は経費として認めてくれたので丸々キャッシュバックを受けられた。それどころか、杏果と仲良くなろうと努力する模範的な行動と看做され、臨時収入まで入った。
「偉いな、明照。今後も続けるんだぞ」
「そう云う事は最初に言いなさいね」
父、
両親が居ない間に
「最初から分かっていたとも。誰にも言わんから大丈夫」
「共通の趣味が出来て良かったじゃない」
明照はこの日、誓った。今後何が起ころうとも、一生涯、祖父母には足を向けて寝ない。
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