バケモノ遊戯

雨紅

化ケ物の仔

第壱話 ◇化ケ物の仔◇ 上



    ハア ハア



 オレハ全力デ走るル


    ハア ハア ハア



 足ガモツレル。ソレデモ走ルコトヲオレハヤメナイ。

足ノ骨ガ折レ、肉ヲ引キズル感触ガスルガ、ソレデモ走リ続ケル。



    ハア ハア ハア ハア



 モウ耳元デ五月蝿イ喘ギ声モ、オレノモノカ後ロヤツノモノナノカ分カラナクナル。



    ハア ハア ハア ハア ハア



 モウドレクライ走ッタカ分カラナイ。ソレデモオレハ走ルノヲヤメラレナイ。

 ダッテ、後ロカラハアイツガ――――



    ハア ハア ハア ハア ハア ハア



 息ヲ吸イ込ム――――息ヲ吐ク――――ソシテドンドン深ク―――――――― ソレヲ繰リ返シテ ――――



    ハア ハア ハア ハア ハア



 ソウイエバドウシテオレハ走ッテ――――



    ハア ハア ハア ハア



 ソウイエバドウシテオレハココニ――――



    ハア ハア ハア



 ソウイエバ何処ニオレハ行コウト――――



    ハア ハア



 後ロニハナニガ――――――――――――




    グシャアアアアアアアアッッッッッッッッッッ




 肉が引き裂かれ、骨が崩れ、生命の源が食い荒らされる音がする


その痛みはどんどんオレの存在が消えてくると警鐘を鳴らす


言葉にならない悲鳴の代わりに、ヌメヌメした紫紺の血が口から溢れる



ああそっか――――




    「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」




    オレはコイツを――――



        「もっとだ、もっとよこせ!貴様の叫びをッ――――」



 殺そうと――――――――――――――――――――ッッッッッッッッッッ







    「もおーっと♡」








   ☆★☆







「ふむ、それで?」


 俺は机の上に置かれた写真から目を話し、目の前の依頼人を見上げる。


「どうか、あの人を殺した物を見つけて殺してください!」


 興奮したように叫ぶ女性を見、俺はため息を漏らした。


「ちょっと待って下さい。あなたは私が誰なのか知ってこちらに来たのですよね?」


 俺が不満をダダ漏れさせながら問うと、目の前の女性は少し冷静になってそのきれいな青い日本人離れした目で俺を見据えた。


「ええ、もちろんです。見苦しいところをお見せしましたわ、Mr.神峯ミスター・カミネわたくしの情報と一般的市民階級の者たちの噂では、貴方は怪異探偵・神峰真也かみねしんや様のご子息、怪異探偵・神峰鏡夜かみねきょうや様でしょう?」


 きれいな発音でそう言い放つ目の前の女性に、俺は満足げに頷きながら言う。


「はい、たしかに私は怪異探偵をやってはいますが、その怪異の殺害までは請け負っていません。殺害もお望みでしたら、腕のいい専門の業者を紹介しましょう。ですので、今回の依頼は龍院誠りゅういんまことさんを殺害した怪異の調査でよろしいですね?龍院咲來さきさん」


 物を言わせぬ営業スマイルで言い切る俺に、女性はその目に余裕の光を浮かべながらゆっくりと上流階級者の雰囲気を漂わせながら喋る。



「でも、貴方のお母様はかの有名な怪異殺しの『一ツ目の乙女』でしょう?

 つまり、貴方にも怪異の血が1/4流れています。別に私は貴方がどうなろうと、あの人の敵を撃てたらどうでもいいの。例えば、――――」


 机に身を乗り出し、咲來さんは俺の耳元で言う。



「――――貴方が無名の怪異駆除機関に存在ごと抹消されてもね。」



 咲來さんは恐ろしいことを言うように体の奥まで響く声で言った。


 たしかにそのような組織のことは知っているが所詮ヒトだ。


 殺されはしないが後々厄介になってきそうだから、俺は恐ろしいものを聞いたかのように一瞬真っ青になって見せる。


 そしてすぐに営業モードに戻って言った。



「では、件の怪異の調査並びに殺害ということでよろしいですね?

 では通常料金に殺害料として14割増しで126,720円になります。また、依頼達成の暁にはお約束の品をいただきます。もし依頼を達成できなかったときには8割の金額返済となります。まあ、達成できなかったことは今までありませんでしたがね。」



 それを見て依頼人は満足したかのように頷く。



「ええ、それで構いませんわ。では、こちらが当家が所有しているかの事件に関する資料ですわ。そして、なにか困ったことがお有りでしたらこちらにご連絡を。人類が相手でしたらそれなりにお相手ができますので。では御免遊ばせ。」



 名刺と各種資料を机に残し、部屋にいたゴツいボディーガードを引き連れ、依頼人は勝手に部屋を出ていった。


 部屋に残された俺は座っていたソファの背もたれに五体投地し、大きくため息を吐きながら意気込んだ。






 じゃ依頼でも終わらそうか

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る