とある神社のゆく年くる年

さち

とある神社のゆく年くる年

 雪がちらちらと降る大晦日。大きな神社には新年を迎えると同時に初詣をしようという参拝客で賑わっている。そんな神社から程近い場所。小高い山の頂上にあり、足場が悪く夜に参拝する人はいない小さな神社。その境内には賑やかな音が響いていた。もちろん、その音は人間には聞こえない。


「もうすぐ年が明ける。やれめでたや!」

「ささ、一献どうぞ」

賑やかにどんちゃん騒ぎをしているのはこの辺りを縄張りにしている妖怪たち。狸や狐、猫又に小鬼に天狗。酒樽を中央におき皆が楽しく酒を酌み交わす。ぽわりぽわりと浮かぶまるで海月のような妖怪たちがぼんやり光って境内を明るく照らしていた。

「ここに集うものたちも少なくなったな」

社に座って盃を傾けるのはこの神社に奉られた神。彼の方の言葉にそばにいた妖怪たちはしゅんとした。

「人間たちが増えれば我らの住処は減りまする。今の人間たちは我らを恐れたりもしませぬから」

「電気が通り、暗闇が減った。人間たちにとっては良いことでも、おぬしたちには辛いことよな」

「仕方ありません。これも時代の流れと思っております」

神の言葉に苦笑するのはこの辺りの狐をまとめる長だった。他の狐より体が大きく力もある。それでも往時に比べればかなり衰えてしまっていた。

「詮無いことを言った。許せよ。今日は存分に楽しむが良い」

神は静かに言うと楽しく騒ぐ妖怪たちに目を向けた。

 この神社は昔から夜に登るには足場が悪かった。それでも昔は新年を迎えると同時に参拝にくるものもいたが、近くに大きく立派な神社ができると皆そちらに行くようになった。その頃から大晦日の夜は近くに住まう妖怪たちを集めて宴を開くようになった。

 神も妖怪も人間が信じてくれなければ力は衰える。いつ消えてしまうかもしれない妖怪たちは大晦日の夜、この神社に集まって楽しむのだ。もしかしたら明日消えてしまうかもしれない恐怖を振り払い、今年も会えた同胞と再会を喜んで酒を酌み交わし、今年は来なかった同胞を偲んだ。


 ここに集まるのはせいぜい人を驚かせるだけの妖怪たちだ。人間に害を成すようなものはいない。そのせいか、姿かたちもどこか愛嬌がある。狐や狸は愛らしい童子に化けて舞い躍り、小鬼と天狗は太鼓や笛を奏でる。ぽわりぽわりと浮かぶ海月のような妖怪にぽよんぽよんと跳び跳ねる水風船のような妖怪。猫又は美しい美女に化けて妖怪の長たちに酌をしていた。

「ああ、楽しいなあ」

妖怪たちが歌い騒ぎ、舞い踊る様を見て神が穏やかに微笑む。そうしているうちにどこからか除夜の鐘が聞こえてきた。

「おや、そろそろ年が明けますね」

狐の長の言葉にそれまでどんちゃん騒ぎをしていた妖怪たちが静かになる。妖怪たちは簡単に片付けをすると社の前に並んで座った。

「「神様、新年明けましておめでとうございます!」」

年が明けると同時に妖怪たちが声をそろえて神様に挨拶して頭を下げる。神様は嬉しそうに微笑みながらそれを見つめた。

「おめでとう。またこうして宴を開けたことを嬉しく思う。今年の大晦日もこのように賑やかに過ごしたいものだ。皆、今年も息災で過ごすが良い」

神様の言葉に一同が頭を下げる。そして再びどんちゃん騒ぎが始まった。

 年送りの宴から年始めの宴に名前を変えて、神様と妖怪たちの秘密の宴は朝方まで続けられたのだった。

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