脳内アイアンガール

房宗 兵征

プロローグ

雷が止まない嵐の深夜。

住宅街の一室で少女は目覚めた。


「うえっ気持ち悪い・・・」


最悪の目覚めだ、頭の中で機関銃が暴発してる。

二日酔いか?毎度思うが、この二日酔いは世の中に必要なのか?

どこかのお偉いさんよ、この神経を消す発明をしてくれ。

昨日の俺はだいぶ飲んだのか?いや、駄目だ思い出せない。

俺はいつ帰って、いつの間に寝たんだ?昨日の記憶が全くない。


それに、そもそもの大前提として


ここはどこなんだ?


「っち!わからねぇ・・・・・・それより・・うえっ」


胃からこみあげてくるいやな酸味。

俺は部屋を見回わそうとしたが、バランスを崩してベットから転げ落ちてしまった。

転げ落ちた衝撃で、調子づく吐き気。

たまらず、はけ口になる受け皿を探しすべく立ち上がろうとした。


「まったく・・なんなん・・ん?」


だが、俺はある異変に気付いた。

あれ、なんだこれは。

下半身が、動かない?


あまりに飲みすぎて変になったのか?立ち上がろうと力を入れるがひざを曲げられない。

今は深夜なのだろうか、部屋は暗く周りがよく見えない。

するとタイミングよく堕ちた落雷の明かりが部屋を照らしてくれた。

見上げた目先に半開きの扉をみつけ、俺は希望を込めてこみ上げる吐き気を我慢して這いつくばって進んだ。上半身に違和感を感じたが、今はそれどころではない。

知らない部屋ではあるが、床に汚物をまき散らすのは俺のモラルに欠ける。

やっとの思いで着いた扉の先はユニットバスらしく、ありがたいことに便座が見えた。


「うえぇ・・・・・・」


俺は、体の中身すべて出るんじゃないかと思うくらい汚物をリバースした。

マーライオンなんて可愛い表現を聞いたことがあるが、こんなんで観光スポットになれるんなら儲けもんだな。


それからしばらく動けないままどれくらい時間が経っただろうか、やっとましな思考ができるようになってきた。


「それにしても、・・・ここはどこだ?」


冷え切った動かない下半身を摩る。感触はわかるのだが、動く気配がない。

冷静になればなるほどこの状況が理解できず、俺はユニットバスの天井を見上げた。

わからないことばかりで、思考が追い付かない。

ただでさえ気持ち悪い上に、体中に違和感がある。

体が重い、薬でも投与されたのだろうか。


「くそ、何も・・考えられない・・・」


視界がぼやけ、意識が薄れる。

俺はそのまま重たい瞼の欲望に負け、床に倒れこんだ・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「ゴトン!」


・・眠りかけの意識が大きな音に覚まされた。

また雷が落ちたのか?それにしては鈍い音だったな。

リバースしたおかげで、体調は先ほどに比べれば大分ましだが、それでも頭痛が止まない。


「なんなんだよ、まったく・・・・・・」


顔に触れる床が冷たくて気持ち悪い。そうか、盛大に吐いた後、眠ろうとしていたのか。

立ち上がろうとするが、やはり足に力が入らない。

麻酔か何かが解けていないのだろうか。

俺は寝そべったまま、先ほどの物音がした部屋の方を見る。


「コト・・・コト・・・コト・・・」


微かだが、暗がりの中を何かが近づいてくるのが見える。

人ではない。なんだか小さいな? 

奇妙な物体が目前まで迫ると、扉のふちにつっかえて動きを止めた。

窓を打ち付ける雨音が強くなり、また雷が部屋を明るめる。

逆光び曝され、形状と大きさが明確になったそれを見て肝を冷やした。


「なんだこれは・・・」


一瞬見えただけだ、見間違えかもしれない。

だがこれは・・・・・・


「人の首か?」


暗闇の室内。そして目の前には、液体に入った人間の首が転がっているのだ。

おかしな状況に、やばい状況が付け加えられる。

俺は異物を確かめるべく体を起こし、異物に恐る恐る手を伸ばす。

それは冷たい触感で、確かな重みがある。

そしてまた雷が鳴った。

やまない嵐が再び部屋を照らすと、違和感が確かな恐怖へと変わった。


「・・・・・・」


言葉が出なかった、これは男性の首だ。

整えられた髪型、あごの骨格。髭が生えた顔。

まるで眠っているように瞼は閉ざされ、液体の中を揺れている。

ただでさえ気持ち悪いのに、追い打ちをかける男の生首。


そして何度目の落雷だっただろうか。


俺は。


その生首と目が合った。



「きゃああああああああ!」

「あああああああああああ!」


思わず叫び声をあげる俺。

そして、生首も同様に俺を見て絶叫していた。

あまりの出来事に、俺は叫ぶ生首を投げ飛ばす。


「はぁ、はぁ、なんだ、今の!?」


いや、なんだじゃない。今あの首は、叫ばなかったか?

飛び跳ねた心臓が呼吸を荒くする。

自分の見たものが信じられない、だがよくよく冷静に考えてみると、あの生首は目を開いたし、俺を見て叫び声を上げた。つまり意思があるということなのか?

まるでおとぎ話か、怪談。

そんな話聞いたこともないし信じたくもない。

もしかしたら、俺は知らぬ間に監禁されたのだろうか。知らない部屋に、思うように動かない体。そして、常識とは思えない出来事。

理解できない状況とあまりの衝撃に、どうやら堪えきれなかったようだ。

俺は再び汚物まみれの便座に再びリバースした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脳内アイアンガール 房宗 兵征 @hyousei7160

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ