第3話 幼馴染との再会②
中学時代の三年間、同じクラスだった女の子である。目の前の美女のことは覚えていないが、彼女のことはよく覚えている。なんせ、当時の
盛りに盛った金髪に、ド派手な化粧。ストリップショーでもするのかという程にスカートが短く、じゃらじゃらとアクセサリーをつけていた。
とりあえず見た目が怖い。
では、中身がどうだったかというと、うん、見た目通りのヤンキーである。校則に反した格好をしているがゆえに、先生および他の不良生徒と対立して、様々な騒動を巻き起こしていた。ただ、一般生徒に迷惑をかけることはあまりなく、最悪とまでは言えなかった。
嘘か本当かいろんな伝説を残している。
校舎の窓ガラスを全部割ったとか、バイクを盗んで暴走族とチキンレースしたとか、隣町のヤンキー集団を
彼女のバイタリティから考えるとどれも否定できないのだけど、まぁ、とにかく名実共にヤンキーであったことは俺が保証しよう。
だからだ。だから、目の前の美女と、どうしても関連性を見いだせなかった。
「えっと、新明さん? 本当に?」
「そうだよ。覚えてない?」
「いや、覚えてはいるんだけど。ずいぶん変わっているから」
「もう、男子ってほんとだめよね。ちょっと髪型変えただけでわからなくなるなんて」
「いやいや、そのレベルじゃないでしょ。あれだよ。”トランスフォーマー”のビフォアアフターくらい変わっているから」
「私、その映画見てないからリアクション取りづらいんだけど。まぁ、そうね、トーシロの知っている私って、中学の頃で、その、ちょっと荒れてたから」
「ちょっと?」
「……ちょっと」
あれがちょっとだったら、この世に不良なんて存在しないだろう。
しかし、言われてみれば
「えっと、久しぶり。新明さんは、こんなところで何しているの?」
「ちょっと、そんなよそよそしい呼び方やめてよ。
いきなり下の名前を呼び捨てとか、ハードルが高い。そもそも久しぶりに会った中学時代の知り合いなんて、赤の他人とニアリーイコールだ。なんなら、
「じゃ、良子。こんなところで何しているの?」
「おう。なんか、トーシロに呼び捨てにされるとドキッとするね」
「おまえが呼べって言ったんだろ」
「いや、ほら、きょどって、どうせ呼ばないかなって思ったから」
「あー、いろいろあって。そういうのには慣れた」
「慣れたって、うわぁ、トーシロが女慣れしているとか、ちょっときもい」
「人聞きのわるい言い方をするな。対人関係に対して、だよ。ぐいぐい来る人が多いからさ。ほら、大学ってそういう変な人多いじゃん」
「あー、それはわかるかも」
高校から大学にあがったときに何が起こるのかわからないが、人との距離感のわからない空気読めない人間に進化する奴らがいる。奴らと関わっている内に、こちらの対人スキルも強制的にレベルアップさせられる。これが、大学の教育システムだとすればよくできているといえるが。
「で、何してんの?」
「何って、大学に通っているのよ」
俺が再度問い直すと、良子はそんな
「ははは、おもしろい。で、本当は? 友達か誰かと旅行に来たのか?」
「いや、本当だから。本当に
「え? 嘘だろ。中学のとき、0点の答案を自慢げに見せびらかせていたおまえが? 何で中学を卒業できたのかわからないと同期全員が思っていたおまえが?」
「ひどい! そんなこと思われたの?」
「ここ、けっこう偏差値高いぞ。……いくら
「勉強したの! 確かにバカだったから、すごいたいへんだったけど、めちゃくちゃ勉強して、受験して受かったんだから。バカにしないでよね」
「まじか。信じられん。すっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっごくがんばったんだな。ちょっと感動だわ」
「何だかな。
わりと本気で褒めているのだけど。良子のバカさ加減というか、勉強しなさをよく覚えている。勉強にアレルギーがあって医者から止められているのではないかと思えるほどだった。
その良子が大学受験?
彼女の高校時代にいったい何があったのか。たいへん気になるところであるが。
「そうか。じゃ、そういうことで」
俺は手を振って歩みを進めた。偶然あった元ヤンの元クラスメイトかつ美人に興味がないこともないが、そもそも種族の違うもの同士である。今後、接点もないだろう。そんな女にこれ以上時間を使えるほど、俺は
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「何だ? 話は済んだだろ」
「いやいや、中学の友達に久しぶりに会ったんだよ。積もる話もあるじゃん」
「ない」
「いや、あるって。少なくとも私にはあるから」
「俺にはない。それに、今急いでいるんだ」
「そうなんだ。まさか彼女?」
「バイトだ。彼女は募集中」
「何だ、童貞か」
「おい」
そうだけど、そうとは限らないじゃん。断定するのはよくないと思う。ほら、男のプライド的なものを守るためにさ。
俺が言い返そうとしたとき、広場の方で歓声が上がった。何かイベントが始まったようである。俺が、音の鳴る方に視線を向けようとしたとき、良子がさっと駆けだした。
「ごめん、トーシロ。私も用事ができたわ。連絡先を交換、している時間はないから、誰かに聞いて連絡するから。無視すんなよ」
突然、声をかけてきたくせに勝手に去っていく女、新明良子。見た目は変わっても、自由なところは中学の頃のままだ。
走っていく彼女の後ろ姿を見て、ふと懐かしくなった。それほど楽しい思いでもなかったはずなのだけれども。過去とは美化されるものである。
「さて、俺も行くか」
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