第二十一話 『最古ノ魔術師』
老翁の面をつけたモノは、魔法陣を空中に浮かべた。それは氷魔法――そして、立体魔法陣構造。
古代魔法だと確信した瞬間、俺は駆け出していた。雨が強さを増し、風も吹き付けてくる。だがそんなことは気にしていられない。
コイツは――俺を狙っている。
そう確信したからこそ、二人の令嬢から離れた。勿論――二人の魔力は捕捉したので、何かあれば魔法によって干渉は出来る。
氷魔法が放たれるはずの魔法陣はしかし――色を変え、赤く染まる。そのモノは、表情こそ見えないものの、驚愕の息を漏らした。
「魔法陣の乗っ取りなんて、見たことないだろ?」
俺は自分の口角が上がるのを感じた。いけない。これは悪い癖だ。戦闘に対してこんな感情を持ってはいけない。
「『灼ケ付ク世界』」
魔法陣から炎が迸る。魔力によって生み出された炎は――水によって勢いが弱まることはない。
俺に対するモノは、炎に氷魔法をぶつけて相殺した。が、俺はもう一つ魔法陣を足元に生み出していた。
「『孤独ナ氷ノ時』」
氷塊が――人を包んでしまえるほどの氷塊が生み出され、ソレに向かって飛んだ。ソレはまた対抗する属性の火属性魔法を発動し、相殺する。
しかし俺の本命は脚だ。
地面を強く蹴り、跳び上がって、左脚を自分の体に引き付ける。そしてソレの胸部に突きこんだ――が。
手ごたえがないことに違和感を覚え、振り抜くつもりだった左脚を、つま先がソレに当たった時点で引き戻し、蹴りの反作用で後方へと大きく跳んだ。
ソレは後方にのけ反ったが、すぐに体勢を立て直した。
「……そうか。お前、『最古ノ魔術師』か」
なら俺を狙うことにも納得がいく。最古ノ魔術師の保有者には、古代魔法の知識が与えられる。
古代魔法の知識。
それは、俺が研究し、世界に広めようとしているもので――。
「そんなことでなくなるアドバンテージなんて、元からあってないようなものだと思うけどな」
ソレはまた魔法を発動する。
俺は――今度はその魔法陣を消滅させた。魔法陣の基礎となる構造――それを形成する魔力を俺の魔力に置き換える。操作が自在になったそれを、一瞬で消す。
そういう過程を瞬きの間に終えると、まさに、目を疑うような魔法に見える。
「そろそろ終わりにしようか……『光ヲ求メシ虚無』」
知識として知っているだろう。それは、古代魔法の極致に近い場所にある魔法。
闇の、その果てに向かえ。
「……ん?」
魔法陣が発動する寸前に、ソレはまた魔法陣を生み出した。構成は――火魔法?何故。
そう思った直後。
ソレの姿は消え去っていた。
「……お前。そりゃないだろ」
攻撃魔法の研究を終えずに――攻撃魔法に見える逃走用の魔法なんて――開発するなよ。
――全てが幻想だったかのように、雲は消え、雨は止んでいた。
夢と現の狭間の揺らぎが、跡形もなく消え去っていた。
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