王女である妹と貴族の令嬢の先生になったんだが、勉強のご褒美に頭を撫でると彼女たちが笑顔になるのは俺に異能でもあるからだろうか。
古澄典雪
第一話 妹の頭を撫でるだけの簡単なお仕事
「……満点」
俺は目の前にいる少女から差し出されたテスト用紙に点数を書き込んで、返却する。
これは今日の授業の内容を理解しているかのテストであり、授業の中では教えなかった解法を用いる応用的な問題が幾つかあった。かなり難しく作ったはずだし、ケアレスミスを誘発させるような意地悪な問題も組み込んだんだけどな……。
少女――陽光を有らん限り吸って自信ありげに揺れる向日葵が放つような、そんな黄金の輝きを纏った髪をポニーテールにまとめた少女が、俺に向かって微笑んだ。
彼女はこの国の第一王女であり、俺の妹の、夏城彩希。
「……難しくなかったか?これ」
「ちょっと難しいとは思いましたけど……」
「満点じゃんかよ……しかも制限時間を半分も残してるじゃんかよ……」
「兄様の授業が分かりやすいからですよ」
彼女はそう言うが、いやしかし――と俺はテストの問題を振り返る。
もし俺が、自分が今日やった授業を同じように受けたとして、こんな問題が解けるかと言われると……今日の青空のように脳天が澄み渡っているときに頑張って五割だな。
……見栄張りました。四割です。
「……兄様?」
「はい」
「満点、でしたよ?」
「……はい」
彼女が点数をただ口に出しているのでない事は明白である。満点の褒美を要求されているのだ。
「……分かったよ……………」
物品を要求されているわけではない。俺自身に負担がかかるような内容でもない。それは分かっている。しかし、返事が余計な重しを散々つけて『……』塗れになってしまうのには理由がある。
俺は静かに右手を持ち上げた。そして俺の目線より少しばかり低い位置にある彼女の頭に触れる。ポニーテールが解けないように気を付けながら、梳くように緩く手を動かす。俺の手から癒し成分が出ている訳でもあるまいに、目を細める彼女は幸せそうに見える。……むしろ俺が癒されてるまであるが。
何にせよ、清流に手を浸してその流れを感じるような気分だった。
聡明な彼女ならば恐らく、自分で教本を読めば俺が教えるよりも早く知識や技能を身につけられるだろう。
もし授業が退屈だったら受けなくてもいいんだぞ、と言ったことがある。
そんなことを彼女に――彼女達に話すと、決まって、全然そんなことありません、と否定するのだが……。
今日のテスト結果やこれまでの成績を見るに、実質俺がしている仕事って、妹達の頭を撫でることだけなんじゃないかと、思ったりもする。思ったりしながら頭を撫で続ける。
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