第4話 いたぶられた宮子。~助けに来たターク様~

 場所:タークの屋敷(地下牢)

 語り:小鳥遊たかなし宮子

 *************



 うとうとしはじめてから、どれくらい経っただろうか。ふと気付くと、牢屋の前に、私をここまでかついできた三人の大男のうち、二人が戻ってきていた。



 ――日本に戻ってない……。残念、悪夢の続きだわ……。



 あらためて見る男たち。


 一人はかなり大きくてムキムキしている。身長は二メートルを超えていそうだ。体はもちろんだけど、顔が驚くほど大きくて、「グヘ」と下品な笑いかたをするのが耳につく。


 もう一人も街にいたら、絶対近づかないくらいには大きい男だ。一人目の男よりは小さいけれど、腕と肩が異様にゴツい。


 男達は気持ちの悪い笑顔を浮かべながら、めるように私を観察した。目尻が異様に下がっていてひどく不気味だ。


 ゾワッと寒気を感じた私は、ベッドの奥へと後退りした。



「グヘ。捨てられたゴイムか。タークのダンナがをかけてたが、見たところまだ傷だらけだナ」



 男達はついに牢屋の鍵を開け、身をかがめて中に入ってきた。「ひっ」と声をあげると、両腕をつかまれ壁に押しつけられる。



「ワワ。少し眠ったようでゲスよ。いまなら結構絞れそうでゲス」


「グヘヘ。そうだナ」


 ――なんの話!?



 牢屋の奥の隅に追いやられ、目の前には山のような大男。横からも別の男が覗き込んで、もうどこにも逃げ場はない。


 青ざめた顔で大きい方の男を見上げると、ペチペチと頬を撫でたたかれた。



「グヘ。タークのダンナは王都まで行ったから、すぐには帰ってこねぇゾ。傷が急に悪化して死んだとでも言っておけばバレはしねぇゾ」


 ――え、なんか、ものすごく物騒なこと言ってない……?



 目の前にせまる大男の顔。


 鼻も口も驚くほど大きくて、歯は茶色いし、それになんだかすごく臭い!


 焦りで見開いた目が閉じられず、男の顔をまじまじと見てしまった私は、その不潔さに顔をしかめた。



 ――うわ……じっくり見るんじゃなかった……。



 私は、できる限り男たちから顔をそむけ、ぎゅっと目を閉じた。



「ワワ。捨てられたゴイムをわざわざ治療するなんて、タークのダンナはちっと変わり者でゲスな」


「グヘ。なに考えてるかさっぱりわからねぇゾ。だがオレっちからしたら、あんなのはちいせぇガキだゾ」


「ワワ。弱ってるみてぇだったし、ちっともこわくねぇでゲスな」



 そんなことを言いながら、大男は私の太ももをさすさすと撫ではじめた。そのままその手でワンピースの裾をつかみ、まくりあげていく。



 ――やっぱり、いやらしい事をしようとしているの? 二人がかりで!?



 私がビクッと足を動かしたそのとき、「ふん!」と、巨大なこぶしが、太もものうえに振り下ろされた。



「ぎゃぁぁ! いやぁ……!」



 へし折れた足が、おかしな方向へ曲がっている。



 ――信じられない……! 拳で人の脚を叩き折るなんて!



 強烈な痛みで全身の血の気がみるみる引いていく。



「ワワ。うるせぇでゲス。お前、いきなりでゲスな」


「グヘヘ。まずは逃げれねぇようにしねぇとナ」



 今日は泣かないと決めていた私だけど、これはもう泣かずにはいられない。泣き叫ぶ私を見た男たちは、下品な顔を見合わせてニタニタと笑った。



「た、たすけ……助けて!」



 必死に出した声は喉にからまって、か弱く詰まるばかりだった。



 ――殺される!



 男の手が私の腕をはなした瞬間、私は必死に腕を振り回し、大男の鼻の頭をなぐった。鼻をおさえて呻く男の隙をついて、ベッドから転がり落ちる。



「ぎゃぁぁ!」



 落ちた衝撃で、折れた足が痛んで、私はまた悲痛な叫び声をあげた。そんな私を男達は楽しそうに取りかこむ。


 男は私の髪を掴み、ぼこぼこした石の壁に、頭をゴンッと打ちつけた。



「グヘ。ゴイムの扱いはこれが正解ダ」


「ワワ。これっぽっちでゲスか?」



 意味不明な男たちの会話が遠くかすれていく……。



 ――ゴイムって何? どうして私、こんな目に遭ってるの?


 ――私、死んだわ……。ううん、あの山で倒れたとき、もう死んでいたのかも。



 痛みと恐怖が限界を超え、私は意識を失った。



      △



「お前たち、なにをしている!」



 地下牢に大きな声が木霊こだまして、私は意識を取り戻した。


 気を失っている間に、男たちにかなりいたぶられたらしく、身体中がとんでもなく痛い。



 ――……あれは……ターク様……?



 そう思った瞬間、私のうえに覆いかぶさっていた大男が、ブゥン! っと空中に持ちあがった。


 そのまま天井にガンっとぶつかった男は、白目をむいて石の床に落下した。


 唖然あぜんとしているもう一人の男の腕を、ターク様がつかむ。



「ワワ。旦那、どうしてここにいるんでゲス?」


「なにをしていると聞いているんだ」


「ワワ。あのっその、ちょっと必要に迫られて……」


「手出しはするなと言ったはずだ」



 怒りに顔をゆがませたターク様が、男のゴツイ腕をねじりあげる。二倍近い体格差があるというのに、ターク様の腕力は規格外のようだった。



「ぎゃーーー!」



 掴まれた腕がゴキッっと音をたてて折れると、男は悲鳴をあげてしゃがみ込んだ。


 ものすごい目つきで男たちをにらみつけたターク様は、羽織っていたマントを私にかぶせると、そっと私を抱きあげた。


 とたんに全身が金色の光に包まれ、光の粒子が肌に吸い込まれていく。なんだかすごくくすぐったくて、頭は余計にぼーっとした。



 ――体の力が抜けてく……。


「まったく、勝手な奴らだ。頭が冷えるまでここに入っていろ。いまは魔力が少ない。お前たちの治療はあとだ」


 ――って……その人たち、治療するつもりなんですか……?



 ターク様は男たちを地下牢に残し、私を抱いたまま薄暗い螺旋階段を登りはじめた。


 地上に出ると、外はすっかり夜になっていた。




*************

<後書き>


 地下牢で居眠りしたら大男たちに何故かいたぶられてしまった宮子。戻って来たターク様は男たちを懲らしめると、宮子を抱きあげ自分の部屋に連れて帰ります。


 大剣を背負っているだけあって腕力がすごそうなターク様です。


 次回、宮子はターク様からとんでもない治療を受けます。


 


※近況ノートに挿絵があります。併せてごらんください。

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