第2話帰還

 無事に地球に帰還する。


 ――――だがたどり着いた我が家では、想像を超える事件が起きていた。


「――――っ⁉ か、母さん⁉ そんな……」


 なんと世界で一人だけの家族である母が、難病にかかり大学病院に入院していたのだ。


 しかも現代の科学では治療が不可能。

 死亡率は99%の難病だった。


「そ、そんな……せっかく帰ってきたのに、俺はなんて無力なんだ……」


 異世界では万能であった勇者の力は、この現世では使えない。

 目を覚まさないままの母親を前にして、自分の無力感に押し潰されそうになる。


「……難病……」


 そんな中、俺はある可能性に気がつく。


「――――っ⁉ そうだ……《霊薬エリクサー》なら⁉」


 勇者の力は地球では使えない。

 だが異世界のアイテムは地球でも使用可能なのだ。


「それなら一度取りに戻って⁉」


《次元石》を使えば異世界ファザールに帰還することが可能。

 預けていた《霊薬エリクサー》を今後は持って、地球に帰還するばいいのだ。


「そういえば今の月の満ち欠けで帰還したら、ペナルティー発生するな」


《次元石》は連続で使用することで、ペナルティーが発生する。

 具体的な内容としては『大幅なレベルダウン』。異世界に戻っても最強の力は半分くらいになってしまうのだ。


「いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。レベルダウンなんて関係なく、アイツらな俺に《霊薬エリクサー》を分けてくれるだろう」


《霊薬エリクサー》は世界に数個しかない貴重なアイテム。

 だが元々は全て俺が手に入れて、仲間に譲渡してきたものだ。

 だから事情を話したら、必ず快く《霊薬エリクサー》を分けてくれるだろう。


「母さん、待っていてね。すぐに戻ってくるから」


 余命、三か月の母と別れ、俺は《次元石》を発動。


 ――――ファーン!


(時差的に到着するのは、数年後のファザールか。どうなっているんだろうな、あっちは。きっと美しい国で、誰もが笑顔になっているのだろうな……)


 こうして俺は《次元石》を使い、第二の故郷の異世界ファザールへ帰還するのであった。



 ◇


 だが帰還したファザールは、予想外の光景が広がっていた。


「な、なんだ……ここは⁉ 違う場所に来てしまったのか⁉」


“時空の神殿”に到着して言葉を失う。

 神殿は見る影もなく破壊されたていたのだ。


「まさか、魔王が復活したのか⁉」


 帰還から数年が経っている計算。

 嫌な予感がした俺は、すぐに駆け出す。

“時空の神殿”から王都へと移動していく。


 ◇


 だが街道を移動しながら、住民に聞き込みをしていながら、自分の予想が外れていたことを知る。


 まず俺が帰還してからファザールでは3年が経っていた。


 だが魔族はまだ残っているが、魔王は復活していない。


「そ、そんな……!?」


“時空の神殿”が破壊した人物は、魔族でないことを知る。


 そして美しいファザールの国土がこれほど荒れ果てているのは、ある人物の責任だと。


「そんな馬鹿な……そんなの絶対に嘘だ……アイツらが、こんなことをするはずは絶対にない……」


 道中の市民の話を聞いても、俺は信じていなかった。


 だから本人たちに確認をするために、王城へと登城するのであった。


 ◇


 懐かしの王城に帰還する。

 だが以前とは違い、重い雰囲気に激変していた。


「お、お止まりください、レイジ様⁉」


 王城の守備兵は俺の顔を覚えていたが、必死に制止してくる。


 だが俺は構わず失政室に向かう。

 一刻も早く現国王に事情を聞きたいのだ。


 守備兵を強引に突破しながら、王座の間に到着。


「おい、これはどういうことだ⁉」


 王座にいた人物に……いや、かつての“仲間である男”に俺は問い詰める。


「お前、どうしてこんな愚かなことをしているんだ⁉ あの美しいファザールを、どうしてここまで圧政で⁉」


 たった三年でファザールを激変させたのは、かつての仲間の一人が原因だったのだ。


「どうしてだ、エルトラン⁉」


 王座に座り眉をひそめているのは元剣聖エルトラン。


 住民の話によると、この男が王になってから圧政を開始。


 重税で国民を苦しめ、横暴の限りを繰り返し。


 自由市民だったエルフやドワーフなど亜人を法律で奴隷化。

 魔王で国土が荒れた時よりも酷い圧政を、開始したというのだ。


「落ち着け、レイジ。こっちの世界にも色々とあったのさ。それより、帰還が早かったな? どうした?」


 俺に問い詰められても、エルトランは悪びれた様子はない。

 冷酷な口調で話をそらしてくる。


「くっ――――実は《霊薬エリクサー》を分けて欲しいんだ……」


 本当は今すぐエルトランを殴ってでも、改心させたい。

 だが俺はあくまでも別世界からの来訪者で、部外者でもある。


 あと、第一に、今の俺には時間がない。

 余命数ヶ月の母のためにも、一秒でも早く《霊薬エリクサー》を持って帰還する必要があるのだ。


 俺は感情を殺しながら、自分の事情を話していく。


「《霊薬エリクサー》だと? ああ、もちろんだ。着いて来い」


 エルトランは快く承諾してくれた。

《霊薬エリクサー》は王城の地下の宝物庫に、厳重に保管されている。


 エルトランの指示に従い、家臣がもってきてくれることになった。


 その待ち時間に、俺は先ほどの話を深堀していく。


「なぁ、エルトラン。道中の噂で聞いたんだが、“時空の神殿”を破壊したのは……本当にお前の命令なのか?」


 俺は感情的にならないように問い詰めていく。

 市民の噂の方が間違いの可能性もある。

 間違いであることを祈りながら、真実を訊ねていく。


「……ああ。その噂は本当だ。この私が“時空の神殿”を破壊した」


 だがエルトランの口から出た言葉は信じられないものであった。


「――――っ⁉ なんだって、どうして⁉ “時空の神殿”は俺たち5人の大事な場所だろ⁉ 俺が帰還するための大事な場所なのにどうして⁉」


 噂は本当だった。

 まさかの事実に、俺は何が起きているか理解できなくなっしまう。


「そんなのは単純さ。お前に帰還されると面倒だったからさ」


「な、なんだと……⁉ どういうことだ、エルトラン⁉」


「まだ気がつかないのか? レイジ?」


 更に問い詰めようよした時だった。


「――――っな……」


 俺は身体が動かないことに気がつく。

 全身に目に見えない魔力の網で、俺は拘束されていたのだ。


「こ、この魔法は……まさか……」


 弱体化しているとは、俺は最強の元勇者。拘束できる魔法を使えるのはファザールでただ一人しかない。


「ふう……お待たせしました。えエルトラン」


 その一人、かつての仲間の一人賢者ラーナスが、王座の間に姿を現す。


「遅いぞ、ラーナス」


 二人は示し合わせたように、会話を始める。


「ど、どういうことだ、ラーナス? はやく、この拘束の術を解いてくれないか? 俺は早く《霊薬エリクサー》を持って帰還しないといけないんだ……」


 新たなる仲間との再会を、喜んでいる時間はないのだ。


「拘束を解いてくれ、ですか? まだ、気がつかないんですか、レイジ? 本当にお人よしですね、貴方は?」


「いい加減気が付けよ、レイジ。お前はこのまま死ぬんだ。国家転覆罪でな」


 二人は不敵な笑みを浮かべていた。


 更にエルトランは《大竜剣グンニール》を抜いて戦闘準備に入る。

 ラーナスも《大魔導士の杖》を構えて攻撃魔法を詠唱する。


「ふ、二人とも……一体何を……」


「まだ気がつかないのか? 相変わらずお人よしだな。お前は前から目ざわりだったんだよ? この異世界人エイリアンめ」


「私たちの目的のためには、貴方の帰還と存在は邪魔だった、ということですよ、レイジ」


「――――っな……」


 二人の口から出てきた言葉を聞いて、俺は頭の中を殴られたような衝撃を受ける。


 一体何を言っているのか理解できない。


 だが冗談ではないことは間違いない。


 ――――この二人は俺を殺そうとしているのだ。


「「死ねぇ!」」


 危険な斬撃と攻撃魔法が、俺に放たれてきた。

 魔王にする多大なダメージを与えた超攻撃。


 何の装備を持たない今の俺にとって、レベルダウンした俺には防御すらできない攻撃だ。


「――――っ、くっ……《緊急離脱エスケープ》!」


 俺は咄嗟に脱出スキルを発動。

 仲間に見せたことがない、勇者だけの緊急スキルだ。


 ――――シュワン!


 脱出はギリギリのところで成功。


(そ、そんな……)


 だが失意のまま俺は転移するのであった。

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