第十四回書き出し祭り 感想
火野あかり
第一会場
1-1 復讐を誓う元令嬢、目的を致して目的に致されずか
ひたすら丁寧な印象でした。
皇帝の息子と皇帝に見初められた女性の娘の二代目コンビというのは好みです。
個人的には息子が毒舌だともっと刺さります。笑
ただ私自身が中華ものをあまり知らず、推測こそできるものの見知らぬ単語ばかりという印象もあります。
書き出しという前提で考えるなら、もう少し一般的な単語に直してしまうなどの親切さがあるともっと良かったかも。
現段階では必要のない情報が多かったので、(役職や組織など、主人公やヒーローが属していないなら冒頭には必要ないかなと)そこを削って主人公の人間性などに触れて進めるとかなり良くなりそうです。
正直に言うなら、見知らぬ単語の羅列が続くと内容に没入する前に躓いてしまう……。
三人称であれば、現代で誰でも知っている単語に置き換えてもそれほど違和感はありません。一人称の場合は転生などしていないと多少不自然ではありますが……。
1-2 乙女の花園にシマウマはいない
冒頭は死体を転がせ!を思い出しました。笑
まさかの人工知能もの。
死体のポーズ的に自殺かな? と思って進んで、想像していなかったデジタル世界で驚きました。
現段階ではまだ何もわからず。
殺害できないにも関わらずルールが制定されているあたり、構造的には製作者によるデスゲームなのか、それとも人工知能の進化をもくろんでいるのか……。
1-3 異世界転移した挙句、俺は利用されている。
タイトルがいいですね。
この段階で転移はいいものではなかったという情報が含まれているので、先の膨らみなど期待できます。
気になったところとしては、とんでもない状態にありながら主人公の感情の動きがあまりないというところでしょうか。
年齢の提示が作中でありませんでしたが、少年であればどんな環境下に生きていても戦争のさなかに落とされればもう少し驚いたり逃げ出したりを考えるかなと。
三人称だとどうしても主人公の視点が神視点になりがちですが、あくまで主人公が何をするか変化していくかが物語というものですので、その時々で主人公が思った感情などがちりばめてあるといいと思います。
特にこの設定だと、主人公は何も悪くない(不幸)のに望まない流れに巻き込まれていくのでしょうから、主人公そのものは共感できるように作ってあげるのが読者的にも楽しめるかなと。
私が同じものを書くなら、主人公レンのピンチから始めキャラ性提示(どんな性格?)、死んでしまうが不死身であることの描写、身の上話を少しして、転移の際に能力をもらったことを書き、ヴァミリアに状況を説明してもらいつつ、利用されるくだりに繋げて〆ます。
1-4 底辺転移配信者は異世界でバズりたい
この作品、いつの間にか書籍化してそうだなと思いました。
ネタはキャッチーですし、戦闘能力の向上がアクセス数で可視化できてるのもわかりやすいです。
惜しいなと思うところは途中三人称一人称が混ざってしまっているところ。(瀬田一心は平成生まれのゆとりっ子である。から会話文まで)
役満ディスコミュニケーションという言葉は結構好きなんですが、どうせならどう役満なのか分けて書いてしまったほうがいいかなと思いました。(けんかっ早い、流行りを知らない、SNSの文章が下手……など。そこだけで主人公の性格が定義できますし、たぶん作者さんも書きやすい)
あとは大前提としてコミュ障なんだとは思いますが、それにしては明るいし会話がスムーズなんですよね。キャラの矛盾はちょっと気になっちゃいます。
モチベーションとして、何かコンプレックスのようなものがあって、それを解消するために人気が欲しいだとか、ちょっと感情に根差したものに差し替えれば熱い展開もできそうです。
1-5 魔王様!! 勇者が攻めて来ました!!!
『おい! 勇者が来たぜ! おい! 勇者が来たぜ!』という警報にニヤけました。
主人公の性格や目的がわかっていいですね。
オタクが転生したらこうなるよなぁ……って空気がすごい。
全体的に情報の過不足なく上手いなと感じました。これ、書籍化作家さんの仕業では?
1-6 イノセント・タブー
文芸的。
あらすじから、これは大丈夫なのか……? と思って読み始めたのですが、思っていたよりずっと綺麗でした。
これから逃避行などイベントが予想できますね。
強いて言うなら、法律をぶっ壊すにあたり何か計画があるのなら、それを最後の引きに具体的に入れてしまってもいいと思いました。
クーデターを起こすぞ! みたいな。
1-7 はらぺこ仔竜の親探し
好きです。どことなく児童文学を感じさせますね。
この先少女と契約し何かしら能力を手に入れたりするのだろうなと想像できました。
優しい作風ですので、このまま優しい結末に向かってくれればと。
残念なところは主人公の容姿がわからないこと。
魔物か孤児か、と尋ねられているのできっと人間大なのだと予想はできるのですけど、ほんの少し情報量が多かったら嬉しかったです。
1-8 あの日、残酷だった俺たちは
あ、投票しよう。と読み始めてすぐ思いました。
私はこれかなり好きです。
モーニングとかスピリッツとか、その辺の漫画雑誌に載ってそうです。
残念な点をあげるなら、あまりに神視点すぎて主人公がわかりにくいことですね。
賢治が主人公だと思いますが、その賢治の主観的感情や物事を入れてもいいと思います。
久々に村に帰ってきた賢治は、懐かしさと同時に寒気のようなものも感じた。何か忘れているような気がするのだ。とかそういうのあるといいかも?
1-9 生きる屍は生きる理由を求めている
自分の死因を自分で調べていくミステリ。これも投票しようと思いました。
まず設定がわかりやすくていいですよね。
それに死を克服した社会でもイジメを克服できていないというのがまたいい。
生も死もインスタントな世の中って、わかるけど絶妙な嫌悪感があって、その嫌悪感がリードになっているのかなって思いました。
銃夢の公衆自殺装置みたいな嫌悪感がありました。(いい意味で)
私はほのかな嫌悪で読ませていく作品大好きです。
1-10 貴方の淹れる恋の香り
これ書籍化作家さんが、現代ものだから書籍化は難しい題材だろうけど、こういうの書きたいんだよなぁ……って書いた空気感じます!
不幸な主人公を助けてくれる優しいヒーロー、その障害、お仕事もの……と書きなれてる空気しかない。笑
先に配置されるであろうイベントも想像できますし、理想的な書き出しですね。
1-11 ようこそ、ようこ探偵社 事件簿ファイル零 ―北アルプスのエメラルド殺人事件―
掛け合いがいいですね。これもまた理想的に感じます。
小学生の頃に読んだきりなので詳細はあまり覚えていませんが、ズッコケ三人組を思い出しました。
謎そのものに訴求力があるのがミステリとしていいのかもしれませんが、私はこういう魅力的なキャラが解いていく系統のミステリが好きです。
1-12 パクってされた
UMA系は珍しい……!
あらすじが不気味な空気を出していてよかったです。
誰に聞いた、のところでもう少し具体的な記憶などがあればよかったかなと。
1-13 合法ロリと非合法お兄さん
少し変わった二人のラブストーリー。出てるキャラが現状普通の人いませんね。
私はこういう尖ったの好きです。
金田一蓮十郎先生が書きそうな空気。ちなみに、私が初めて買った漫画は金田一蓮十郎先生の作品でした。
最後放り投げてしまったのが少々勿体なくも感じます。
付き合うと決まってしまって、その後高校生だとわかる……などだと漫画的にはいい引きになりそうですね。
1-14 処刑人ちゃんと不死身くん
独特な世界のルールがしっかり書かれていました。
外の世界に触れてみて違和感に気づいたり、追手の処刑人が出てくるなど展開の想像がしやすいのもいいですね。
1-15 可愛い末っ子はドラゴン兄弟に溺愛されています!
これまた優しいお話ですね。
男性向けでも女性向けでもなく児童文学の佇まい。
1-16 喫茶エデン 銃好き馬鹿達の日常編
ミリタリものですね。ハードボイルドな空気感を出したいのが伝わります。
個性的なキャラ出したくなりますよね……!
私も前回提出した原稿は尖ったネクロマンサーたちがわちゃわちゃする話でした。
ただやはり気になってしまうのは形式です。
脚本なら「>視点変更:練弦心」など許されると思いますが、小説の場合はそれそのものが物語から浮いた表現になりますのであまり好ましくはないかなと。後編に続く、も書き出しである以上続きは前提ですので、文字数が勿体ないと思われます。
あとキャラが立っていない一話の場合は視点移動そのものがあまり好ましくありません。
セリフの「」も改行してしまったほうがすっきりします。
視点変更や時間軸の移動など、もう少し会話から流れていくのがいいかと思います。
店主が「ほうほう、それで?」など、合いの手を入れつつキャラ立てしていくとよさげです。聞いていく、というのはもちろんいいと思うのですが、主人公は主人公らしいほうが。
平山夢明先生の「ダイナー」などが参考になると思います。
1-17 はらぺこな竜神の娘は、満腹の力で無双する
全く関係なさそうなんですが、冒頭付近でルカを修飾する言葉がころころ変わるの好きです。(小さな、赤褐色の旅装束の、など)
ガン×ソードの主人公ヴァンがコロコロ呼び名が変わっていたのを思い出しました。
あらすじで一人旅立つと書いてあるので、ライリと別れてしまうのか……と少し悲しみ。
メタ的に言うなら、満腹のくだりを初対面で毎度説明しなくてよくなるのでライリの同行はいいのではと思いますが、ライリは街の守護なんですよね……。
文句のない書き出しだと思います。
主人公の境遇も特異性も書かれていますし、次回でさらに強さの特異性も表現されるのがわかって。
1-18 魔巧少女・オブ・ソウルメーカー
まさかの追放ものの導入。
テンプレで来られると見方が変わってしまうのが悲しいところ。追放テンプレは読者感情の動かし方が決まっているので、自由度は格段に低く、創作においてはあまり良い言い方ではありませんが、かなり明確に正解と呼べる流れが存在します。この作品の場合、設定が面白いので変に寄せていかなくてもいいのでは、と感じました。
作り手と使い手の才能が違って、それがゆえに追放という感じでしたが、現代で言うとカラシニコフ博士が戦場で使えないから追放されるみたいな流れで少し変でした。まぁ現実に優秀な科学者が一兵卒として死んでしまったような例はあるんですけど……。
実質的に一人で戦地の状況を好転させられる人物なわけで、追放するくらいなら監禁して作り続けさせるよね、と思ってしまうので、何かしら追放の根拠を固めたほうがよかったかなと。無能は無能なりの見当違いで正当な理屈が必要です。そして無能が憂慮している事柄はむしろ主人公を追放したら起きるだろうに、と読者に思わせたほうがよさそうです。
1-19 あたしの契約彼氏は恋愛小説家
青春恋愛もの。この段階で全員キャラ立ってますし、これもプロの仕事だな? と感じました。投票順位も高そう。
導入の仕方が少女漫画のそれで、読み慣れた、書き慣れた空気がにじみ出てますね。
ステキな女の子、の次の行が趣味はサークルクラッシュというくだりで笑ってしまう。ステキが一瞬で消えた。
契約彼氏についても説明されているし、理想的な書き出しでした。
1-20 自分探し中の兄からRPGを教わる事になりました。転移したので仕方なく……
主人公の人間性などとても丁寧でした。
母親が定期的に換気しているのか思春期に感じたあの匂いはあまり感じられなかった。の一文に、前述にあった遺伝子関係のくだりが効いていてよかったです。
1-21 復讐鬼は蒸気世界を救う
アニメ版「ガングレイヴ」を連想させる内容でした。(作者さん、見たことがないなら絶対好みだと思いますので是非どうぞ)(厄介オタクの顔)
キャラもできていますし、世界説明もしっかりしていますし、書き出し祭りという企画では満足度が高いと思います。
私個人がスチームパンクな世界観大好きというひいき目もありますけど!
1-22 塾帰りに異世界召喚に巻き込まれました。化学の教科書でどうしろと?
冷静なようでパニくってるのがわかって面白い。
現段階で登場人物主人公のみ、しかも別段移動していないのにこの文字数という変なところでも笑ってしまう。
もう少し展望が見えていればより一層楽しめたかなと思います。
1-23 吹きだし以外の台詞はしゃべるな
タイトルがいいですよね。こういう名前の映像作品があっても全然違和感ないです。
桃太郎が「ここから生まれました」と両親を裏切るであろうお尻。はンフと変な声出ました。
主人公の自作品についての説明がもう少しあればよかったと思います。
たとえば麗香に読み上げさせるとか、そういった要素で突如現れた美鈴について説明してよかったかと。
全体的にワードセンスは好きです。
1-24 セーフティ・ショット 〜男女兼用ってうってるヤツ、あれいろいろやばい〜
まさかのラブコメでした。
彼シャツわかる……と頭の悪い感想が浮かんでしまう。
1-25 幽霊マリカは薔薇を噛む
趣味が合う……と思いました。私はこの手の作品大好きなので投票対象です。
第一会場の私の一位は決まりです。
ちなみに、この作品だけ感想超長いです。
不思議と書籍化作家ではないだろうなと思ったのですが、そうでなくてもいずれプロになるだろうなと感じさせます。
黄昏乙女アムネジアのような空気。ただそれは要素の問題であって、「それでも町は廻っている」の歩鳥が幽霊で、それを観測している誰かが主人公という構図が近いでしょうか。
こうした独特の風習と死生観がある地域が舞台なのがいいです。
世界に一つ嘘を混ぜると物語が始まるものですけど、これはかなり上質な嘘ですね。
主人公にとっての異性の象徴で死の象徴で、また町の象徴で、色々な側面を持つマリカの作りが最高に魅力的。良くも悪くもマリカが中心でこの町が回っているのだと綺麗に書けてます。もう少し文体が綺麗めでもいいかも? ところどころ口語体でないほうが空気に合ってると思います。
書き出しとして見るなら、この作品の場合は次回どころか終わりまで情景が見えるのがとてもいいと思うのです。しかもきっと切ない。
一番いいなと思ったのは、最初の段階で別れが内包されている作りでした。
主人公はいつか町を出ていくと決めている。
最初こそ関わらず出ていくつもりだったのに、強制的に関わることになってしまった。
二人の心のありようが確実に変わるのがわかる。
先生に覚えていてほしい主人公と同じように、きっとマリカも主人公に覚えていてほしいんだろうな……と。別に主人公の個人情報が筒抜けじゃなくたって、マリカは主人公のことをきっと覚えていたんだろうなと。
マリカさんが嫌いから始まるけど、学校に引きずりだそうとしているうちに好きになっていくのが見えます。というか好きだったことに気づいていく? と言えばいいのか。
この冒頭の段階で主人公のマリカに対する仄暗い執着が見えるのがとても良き。
幽霊に魅入られて魅入ってるんですよね。きっと初恋なのも伝わってくる。
だから逃げたいんですよね。マリカは先行きのない未来の象徴でもあるじゃないですか。
なんで死んでしまったのかがわかって、人となりをわかって……。
マリカは友達がいないから学校に行かないのか、それとも周りが自分にない未来を持っているのが嫌なのか。後者だと本当に好み。
マリカの立ち位置がすごく切ない。町の外の世界では観測されないので存在できないも同然で、女子高生を卒業してしまえばアイコンが消えてしまう。
将来なんてないし掴むものもないから失う一方なんですよね。主人公が新しいアイデンティティを与えていくのがいいのでしょう。
ドタバタコメディの作りなので尚更切ない〆が想像できる。
だって幽霊なんだもの。
『いまわさん』はきっと今際の際、つまり死に際、生きても死んでもいない状態というあやふやな状態なんだもの。
禁止ワードの表現が美しいし、その内容次第ではホラー要素も作れるしで、私的にはかなり強い作品だと思いました。
赤い薔薇の花言葉は「あなたを愛してます」「愛情」「美」「情熱」「熱烈な恋」などですので、禁止ワードは口にできずとも感情は表現できる美しさがありますね。
私のデビュー作はヒロインがクーデレメイドで、主人公がその家の跡取り息子でした。
ヒロイン自身の性格だけでなく、身分差があるため気持ちを公に言葉にできず、花壇に赤い薔薇を咲かせたり主人公の部屋に飾ったり、そうしたことでアピールしていました。いつか気付いてほしいと毎日祈っている、みたいなキャラです。
そんなことを昔書いているので、当然好きですし刺さらないはずがない。
さらなる余談ですが、作者さんが知っているのかはわかりませんが、新渡戸稲造の『武士道』の中で、薔薇と桜の対比から主人公の思う武士道を書いています。
薔薇は生に執着する、桜は執着しない、という内容でした。そっちの面から見ても美しいですよね。マリカは生に執着している。(性的アピールが強いのも、生きることに執着しているという意味に捉えました)
これまで書いたものには私の想像がかなり混じっていますが、そこまで踏まえているのならとにかく文外にこめられた情報量が多い。4000字の枠を最大限に活かしきっている。様々な対比が綺麗。
この作品は一冊書いて公募に挑戦するといいと思います。プロ作家さんならどこかに企画を持ち込んでもいいのでは?
私が作るなら、N町ではなく村のまま、ダム建設などで村とともに消えていく少女という作りにするかな。
最後に卒業させてあげたいじゃない? みたいな。主人公自身、幼少期に焼き付けられたマリカの呪縛(初恋)から卒業できたり、人間的な成長も描けて、かなりポテンシャル高めですよね。
ずっと逃げだしたかった村で、なくなるのがわかってせいせいしたはずなのに、いざ終わりが見えると無性に寂しい。その原因がマリカへの執着だと気づいた主人公は、彼女の卒業と自分の執着からの卒業に向けて行動を開始する。
その過程で上に書いたような様々な事柄に気づいていって、マリカ自身の執着を解消して別れ――みたいな感じで作ります。最後はやっぱり思い残しを解消して成仏が好み。
別れに向け高めて高めて感動で〆ます。
生と死の対比はかなり気をつけて、すべてを丁寧に処理していけばかなりいい物書けそうです。ぶっちゃけ、私が書きたいなと思いました。
私が公募に出すなら「薔薇を噛む」だけでタイトル付けると思います。
――なんかヨルシカの曲名にありそう。
さぁ、急いで十万文字書いてカクヨムコンに出しましょう!
ちょうど映像化賞でホラー×○○みたいなのを募集していますよ!
少なくとも私は本で出ていたら買います。
これを書いている段階ではまだ他会場に触れていませんが、きっとこの作品が今回の書き出し祭りでは一番かな。私の中で。
超長くなってしまいました……!
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