お引っ越しの夜
数日後の夜。わたしは新居で大量のゴミの山に囲まれている。
今日は引越業者のトラックの搬入が予定より遅れて、隣近所への挨拶をするタイミングを逃してしまった。明日は日曜だから、改めてタオルを持っていこう。可愛らしくラッピングをしてもらったタオル入りの紙袋だけは潰れたりしないように、今のこの部屋の中で一番安全なベッドの上にそっと置いて、ほっと息をつく。
と同時に、思いっきりくしゃみが出た。めちゃめちゃ部屋の空気が埃っぽい。
空気を入れ替えるために、エアコンを切って窓をそっと開ける。埃が出ていくのと同時に、べっとりとした湿気が外から入り込んでくる。肌に感じる不快さはどっちもどっちだ。
窓の外の空はとっぷりと暗く、しかしながら地上は駅から続く商店街の煌々とした灯りが十分に夜の景色を明るく照らし出している。
帰り道も安心そうだし、やっぱりここに住むことにしてよかった。
部屋をあらためて見回す。
ナチュラルな色のフローリングに、同じくナチュラルなウッドベースの家具たちが置かれ、新居のために新たに買ったカラフルな色の可愛いラグは、部屋の片隅にまだ巻かれたまま、床に敷かれるのを待っている。
もう大体ゴミもまとめ終わった。でも。
わたしは立ち上がり、暑さに渇く喉を潤すものを求めて冷蔵庫を開ける。
よく冷えた緑茶のペットボトルを取り出し、それの蓋を開けながら、冷蔵庫の扉にマグネットで止めた「ごみ収集カレンダー」をチラリと見やる。
一枚めくるとごみ収集日に可愛いお花のマークが描かれた今月のカレンダー表。
その一番上には。
『ゴミ出しは、収集日の朝にしてね☆ 特に夜明け前のゴミ出しは、絶対厳禁だよ☆』
という注意書きが、ファンシーな書体なのだが、そのファンシーさを打ち消すレベルのちょっと大きすぎる文字で書かれている。ちなみに、この町の可燃ごみの収集日は、まさに明日だ。
「初日から規則やぶるのもなんだからね、ちゃんと明日の朝、早起きして捨てますよーだ」
さて、お風呂に入って今日は早く寝よう。ピカピカのお風呂にローズの香りのバスボブ入れちゃうもんね。パジャマだって今日は某おしゃれブランドの可愛いやつ、おろしちゃうんだ。
わたしはお茶を飲み干すと、鼻歌まじりにお風呂を入れる準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます