本当にうるさいんで

 

 判を押した賃貸契約の書類を受け取った担当の男性店員さん(ちょっとだけきらきらアイドル系の綺麗なタイプの方だが、左手薬指にはしっかりと輝く銀色の輪がある)が、部屋の鍵を差し出す。なんだろう、新生活への期待のせいか、普通の銀色のよくあるディンプルキーですら、妙にきらきらして見える。



 それでは、最後になりますが改めて、とアイドルさんが居住まいをただした。物件探し中に思わず聞き惚れてしまったことのある、この店員さんのちょっと素敵な低音ボイスも、今日できっと聞き納めか。そんなアホなことを思いながら、わたしもちょっと背筋を伸ばした。



「福岡さん、こちらの町は初めて、でしたよね? お住まいになるのは」



「ええ、そうです」



 ふふ、これで何回目だろう、その質問。



 思わず笑ってしまいそうになり、慌てて顔を引き締める。



 この後に続く言葉は、もう言われすぎてわかっている。



「本当にしつこくて申し訳ないんですが……。ゴミ出しの件だけはよろしくお願いしますね。本当に、ほんっとうに、色々うるさいんで……。あ、これ。念のためお渡ししておきますね」



 アイドルさんが、ちょっと申し訳なさそうな顔と共に、そっと差し出した「地区ゴミ収集カレンダー」を、わたしは受け取り「了解です」と笑った。



 その、犬やらネコやらのファンシーなイラストが飛び交う、パステルカラーの可愛らしいカレンダーの一番上に大きく書かれた文字が目に入る。



『夜二時から朝五時までは外出禁止。特にゴミ捨ては絶対しないでね☆』

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